インフレの中で株価がなぜ上昇?日経平均史上最高値更新の背景
【画像出典元】「Comdas/Shutterstock.com」
監修・ライター
2025年8月18日、日経平均株価が4万3714.31円と、史上最高値を更新しました。一般的にインフレ(物価上昇)は株式市場にとってネガティブ要因とされることが多いのですが、なぜ今回は株価が上がっているのでしょうか。この現象の背景には、日本経済の構造的変化と投資家心理の変化が複雑に絡み合っています。
インフレと株価の基本的な関係性
まず、インフレと株価の一般的な関係について整理しましょう。
従来、インフレ局面では中央銀行が金利を引き上げる傾向があります。金利が上がると企業の資金調達コストが上がり、同時に債券などの安全資産の魅力が高まるため、株式投資の魅力が相対的に低下するとされてきました。また、インフレによる実質購買力の低下は消費者の支出を抑制し、企業業績に悪影響を与える可能性もあります。
しかし、今回の日本の状況は従来のセオリーとは異なる展開を見せています。その理由は、日本が長期にわたるデフレから脱却する過程にあり、「悪いインフレ」ではなく「良いインフレ」の兆候を示していることにあります。
「良いインフレ」が示す経済の正常化
現在の日本で起きているインフレには、経済の正常化を示すポジティブな側面があります。
企業が価格転嫁を行えるようになったことは、デフレ脱却の重要な指標です。長年にわたって価格競争に苦しんできた日本企業が、コスト上昇分を商品・サービス価格に反映させることができるようになったのは、消費者の価格受容度が高まり、経済全体の需要が底堅いことを意味します。
企業がコストの上昇分を価格に転嫁できるようになり、デフレではない経済になってきた状況は、売上高や利益が名目ベースで成長する健全な経済環境の到来を示唆しています。
堅調なマクロ経済指標が後押し
株価上昇の直接的な要因となったのは、8月15日に発表された2025年4~6月期のGDP速報値でした。実質で前期比0.3%増、年率換算で1.0%増となり、市場予想を上回る結果となりました。
これによって5四半期連続のプラス成長が確認され、日本経済の底堅さが改めて認識されました。米国の関税措置による影響を懸念する声もありましたが、実際の数字は日本経済の resilience(回復力)を示すものとなりました。
日本銀行の「健全な利上げ」への期待
インフレ下で株価が上がっているもう一つの要因は、日本銀行による「健全な利上げ」への期待です。
経済が堅調に推移する中での金利正常化は、長期的には経済の持続的成長を支える要因となります。特に金融機関にとって、金利上昇は収益改善に直結するため、銀行株を中心とした金融セクターへの物色が活発化しています。
重要なのは、この金利上昇が経済の悪化による強制的なものではなく、経済の健全な成長を背景とした政策的な正常化である点です。市場関係者からは「日本経済が堅調な中で日銀が『健全な利上げ』に動くなら、むしろ物価の安定や経済成長の維持に繋がりプラス」との評価も聞かれます。
海外投資家による構造的評価の高まり
現在の株高には、海外投資家による日本市場への構造的な評価の変化も大きく影響しています。特に欧州を中心とした年金基金や保険会社などの機関投資家が、脱デフレに向けた企業の価格戦略や東京証券取引所による市場改革といった「構造的な観点」から日本株への関心を強めています。
日本株は米株に比べて割安で、米国から投資先を分散させようというマネーが流入していて、相対的な割安感が海外資金を呼び込んでいるのです。
注意すべきリスク要因
一方で、専門家からは慎重な見方も示されています。日本株の上昇がアメリカからの資金流入に強く依存していることを踏まえ、アメリカ株に変調が起こる時が日本株下落のリスクだと考えられるからです。
また、テクニカル指標では短期的な過熱感も見られます。株式市場の過熱感を測る指標の一つに「騰落レシオ」があります。東証プライム市場では、8月13日に155.21を記録し、プライム市場発足以来最高水準となり、旧東証1部を含めても2017年5月以来の高さでした。
一般に70%以下で売られすぎ、120%超で買われすぎとされるため、過熱感が強まっていることを示します。さらに、日経平均株価の25日移動平均線かい離率も、連日買われすぎの目安である5%を超え、13日には6.46%に達しました。「強気相場は楽観の中で成熟し、陶酔の中で消えていく」という相場格言もあり、適切なリスク管理は重要です。
まとめ
現在のインフレ下での株高は、単なる金余り相場ではなく、日本経済の構造的な正常化を反映した現象と捉えることができます。デフレからの脱却、企業の価格転嫁力向上、海外投資家による構造的評価の変化など、複数の要因が複合的に作用した結果です。
ただし、外部環境の変化によるリスクや短期的な過熱感には十分な注意が必要です。今後のFOMCや日銀金融政策決定会合などの重要イベントを慎重に見極めながら、中長期的な日本経済の変化を冷静に評価していくことが求められるでしょう。