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アメリカにも「マイル修行僧」っている?上級会員の最新事情は?

N.Y.発、安部かすみの今気になる最新マネートピック 安部 かすみ(あべかすみ)

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一部の旅行者の間で根強い人気の「マイル修行」。航空会社の上級会員資格、いわゆる“エリートステータス”の獲得を目指し、フライトを繰り返すこの行為に没頭する人々は「マイル修行僧」とも呼ばれています。上級会員になれば優先搭乗、ラウンジ利用、無料の手荷物預けなど空の旅を快適にする数々の特典が手に入るため、その“修行”は一部のニッチなユーザーに支持され続けています。今回はマイル修行を深掘りすると共に、アメリカにおける最新動向も併せて報告します。

さまざまな特典に繋がるマイル修行

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航空機ユーザーの一部で活発的に行われている「マイル修行」。これはマイルを集めるために積極的に飛行機を利用することで、そのような活動をしている人々は「マイル修行僧」と呼ばれることもあります。 

搭乗回数やポイント数など、各航空会社が設定する厳しい条件をクリアすれば、航空会社の上級会員資格(エリートステータス)を獲得できるのですが、上級会員になると、チェックインや搭乗で優先サービスの対象となったり、空港ラウンジが無料で使えたり、座席のアップグレードのチャンスに繋がったりと、さまざまな特典を受けることができるとあり、相変わらず一部の人々の間で根強く支持されています。

マイル修行僧は、航空機を頻繁に利用する人にとってどのような存在なのでしょうか?

東京都在住の会社員、上田賢尚(活動名:スタバカ @sutabaka9467)さんは、Starbucking(スターバッキング)と呼ばれる活動に情熱を傾ける一人です。スターバッキングとは世界中のスタバを訪れSNSなどで発信することで、上田さんが日本各地のスタバを訪れるようになってかれこれ約20年が経ちます。15年ほど前から海外のスタバにも積極的に足を運ぶようになり、これまで訪れたのは本人曰く「約60ヵ国、4700店舗」(2025年7月末時点)とのことで、ワンワールド系航空会社のマイルが自然に貯まる日々です。

そんな上田さんは貯まったマイルを座席のアップグレードなどに利用することもあり、これまで1番良かった経験を尋ねると、今年2月にニューヨーク発羽田行きのJAL最新鋭機材のA350-1000型機でファーストクラスに搭乗できたことだと言います。「もともとビジネスクラスの航空券を購入していたのですが、特定のマイル数を追加することでそのようなことが可能になりました!」。

逆に苦い経験もあるようです。
「航空券の予約クラス*によってマイル積算率が異なるのを知らずに、積算率0%でヨーロッパ周遊をしたことも...」

上田さんはもともと、このヨーロッパ周遊を機にマイルを貯めたかったそうですが、貯まらないどころか荷物を預けるのも別料金がかかってしまいました。「マイルを貯める際は予約クラスの把握が重要です。航空会社によってサービスや規定が異なるためこの失敗を糧にさらに勉強しました」。

*予約クラス:ビジネスクラスやエコノミークラスなどの区分けではなく、各クラスの中に何種類もあるもので、マイル積算率がそれぞれ異なる(一例:某航空会社のマイル積算率は、エコノミーの予約クラスYは100%、エコノミーの予約クラスLは30%、など)。

そんな上田さんから見て、筋金入りのマイル修行僧はどう見えているのでしょうか。

「マイル修行僧と呼ばれる方々は、一般の人があまり使わないルートを駆使したりして『お得に、効率よく』修行されており、その知識と経験の差が圧倒的です。私たちが太刀打ちできないほどです」

例えば、YouTubeで情報を発信している「@goku_una」さんや、Xで情報を発信している「@JAL200ANA300」さんは、彼曰く「パスポート所持率が低い日本の小さな枠組みでは想像もつかないような壮絶な修行をしている最強マイラー」とのこと。

アメリカにもマイル修行僧はいるの?

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アメリカにも、航空会社の上級会員資格(エリートステータス)を獲得するために、集中的にフライトを重ねるコアなマイラー、「マイル修行僧」のような人は一定数存在しています。英語でマイル修行僧は、Mileage RunnerやMileage Geek、Status Chaserなどと呼ばれています。

知る人ぞ知るアメリカのマイル修行僧と言えば、カール・ブラザーズ(@_carlbrothers)さんがそうです。彼は米ユナイテッド航空で4年間マイレージラン(マイル修行)に挑戦し、400万生涯マイルを獲得したとして、マイル修行系ブログ『One Mile at a Time』で最近その活動が取り上げられたばかりです。

ほかにもロブ・コール(Rob Cole: 通称Kiwi Flyer)さんも、生涯で700万マイル以上を飛んだ“マイル修行キング”と称されていることが旅行誌『コンデナスト・トラベラー』で紹介されています。

米系航空会社は日本と同様に、マイル(またはポイント)や搭乗回数に応じて上級会員資格を付与し、優先チェックインやラウンジ利用、手荷物優待、アップグレードなどの特典を提供しています。

しかし内情を探ってみると、かつてほどの熱心さは見られないのもまた事実です。近年、ステータス修行そのものに変化が見られる新時代にさしかかっているとも言えそうです。

例えば以前、ネット掲示板の米Reddit (レディット) には、マイラーと見られるユーザーによりこのような投稿がありました。

投稿者は「まだマイレージラン(マイル修行)をしている人っている?それともニッチ(マニアック)だったり不必要なこと?」というタイトルで、これから24時間以内の活動についてアップしていました。ゴールドのステータスをプラチナにアップグレードするために、その旅程は、まずニューアーク・リバティー国際空港(ニュージャージー州)からシャーロット・ダグラス国際空港(ノースカロライナ州)に飛び、その後、シカゴ・オヘア国際空港(イリノイ州)、フェニックス・スカイハーバー国際空港(アリゾナ州)、LAXロサンゼルス国際空港(カリフォルニア州)を経て、JFKジョン・F・ケネディ国際空港(ニューヨーク州)に降り立つというもの。

しかしその人物によると、最初の空港(ニューアーク・リバティー)のチェックイン係員が旅程表を見た時、戸惑った表情を浮かべたそうです。さらにAAラウンジ(アメリカン航空の空港ラウンジ)のバーテンダーは「マイレージラン」(マイル修行)なんて聞いたこともないと言ったとあります。「(この空港だけではなく)きっと米国内どこも同じ状況になるだろう」と予想しています。

この投稿に対して、別のユーザーからは、さまざまな意見が飛び交いました。

 “今でもそのように活動している人はいるし自分も若い頃はそうだったが、残念ながら今は責任が多すぎる”

 “マイル修行は意味がない。適切なクレカを使っていずれ支払うことになる大きな請求書を支払えばいい。ステータス維持のために東京へ週末旅行に行くという滑稽な時代はありがたいことに終わった”

 “マイル修行はもはや意味なし。だってステータスは飛行マイル数ではなく使った金額、航空券の購入額*によって決まるから”

 “本当にやりたいことで本人が楽しいのならいいけど、もしかしたら往復1回だけの『体験』をした方がいいかも。例えばニューヨークからロサンゼルスへ飛び、ラウンジで少し休憩し、また東へ飛ぶ、みたいな方法の方が移動時間を少し短縮しながらアメリカン航空の国内線の醍醐味を味わえるだろう”
*アメリカでPQD =Premier Qualifying Dollars、PQP=Premier Qualifying Pointsと呼ばれる

このような投稿から伝わってくるのは、航空会社が「距離ベース」から「支出ベース」に重きを置いたため、かつてのように距離効率だけでステータスをお得に稼ぐことがほとんどできなくなった現状です。ひと昔前であればたくさん飛ぶだけマイルが稼げたかもしれません。

もちろん今でも、年末にあと少しでステータス達成という時、僅差を埋める「ラストスパート修行」は根強く実施されていますが、全体的な修行のコストと得られる価値のバランスが以前より悪化しており、マイルを稼ぎにくい時代になっているのは確かでしょう。それが熱心な航空機利用者の間でかつてのような盛り上がりがなくなった要因の一つと言えるのかもしれません。

航空会社は「翼を持ったクレジットカード会社」へ

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また多くの航空会社では、提携カード保有や一定額の利用で自動的にステータスを付与する動きがあります。一部の航空会社のプログラムではこの形態により「飛行せずして上級会員」も可能になっています 。

ビジネスインサイダー(2025年5月8日付)によると、航空会社のロイヤルティ特典が業界に革命をもたらしたのは80年代のこと。さまざまな特典を設けて特定の航空会社を利用してもらったり、その航空会社のクレカを使用してもらったりと、熱心な顧客基盤を築いてきました。

2024年のOAG (Official Airline Guide)の分析によると、世界中の旅行者の82%が少なくとも一つの航空会社のロイヤルティプログラムに登録していると言います。また、Delta SkyMilesは世界最多の1億2000万人以上の会員を擁しているとされています。

この記事には航空会社は「翼を持ったクレジットカード会社」へと変貌しているとあり、「航空会社は実際に飛行機を飛ばすよりもポイント販売でより多くの利益を上げている」そうで、マイルや特典の価値はますます低下しているのです。

確かに航空会社提携のクレカは年会費や決済手数料などで航空会社に大きな収益をもたらしています。例えば某米系航空会社の提携クレカは、利用額がマイルステータス獲得に大きく影響するようになりました。カード利用額に応じて上級会員プログラムの条件の一部である「MQD(Medallion Qualification Dollars:メダリオン資格ドル)」が得られます。カードの利用額をステータス取得条件に含めることでカード利用を促進し、さらなる収益源を確保しているのでしょう。

日本の各航空会社もこのトレンドに乗り、搭乗実績に加えて提携クレカの年間決済額が上級エリート会員のステータス判定に影響してくるなどの変化が見られるようになってきました。そしていよいよ年会費はかなり高額ではあるもののカードの決済額次第で上位ステータス会員の獲得ができる「JAL Luxury Card」や「JAL Luxury Card Limited」がつい最近(2025年8月上旬)ニュースで話題になったばかりです。「時間と労力をお金で買う」「飛ばずして上級ステータスをゲット」の手法は、これまで取りこぼしていた多忙な富裕層の心をつかむ突破口になるでしょうか。