お金

確定拠出年金の税負担を軽減したい!賢い受け取り方をFPが解説

FPにききたいお金のこと 内山 貴博

【画像出典元】「Artmim/Shutterstock.com」

今回の「FPに聞きたいお金のこと」は、50代男性から確定拠出年金の有利な受け取り方に関する相談です。確定拠出年金は一括で受け取った場合と分割で受け取った場合で課税方法が異なります。またそれ以外の注意点もありますので一つずつ確認しましょう。

50代男性Dさんの相談内容

勤続年数36年です。確定拠出年金約4000万円を受け取る場合、税制上最適な受け取り方(税金の支払を少なくする方法、一時金、年金の割合)を教えてください。

確定拠出年金の受け取り方は「一時金」か「年金(分割)」の2種類 

【画像出典元】「stock.adobe.com/ELUTAS」

確定拠出年金は「企業型」(企業型DC)とiDeCoの愛称で知られている「個人型」があります。どちらも基本的には一時金で受け取る場合は「退職所得」扱い、分割で受け取る場合は「雑所得」扱いとなります。

退職所得となる場合(一時金で受け取る場合)

退職所得は分離課税で給与等とは別に計算されます。以下の計算式で税額を求めます。

退職所得=(退職金-退職所得控除)×1/2
※退職の仕方によっては1/2ができない場合があります

<退職所得控除>

よってDさんの場合、36年で計算します。
退職所得控除額:(40万円×20年)×(70万円×16年)=1920万円
となり、1920万円が退職所得控除額となります。

もし4000万円を一括で受け取った場合、1040万円が課税対象となります。他の要因を考慮せず、この金額で所得税と住民税を計算すると以下の金額となります。なお所得税は以下の速算表を用い、住民税は一律10%で計算しています。

退職所得:(4000万円-1920万円)×1/2=1040万円
所得税:1040万円×33%-153万6000円=189万6000円
住民税:1040万円×10%=104万円

<所得税の速算表>

図表:国税庁HPを参照し筆者作成

所得税、住民税は合わせて293万6000円となります。

Dさんの相談内容から「勤続年数が36年」となっていますが、年齢が50代ということなので、年金を受け取る時まで数年間勤続年数が延びる可能性があります。その場合は当然控除額が増えるため税額も下がることになります。また1年未満は切り上げとなるため、36年と1カ月でも37年として計算します。今回は便宜上36年で計算しました。

分割で受け取る場合

確定拠出年金を分割で受け取る場合は、税制上の取り扱いが少し複雑です。まずは加入している年金制度の規約を確認してください。規約に受け取り方が定められており、一般的に5~20年の確定年金、または終身年金で受け取ることができる場合もあります。

仮に10年確定年金で毎年400万円ずつ受け取ったケースを想定した場合の税負担を見ていきます。この場合だと受け取る金額が雑所得となりますが、公的年金と同じ扱いになるため、公的年金の額も税金に影響します。仮に老齢年金が200万円/年で他に所得がない場合、年間の年金収入は600万円(確定拠出年金+老齢年金)となります。この600万円に対して以下の公的年金等控除を差し引くことができます。

<公的年金等控除額>年金等以外の所得が1000万円以下の場合

図表:国税庁HPを参照し筆者作成

※年齢はその年の12月31日時点で判断

仮に60歳から70歳にかけて確定拠出年金と老齢年金を10年間受け取った場合、雑所得扱いとなり、雑所得の金額は441万5000円となります。

公的年金等控除額:600万円×0.15+68万5000円=158万5000円
公的年金等の雑所得額:600万円-158万5000円=441万5000円

ここからDさん自身の基礎控除に加え、家族がいる場合の配偶者控除や扶養控除、健康保険料などを払った分の社会保険料控除などを差し引くことができます。相談内容から家族構成などが分からないため、仮に所得控除の合計額が200万円だったとします。先に紹介した所得税の速算表を用いると、所得税と住民税を合わせた金額は38万5500円となります。

課税総所得金額:441万5000円-200万円=241万5000円
所得税:241万5000円×10%-9万7500円=14万4000円
住民税:241万5000円×10%=24万1500円

これを10年間負担すると385万5000円となり、退職所得の課税金額293万6000円を上回るため、退職金として一括で受け取った方が税制上は有利ということになります。

一部を退職金にして退職所得控除の活用も

Dさんの場合は確定拠出年金の金額が大きく、退職所得控除額の上限を上回っています。この場合は一時金として受け取る金額を退職所得控除額の金額の範囲内に納めて一時金に対する税額をゼロにし、残りを分割で受け取るという方法も考えられます。

例えば退職金として2000万円、残り2000万円を一時金で受け取るという選択肢もあります。先の例で退職所得控除額は1920万円であったため、Dさんがもう数年勤務すれば退職所得控除額が増え、受け取る退職金の課税額をほぼゼロにすることができます。当然、毎年の年金額も減るため雑所得から生じる所得税や住民税を抑えることができます。

健康保険料や介護保険料にも注意

確定拠出年金を分割で受け取る場合は雑所得となり、毎年の所得控除によって税金の負担が変わってきます。先の計算例では所得控除を200万円として計算しましたが、扶養親族が多い場合や医療費控除が毎年のように生じる場合などはもう少し控除額が大きくなるかもしれません。そうなると所得税や住民税の負担も当然下がります。

しかし確定拠出年金を分割で受け取る場合の税額試算は、将来の状況、他の所得の変動、税率や税の変更の可能性があることも意識しておかなければならず、非常に難しいです。

また分割で受け取った場合、国民健康保険や介護保険などの保険料負担が上昇する可能性もあります。保険料の計算上、毎年受け取る年金額が保険料を計算する上での所得とみなされるためです。よって税金だけではなく保険料のことも考慮する必要がある点を覚えておいてください。

最適な受け取り方を決めるポイント 

【画像出典元】「stock.adobe.com/luismolinero」

このように特に分割で受け取る場合はかなり細かい計算が必要になるため、Dさんの相談内容から最適な受け取り方を断定するのは難しいですが、以下ポイントを整理しました。

その他、Dさん自身のお金の管理の仕方もポイントになります。ある程度まとめて受け取っても、つい使い過ぎるという心配があるのであれば分割を優先すべきです。逆に資産運用に詳しく、一括で受け取り早めに運用に回すという考えもできそうです。こういった点も考慮し、総合的に判断してください。

※所得税と住民税は基礎控除の額など異なりますが、今回は同額として試算しました
※税金は令和7年1月時点の税制での概算です。詳細は税務署等でご確認ください

※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。