お金

日経平均急落はなぜ起こった?暴落しやすい秋に備える投資戦略

経済とお金のはなし 山下 耕太郎

【画像出典元】「stockwars/Shutterstock.com」

8月上旬、日本の株式市場は歴史的な乱高下を経験しました。7月11日に記録した史上最高値(42,426.77円)からの下落率は一時25%に達し、過去最速のペースで下落しました。この急激な株価変動は、今後の相場の行方を左右する重要な要素として、実体経済と金融政策が注目されています。

2024年8月に日経平均株価は記録的急落

日経平均株価は、8月2日に前日比で2216円安、8月5日には4451円安と、歴代3位と1位の急落を記録しました。これにより、2024年初からの上昇分が帳消しとなり、8月9日には前日比193円高の35,025円で落ち着きましたが、8日連続で値幅が1000円を超える異例の事態が続きました。この動きは投資家にとって大きな不安材料となり、市場全体に緊張感をもたらしたのです。

日経平均株価の下落幅上位

株価下落の要因~日銀の利上げによる円キャリー取引の巻き戻し

【画像出典元】「stock.adobe.com/PaeGAG」

この急激な株価下落の背景には、7月末の日銀による利上げが関係しています。世界の中央銀行が利下げに向かう中で、日銀だけが反対の動きをしたため、円高・ドル安が進みました。この要因の1つが「円キャリー取引」の巻き戻しです。

円キャリー取引(Yen Carry Trade)は、日本の低金利を活用した投資手法の一つです。具体的には、低金利で借りた円を、より高金利の外貨や資産に投資することで利ざやを得ようとする戦略です。この取引は特に日本の金利が他国と比べて低い時期に行われやすく、円安を伴うことが多いです。

例えば、投資家が日本の銀行から低金利で円を借り、その円を売ってドルを買い、米国の高金利債券に投資するという手法が典型的です。この場合、円を借りるコスト(低い金利)と米国債券の利回りの差が利益となります。

しかし、この取引にはリスクもあります。例えば、日銀が金利を引き上げると、円を借りるコストが上がります。また、円高が進行すると借りた円を返済するためのドルを円に戻す際に、より多くのドルが必要になります。

このような状況では、円キャリー取引をしていた投資家たちは急いで円を買い戻す(ドルを売る)必要が出てきます。これが「円キャリー取引の巻き戻し」と呼ばれる現象であり、大規模な円買いが発生することで円高が進行し、それがさらに日本株の急落を引き起こすことになるのです。

秋に起こりやすい株価暴落

秋は歴史的に米国株が暴落しやすい時期として知られています。リーマンショックは2008年9月、ブラックマンデーは1987年10月、そして世界大恐慌(暗黒の木曜日)は1929年10月に発生しました。

秋に暴落が起こりやすい理由の一つは、金融機関やファンドの決算期が11~12月に集中しているため、利益確定売りが増加するからです。特に、現在のように株価が高値圏にある状況では、手仕舞い売りが加速しやすい傾向があります。

「手仕舞い売り」とは、投資家やファンドマネージャーが保有している株や金融商品を売却して、ポジションを解消することを指します。通常、利益が出ている状態でその利益を確定させるために売却しますが、時には損失を最小限に抑えるためにも行われます。特に、決算期前や株価が高値圏にあるときに行われやすく、リスクを抑えるための一環として行動することが多いです。

このような売りが増えると、株価が下がりやすくなり、秋に暴落が起こりやすい要因の一つと考えられています。

株価暴落のメカニズム

【画像出典元】「stock.adobe.com/takasu」

株価の暴落は多くの場合、投資家の心理が悪化することで発生します。リスクイベントが発生すると経済の先行きに対する不透明感が高まり、不安を感じた投資家が保有株を売却。その売りが他の投資家の不安心理をさらに高め、売りの連鎖を引き起こし、世界中の株価が暴落するというサイクルが生まれるのです。

近年、テクノロジーの発展により世界の株式市場が電子取引システムでリアルタイムに結びついているため、一国での暴落が瞬く間に他国へと波及するリスクも高まっているといえるでしょう。

暴落に備えるための対処法

株式や投資信託を長く持ち続けるつもりなら、一時的な値下がりに慌てずに保有し続けるようにします。これは、株価が将来的に回復する可能性があるからです。

また、毎月一定額で同じ銘柄や投資信託を少しずつ購入する「ドル・コスト平均法(Dollar-Cost Averaging)」を使えば、株価が下がっても平均購入価格が抑えられ、長期的には有利に働く可能性があります。ドル・コスト平均法は、一定額の資金を定期的に投資する手法です。

この方法では、投資する金額が一定であるため、株価が高いときには少ない株数を、株価が低いときには多い株数を購入することになります。結果として、購入する株式や投資信託の平均取得価格が平準化されるため、市場のタイミングを気にせずに投資を続けることができるというメリットがあります。

マーケット乱高下への心構え

【画像出典元】「stock.adobe.com/aLListar/peopleimages.com」

株式市場は常に変動しており、株価が急落することもありますがこうした動きに対して冷静に対応するための心構えが重要です。そして、余裕資金で投資を行うことが基本となります。余裕資金とは、毎月の収入から必要な支出を差し引いた残りであり、これで投資を行えば、仮に損失が出ても生活に大きな影響はありません。

投資は、明確な目的と計画を持って行うべきものであり、ゲーム感覚で取り組むべきではありません。成功するためには、冷静さと計画性が不可欠なのです。

※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。