税務署はココを見る!税理士が教える相続税のリアルな税務調査
監修・ライター
相続税に関する税務調査は、所得税や法人税と比べてかなり高い確率で調査が行われるといわれています。税務署はどのように相続の税務調査を進めているのか。今回は税理士である筆者が実際の調査立ち合いであった現場をリアルにお伝えします。
相続税の税務調査とは?調査に来る確率は20%
相続税の申告を行った後に税務署が調査に来る確率は、一般的に約20%といわれています。これは10件の申告書提出に対して2件が調査対象となる割合で、所得税や法人税の税務調査の確率に比べるとかなり高い確率です。
さらに、国税庁が令和5年12月に発表した「令和4事務年度の相続税の調査等の状況」(期間:令和4年7月~令和5年6月)のレポートではこんな数値が公表されています。
①相続税の実地税務調査件数:8196件
②実地税務調査があって申告漏れを指摘された件数:7036件
つまり、年間に8196件の相続税に関する実地税務調査が行われ、そのうち85.8%にあたる7036件で申告漏れが指摘されているということです。修正申告の割合は85.8%と大変高く、税務署はしっかりと事前調査を行った上で訪問し、実地税務調査をしていることが分かります。
贈与税の税務調査ってあるの?
贈与税の税務調査について、こんなご相談を受けることがあります。
「贈与税の税務調査ってあるんですか?」
贈与税は、相続税との補完税といわれています。相続が発生する前に、財産が贈与によって分散されるのを防ぐためにある税金の一種です。そのため贈与税単独の実地調査ではなく、相続税の実地税務調査が行われる際に贈与税の申告漏れがないかも合わせて調査が行われます。
ただし、相続税の税務調査以外で贈与税の調査が行われる場合もあります。主に次のような場合、税務署は随時チェックしています。
①住宅を取得した場合
・住宅を取得した時に、父母、祖父母からの資金贈与がなかったかどうか
・住宅を取得したのに、銀行の借入金が住宅の価額に比べて少額な場合
②不動産を贈与した場合
・年に数回、税務署は贈与によって動いた不動産の確認を行っている
年間110万円以下の贈与を行った時のポイント
暦年課税において、年間110万円以下の贈与は贈与税が非課税となり、贈与税の申告も不要です。しかし、その場合でも「贈与契約書」を作成し、双方が署名押印して保管しておきましょう。税務調査が行われた際に、贈与があった事実を証明する強い証拠の一つとなります。
税務署はどこまで調べる?事前に確認してくることとは
相続税の税務調査が行われる前に、税務署は提出された相続税の申告書をしっかりと精査します。申告内容に疑問点がある場合や、他の資料と照合して合わない部分がある場合、それらをまとめながら訪問前の事前調査を進めます。
税務署が確認する主なポイント
① 預貯金の残高
申告書に記載されている預貯金はもちろんですが、ご自宅周辺にある金融機関の通帳を持っていない場合などは、その金融機関に口座開設がないかも確認します。また郵便局の通帳はほとんどの方が口座を開設している可能性が高いため、相続税の申告書に郵便局の通帳残高が記載されていない場合も照会を行います。
② 通帳の履歴
申告があった通帳の過去5年間の取引履歴を金融機関から取得し、入出金をチェックします。金融庁の通達により、金融機関は通帳履歴を10年間保管しておく義務があるため、税務署は取引履歴を入手することが可能です。税務調査時に「通帳は捨てた」「燃やした(実際のお話)」と相続人が回答しても、税務署は既に通帳をチェックしてきています。
③ 不動産の状況
申告書に全ての不動産が記載されているか、共有不動産の漏れがないかを確認します。
④ 死亡保険金の有無
申告書の記載内容が、保険会社から提出された情報と一致しているかを確認します。
⑤ 故人の過去の確定申告の内容
不動産収入などがある場合はその不動産が申告書に記載されているか、収入に見合う預貯金の残高が申告書に記載されているかを確認します。
相続税の税務調査の流れ
相続税の税務調査は、税理士が関与している場合は担当税理士に、担当税理士がいない場合は相続人に直接電話にて税務調査の旨の連絡があります。税務調査は任意なので日程の調整は可能ですが、基本的に税務調査を拒否することはできません。税務調査は故人の自宅または相続人の自宅にて、調査官が朝10時頃から16時頃まで訪問して行われます。
税務調査の流れと注意点
① 訪問調査の時間
調査は午前10時から16時までで、お昼休憩は1時間です。調査官は外出するので、お昼ご飯の準備は不要です。食事を準備していても調査官は食べません。
② お茶やお菓子の提供は問題なし
調査官にお茶を出す程度は問題ありません。仮に高価な茶菓を出しても、調査に影響はありません。
③ 家にあるカレンダー、ティッシュ箱もしっかりチェックされる
家にあるカレンダーやティッシュに申告書に記載のない「〇〇証券」「〇〇銀行」などのロゴや名前がある場合は、申告が漏れているのではないかと疑問を持たれる可能性があります。
④ 訪問調査は通常1日で終了
調査官は必要書類をコピーして持ち帰り、その日から署内でさらに調査・検討を重ねます。そのため調査期間は長くて数カ月に及ぶ場合もあります。
税務署員は調査でどんな質問をしてくる?その意図とは…
税務署には調査時の質問マニュアルがあり、調査官はそのマニュアルにそっていろいろな質問をします。そのいくつかの質問と、その意図を見て行きましょう。
① 「故人の出身地はどちらになりますか?」
・出身地の不動産が漏れていないか
・出身地に銀行口座を有していないか
② 「故人の居住の状況、単身赴任の状況などを教えてください。」
・過去の居住地に不動産を有していなかったか
・過去の居住地に預金口座を有していなかったか
・過去の居住地に証券口座を有していなかったか
③ 「故人の趣味は何かありましたか?」
・ゴルフの場合、ゴルフ会員権の財産漏れがないか
・囲碁将棋の場合、高価な碁盤、碁石などを有していなかったか
・絵画、書画骨董の場合、高価なコレクションを有していなかったか
④ 「お亡くなりになった原因と病気の発症時期、意思能力の有無を教えてください」
・発病後に多額の入出金があった場合、故人の意思で行ったものかを確認
・意思能力がない期間に、通帳の出金があった場合の資金の行き先
・意思能力がない期間に、節税対策の行為がなかったかどうか(本人の意思で行っていない対策は全て無効)
⑤ 「ご自宅のリフォームはされましたか?」
・リフォームをした家屋の価値の増加部分も相続財産となるため、その部分が相続税の申告に反映されていたかどうかの確認
⑥ 「老人ホームに入居されていましたか?」
・老人ホーム入居一時金返還金は、相続財産とあるため有無を確認
税務調査官の会話からとある事実が発覚…追加課税に!
あるご家族が税務署に相続税の申告書を提出して約8カ月後、相続の税務調査が実施されました。その時の実際にあった出来事なのですが、調査官との会話の中である事実が明るみに出て、最後は相続人である親子の目が点になったお話です。
■調査官と相続人の会話
(調査官)今回の相続税の申告で、相続税を2500万円納めて頂いていますね。
(相続人)そうです、大金を納めたんですよ。国は無駄遣いをせずに、この税金を大切に使ってほしいものです。
(調査官)おっしゃる通りですね。ところで奥様、この相続税はどうやって納められたんですか?
(相続人)お金で納めたに決まっているじゃないですか。変なこと聞かないでください。
(調査官)それは分かるのですが、みなさんの通帳に税金分の引き出し記録がないようです。申告書によると、手元にも現金はなかったようですし。どこのお金で納めて頂いたのでしょう。
(相続人)‥‥‥‥‥‥。
【ポイント】税務署は、相続後の相続人の通帳もチェックしてくることがある
このご家族は相続税を納める際に、故人がタンスに残していた現金を使って、相続税を納めていました。いわゆる「タンス預金」です。このタンス預金も故人が残した財産として相続税の対象となります。こういった、思わぬところからタンス預金が発覚し、追加で課税されることもあります。
まとめ
相続税の申告書は、何度も経験するものではないだけに、分からないことが多いと思います。自らの申告内容であれば、通帳を見ても思い出すことができますが、故人の通帳の動きや生前の行動は分からないことも多いものです。生前に家族間でこれまでの思い出やリアルな金額でなくてもいいので財産状況などのお話を少しでもしておければ、申告の時に役立つかもしれませんね。