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ここ2〜3年でハイセンスな理容室が増えているが、以前は理容室といえば、年配者が多くてちょっと古臭いイメージだったはず。そんな中、18年前からおしゃれな床屋「とこやとこうや」を営む都甲清志(とこうきよし)さん。ひげがかっこよくて、話すと朗らかで物腰が柔らかい。そんな都甲さんの周りには常に人が集まり、店内や軒先で行う「BAR BER MARKET」も年々盛り上がりを見せている。魅力をあげればキリがない都甲さんの本質を探りに、直撃取材を行うことにした。
Q. 都甲さんが理容師になったのはなぜ?
世の男性は「おしゃれになりたいけど、どこに行けばいいんだ!?」と困っている人が多いと思うんですよね。かといって、キラキラした美容室には抵抗感がある。そこで、自分が思い描く“おしゃれな理容室”を開きたいと考えていました。
髪はこの人、食べ物はこの人、みたいに“お抱え”として選ばれる立場になりたくて。その人の人生における特定のポジションを長く務めていきたいなと思っていたので、理容師ならそれが叶うと信じてきました。
あとね、僕って“人好き”なんですよ。自分の中で好きだなぁと思う人がいたら、その人からも好かれるように頑張っちゃう(笑)。だから時代に左右されず、お客さんとの関係性を長く育んでいける、この仕事が居心地良かったんでしょうね。
Q. 30歳で独立。背中を押されたきっかけを教えてください。
20代の頃から漠然と「30歳で独立したい」と思っていたものの、「独立は目処がたったら……」くらいに考えていました。けれど妻から「その目処はいつなの?」とピシャリ。「開業資金が理由なら、今からしっかり節約して、お店に必要なものだけ買いましょう」と僕の尻をうまく叩いてくれてましたね。
お店は都会から一歩離れた、ゆったりとリラックスできる場所がいいなと思っていました。当時はこういうテイストの理容室がなかったので、すべてが手探りでした(笑)。ただ「店」というより「家」っぽくしたい気持ちはあって。だから店舗用の内装業者ではなく、知り合いの住宅系の設計士さんに空間デザインを依頼しました。
Q. 年に一度行う「BAR BER MARKET」は、都甲さんにとってどういうイベント?
10年前の初回は、アパレルショップを経営している友達と、息子の同級生のお母さん、花屋の友達など、知り合い4人が集まって、古着、サンプル品、天然酵母のパン、植物を販売する小規模のイベントでした。4回目から少しずつ参加店が増えて形態が変わり、今は約10店舗が集まるマーケットに。参加店舗は異業種が多くて、すご〜くいい方ばかり。イベント中もそれぞれ助け合って、みんながみんなを思いやって素晴らしいんです。もう準備段階から見てほしいぐらい!
Q.なぜ都甲さんの周りには、素敵な方ばかり集まるんでしょうか?
僕自身が“人好き”だからじゃないでしょうか。好きな人には恥じらいもなく「大好きです」って言います(笑)。会いたくなったら会いに行くし、困っていたら支援してあげたい。
あと、普段は一人で店に立っている分、仲間意識が強いのかも。気が合うお客さんと一緒にご飯に行くこともありますし、「BAR BER MARKET」もそう。仲間を感じられる場所が僕にとって大切なんです。
Q. サロンの奥に、ギャラリーがあるって本当ですか?
もともと、何かいいものや素敵な人がいたら誰かに紹介したくなる性分。このギャラリーはスタッフルームとして使っていた場所を、「自分がいいと思うもの」を発信する空間「TanneL(タネル)」にしました。6年前からひっそりと、不定期で作品展や販売会をやっているんですよ。
ギャラリーというほどたいしたものじゃないですけど、作家やクリエイターが「試せる場」となればと。「TanneL」という名前は、「tunnel(トンネル)」と「種」を組み合わせた造語。
トンネルの向こうに何か違う景色が広がるイメージと、ここで種を植えることで芽吹き、開花するきっかけになればという思いを込めています。
Q. 楽しみながら仕事をしている都甲さん。自営で「稼ぐ」ことをどう捉えていますか?
実は僕、まったく経営者気質じゃないんです。経理は妻に任せて、僕は技術者に徹しています。
お金はありすぎず、なさすぎず、がベスト。「おいしくご飯が食べられたらいい」っていうスタンスで、金儲けには固執しません。とはいえ、「あ! あれをやりたい!」と閃いた時にフットワーク軽く実行できるくらいの資金は持っていたいですけどね。
お金では満たせない心の豊かさは、家族や仲間たちがたくさん与えてくれます。例え安いものでも、みんなで食べたら美味しいですから♪
Q. 最近奮発した、大きな買い物はありますか?
う〜ん、特に思い浮かばないなぁ。息子の教育ローンが高くてびっくり!というエピソードはあります(笑)。
ちなみに最近、床屋で使うシャンプーを高品質なものに変えたんです。その分経費負担が増えましたが、良いものに糸目をつけたくないんですよね。ここでヘアスタイルも気分も、お客さんに満足してもらって、「ありがとうございます。いってらっしゃい!」と笑顔で見送りたいです。
とこやとこうや 都甲清志
1969年福岡市生まれ。高校卒業後に理容の道へ進み、2000年に独立。福岡市・別府にバーバーサロン「とこやとこうや」をオープン。飲食、アパレル、雑貨など多ジャンルの出店者を集めた「BAR BER MARKET」を年に一度主催。店内奥には小さなギャラリー「TanneL」を併設。