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国外だけではなく「トランプ関税」に揺れるアメリカ国内の日常は?

N.Y.発、安部かすみの今気になる最新マネートピック 安部 かすみ(あべかすみ)

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トランプ大統領が1月に就任してから4月末で早くも100日が経過しました。この間、大統領令が次々と発令され、都度反対派による抗議デモが各地で発生するなどで、大統領の方針は連日報道機関を賑わせています。特に人々の生活に直結する関税は関心ごととして高く、アメリカでも毎日のようにトップニュース扱いです。日々状況が目まぐるしく変化するトランプ氏が推し進める関税政策について、今回は現地報道やアメリカ現地の空気感を交えてお伝えします(情報は2025年5月上旬時点)。


トランプ大統領の二期目の就任から4月29日で100日が経ちました。米主要メディアがこの間のトランプ政権の動きを総括し、さまざまな分析を発表しています。それらを通して見える世論は依然、支持政党によって分かれています。

主要メディアのNPR(4月29日付)は、独自の世論調査をもとに「F評価を与える人がほかの評価よりも多い」と辛辣に評しました。Fと言えば学校で言うところの「単位を取得できない=不合格」と最も低い評価です。具体的な数値としてFと回答した人は45%、合格に値するAと回答した人は23%、つまり(NPR関連の調査では)現政権の政策に不満がある人が満足している人の倍近くいることが示されました。

これは明らかに経済・関税政策や移民対策、さらにはイーロン・マスク氏主導の効率化策など、ドラスティックな政策の結果だといえるでしょう。特に経済は多くの人々の生活に直結します。回答した半数以上の人が、インフレによって高騰した食品価格がさらに上昇するのではないかと危惧し、関税問題が米経済に打撃を与えるだろうと答えたといいます。

CBSニュース(4月28日付)は、評価はまだ時期尚早であるという意見がMAGA(アメリカを再び偉大な国にするというトランプ大統領が掲げるスローガン)を支持する共和党員を中心に多くあると報じています。国外追放をはじめとする移民政策で大きな変化をもたらしていることが良い意味でも悪い意味でも大きなインパクトになっている一方で、関税政策に重点を置き過ぎているという認識も人々の間には根強いようです。

食品や日用品の価格引き下げに十分な対策が取られておらず、就任後もそれらの価格が下がった実感はありません(そもそもすぐには下がらないだろうと言われていましたが)。スーパーの売り場では価格を熱心に比較する消費者の姿も見られます。

日常のふとした場面で「関税」の話題が

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筆者の周りでも日常のふとした場面で友人や知人らと関税の話になることが増えてきました。

関税がビジネスに直結する人にとっては、大きな関心事のようです。例えば先日、訪問先で自然に関税の話題が持ち上がりました。その企業では中国産の布地を取り扱っており、経営者は原材料費の高騰の可能性を懸念していました。「インフレの影響で人々の財布の紐が日に日に固くなっているのを実感する中、これ以上値上げをするとビジネスにどれだけ影響を及ぼすか...」とジレンマを抱えている様子でした。

また別の日、市内で新聞や出版事業を手がける経営者との会話でも、印刷費の値上げの可能性を心配する声が聞こえてきました。あまり知られていませんが、アメリカ国内で印刷されている新聞や書籍に使用されている紙の多くはカナダ産なのです。

この会話の後の4月2日、ホワイトハウスは新聞などに使われる印刷用紙は引き続き関税の対象外になることを発表しました。今後の動向には注意が必要なものの、関係者はこの決定にとりあえず胸をなでおろしたことでしょう。

他にも、一般市民の生活に大きく直結するのは食品価格です。コーヒー、アボカド、バナナなど日常的によく消費される食品も「トランプ関税」の影響で価格が上昇するのではないかという報道もあります。

筆者は一般的なスーパーでの値段を確認してきましたが、5月頭の時点でアボカドは1個1ドル50セント弱で売られており、劇的に値上がりした実感はなかったです。コーヒーもバナナも同様でした。しかし値上げに踏み切った個人経営店もあります。市内のある生花店ではエクアドル産のバラの仕入れ価格の値上げに伴い、10~20%商品価格を値上げしたそうです。また大手小売店でも今後の動きが読めないため、急激な値上がりに備えて保存がきく食品やトイレットペーパーなどの日用品を買いだめしている人の話をよく聞きます。

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中でも劇的に値上がりするだろうと言われているのが、激安ECサイトの商品です。アメリカでは10年以上も前からSHEINが人気で今や日々の買い物に欠かせない人は多いはず。近年はさらに対抗馬のTemuやAmazon Haul(Amazonの廉価版)なども人々に広く利用されています。これらの激安ECサイトは物価高のアメリカにおいても驚くほどの安さが魅力で、筆者も幾度となく利用してきました。しかし今後は気軽にオーダーできなくなる可能性があります。Temuのアプリ上では「アメリカに輸入される商品は輸入税の対象となる可能性がある」と警告文が出ています。

アメリカはこれまで中国からの輸入品において、800ドル以下の商品は関税を免除してきました。しかし5月2日からは120%の関税、もしくは1パッケージあたり100ドル(約1万4000円)の手数料がかかることになりました(6月以降値上がりの可能性あり)。この目的はアメリカで社会問題になっている合成オピオイドのフェンタニルとその原料物質の流入を防ぐためと言われています。

(オーダー後に国境を越えるのが5月2日以降になるため)4月末の時点ですでに販売価格から2~3ドル値上がりした商品が見られるようになりました。「10ドルで販売されているTシャツが24ドル50セントになる可能性がある」(ニューヨークタイムズ)、「一部の商品は最大377%値上がり」(テック系ウェブメディアのCNET)などと報じられています。

例えばSHEINで割引価格で販売されているこのTシャツは、4月末の段階で10.63ドルで売られていましたが、5月頭の段階で13.29ドルと3ドル近く値上げされています。

ほかに、表示価格が変わっていないECサイトでもよく見てみると、会計時に輸入手数料を加算する仕組みを導入しているものもあります。

また「トランプ関税」の影響を受けるのは自動車もそうです。アメリカは言わずもがな車社会ですが、対象国からアメリカ国内に輸入される車の価格が2000~4000ドル(約30~60万円)上昇する可能性も指摘されています。

値上がり前にiPhoneを買い換え?

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同様に消費者の間で不安が広がったのがアップルのiPhone価格です。4月上旬、今でも安くないiPhone価格が30~40%値上がりするかもしれない(しかもiPhone 16 Pro Maxは2000ドル=約30万円を超える可能性がある)という報道を見て筆者はおののき、iPhoneをほぼ衝動的に買い替えました。

不確実な部分がたくさんあり、アップルなどの企業が関税にどう反応するのかは不明でした。それでもアメリカでは一部の消費者が、iPhoneを買うためにアップルストアに急ぎ向かっているとのニュースを見ましたが、筆者もそのような消費者の一人だった、ということです。

アップルストアが混み合っているのは日常風景ですが、筆者が訪れた4月上旬のアップルストアは関税のニュースの影響なのかさらに混んでいました。商品を待っている間の雑談で店員数名に、関税が今後の価格に影響する可能性はあるのかと問いかけたところ「まったくわからない」という回答が主流でした。あくまでも個人的な意見として「値上がりするとは思わない」と答えたスタッフが2人いました(注:アップルの公式見解ではない)。

理由を聞くと「アップルは自社で価格を決めている=価格設定の決定権を握っているから」とのこと。アップルは多くの在庫をすでに確保しているし、短期的に価格を動かさない方針でもあることから、筆者はその個人的見解にある程度納得したものの、結局は最新のiPhoneに魅了されて(そろそろ買い替えの時期でもあったことから)新調しました。

この数日後、トランプ政権は相互関税の対象からスマホなど電子機器を除外すると発表し、iPhoneの価格高騰の懸念を一時的に和らげています。しかし恒久的な免除ではないため今後の再課税の可能性は排除できません。5月1日にアップルのティム・クックCEOはトランプ関税により今四半期に9億ドル(約1300億円)の追加コストを招く可能性があると発表しました。12日付の一部メディアでは「アップルがiPhoneの値上げを検討」と報じられています。9月に発売されるであろうiPhone17の価格がどうなるか注視したいと思います。

アップルは生産や組み立てにおいてまだ多くの部分で中国に頼っていますが、一部の製品のそれらをインド、ベトナム、マレーシアに移転したと報じられているように(関税の影響を最小限に抑えるためにも)中国依存からの脱却を図っているようです。今後、年間約6000万台以上販売されるアメリカ市場向けのiPhoneの大半はインド製になるとクック氏は発表しています。

ちなみに…労働コストの高いアメリカでiPhoneが製造されることになれば(消費者に価格転嫁された場合)価格は3500ドル(約50万円)になる可能性があると一部のアナリストは指摘しています。アメリカ国内生産は現実的ではないでしょう。

ここにあげた事例はアメリカでの日常風景のほんの一片です。人々は日々このようにニュースを聞いては動揺したり胸をなで下ろしたりして気持ちがローラーコースターのように揺れ動いています。これがトランプ大統領が掲げる「アメリカの黄金時代」の実現に向けた一歩ということになるのでしょうか。その実現へ向け、人々が一喜一憂する日々はしばらく続きそうです。

【最新アップデート情報】

日本をはじめとする56ヵ国・地域に対する相互関税は90日間停止、つまり対日本の相互関税は7月9日まで延期中(2025年4月10日発効。数字は2025年4月9日現在)。相互関税リストの最新情報はこちらを参照ください。