守るために、攻めていく。小さな町から世界に咲く線香花火の輝き
話題のひと

守るために、攻めていく。小さな町から世界に咲く線香花火の輝き

my story

ぶどう畑が広がるのどかな風景の中に現れたのは、かわいい三角屋根の建物と赤や青のオシャレなコンテナたち。あたりに漂う火薬のにおいがなければ、ここがあの有名な花火製造所だとは分からないかもしれない。日本で唯一の「スボ手牡丹」という国産線香花火の作り手であり、今や世界中にファンを持つ「筒井時正玩具花火製造所」の三代目夫婦、筒井良太さん・今日子さんに成功の秘訣を伺った。

Q. 日本で唯一の「スボ手牡丹」という線香花火を受け継ごうと思ったきっかけは?

Q. 日本で唯一の「スボ手牡丹」という線香花火を受け継ごうと思ったきっかけは?

良太さん:以前、うちでは線香花火は作っていなかったんです。自分も家を継がずに、一度県外に出て会社勤めをしていました。でも、外の世界を体験してみて、やっぱり自分はものづくりが好きなんだと気が付いて。みやまに戻ったタイミングで、国内で唯一「スボ手牡丹」を作っていた親会社から技術継承のため声をかけてもらい、3年後その技術と道具、職人さん、全てをうちの製造所で受け継ぎました。

当時は大量生産された安価な外国産の花火が主流で、売れずに在庫はたまる、売っても安くて赤字という悪循環の中、なんとかならないかと試行錯誤していました。

今日子さん:その頃は毎日顔を真っ黒にして、明け方近くになって首を傾げながら帰ってくることが続いて「何をやっているんだろう?」と思っていました。そんなに一生懸命作っているものなら一度見せて、と言って家の炊事場で試してみたら、とにかくもう、今まで見たことがないくらいキレイで!これは絶対に世に出さないといけない、外国産の花火と価格競争させるようなものじゃない!と思いました。

Q. 今や全国的にも有名な「筒井時正玩具花火製造所」ですが、ブランド化に成功した秘訣は何だと思いますか?

Q. 今や全国的にも有名な「筒井時正玩具花火製造所」ですが、ブランド化に成功した秘訣は何だと思いますか?

良太さん:きっかけは、「九州ちくご元気計画※」に参加して、プロデューサーの江副直樹さんや「なかにわデザインオフィス」の中庭日出海さんと出会ったことですかね。自分たちが一生懸命考えて作り上げた花火を世の中に広めるために、「何が必要か」を見てくれる。中庭さんが持ってきてくれるデザイン案は聞くたびに毎回鳥肌が立ちました。

今日子さん:最初は、線香花火を絶対売ろう!と決意して、助成金をもらうための計画書を作っていたんですが、その過程で今まで長く家族経営をしてきて気がつかなかった、会社組織としての問題点がどんどん分かって、経営を見直すいい機会になりました。当初は会社としてのホームページやロゴもなく、事務所もありませんでしたから。その後、商工会から「九州ちくご元気計画」のことを紹介されて。そこから10年、中庭さんと一緒にブランドを作ってきました。

商品には絶対の自信を持っているので、販売1年目から取引先は「いいものに対する感度の高いところ」と決めて、慎重に進めていきました。おかげさまで、BEAMSさんを始め、今ではいろいろなブランドからお声がけをいただいています。

※「九州ちくご元気計画」…厚生労働省の雇用創出事業を福岡県が獲得し、福岡県の広域地域振興課と対象地域の筑後7市(久留米・柳川・八女・筑後・大川・うきは・みやま)が主体となって進める雇用創出を核とするデザインワーク。商品開発、広報、グラフィックデザインからプロダクト、建築分野まで50名以上のデザイナーなどが講師として参加し、参加者たちが学びながらノウハウを取得し、意識改革と持続可能な仕組みを構築するプロジェクト

Q. 大変手間のかかるお仕事ですが、ひとつひとつはそんなに高額なものではありません。採算は合うのでしょうか?

良太さん:商品にデザインやストーリーなどの付加価値をつけることで、外国産の花火と価格競争をしていた頃より単価は数倍高くなりました。でき上がった紙筒を買うのではなく自分たちで巻くなど、細かな工夫を重ねてコストダウンも図っています。

今日子さん:最初は問屋さんに「高くて売れない」と相手にされませんでした。でも、どこにも真似はできない自信作なので、今まで花火を扱ったことのないようなお店に自分たちで直接ご提案して、販路を広げてきました。今では逆に問屋さんに「あの花火は扱ってないの?」と問い合わせが入るようになり、たくさん取り扱っていただいてます(笑)。

以前はネットショップも細かくチェックして、値引きをしていたら電話して…という地道な作業を繰り返していましたが、それがブランドの価値を守ることにもつながったと思います。

【写真:「線香花火筒井時正 花々」 10000円(税抜)
火薬は宮崎産の松煙を使い、紙は八女市の手すき和紙を草木染にしたもの、みやまの和蝋燭、大川の家具職人が作る蝋燭立と、地元筑後地区の原料にこだわって作った贈答用セット。】

Q. ワークショップなども積極的に行っていらっしゃいますよね?

今日子さん:花火の魅力をもっとたくさんの方に伝えたいんです。ワークショップで作った花火は、ギャラリー内の暗室ですぐに試せるので、皆さんとても喜ばれます。

でも実は、10本作ってもほとんどうまくいかないくらい、線香花火を作るのは難しいんです。全て細かい手作業ですし、紙のより方や火薬の分量で、火花の出方も全然違います。一度線香花火を作ると、それを作るのがどんなに難しいことなのか実感できるので、皆さん1本1本大切に楽しんでくださいます。

Q. これから先、どんなことを行っていきたいですか?

Q. これから先、どんなことを行っていきたいですか?

良太さん:今は国産花火の原料を確保することすら難しい。せっかく継承した技術と伝統を絶やさないために、入手困難な「スボ手牡丹」の軸になる藁は、自分たちでお米を作るところから始めて確保するなど、あらゆる手段を使って努力しています。

今日子さん:自由に花火ができる場所も減っているので、空き家を買い取って「夜はもれなく花火が楽しめる民泊」の計画を進めていたり、冬場も花火製造所を訪れるきっかけづくりのために敷地内のコンテナでパン屋を始めたり。周りにぶどう畑がたくさんあるので、いつかそのぶどうでジュースやワインも作ってみたい。やりたいことがいっぱいで毎日本当に楽しいです!

それから、昨年HPに「玩具花火研究所」を立ち上げました。私たちが所長で、なかにわデザインオフィスの中庭日出海さんと青柳理佳子さん、九州大学で宇宙工学を研究している井上智博さん、元広告代理店勤務で現在、狩猟と花火づくりを行っている大島公司さんが研究員となって、デザインや化学などさまざまな視点から「花火製造」について考えていくプロジェクトです。

このプロジェクトに携わる方とのつながりで、硫黄島を訪問することになり、合同プロジェクトなども現在進行中です。花火業界だけでなく、いろいろな分野の方とのつながりができることで、花火の楽しさがもっと多くの方に伝わるきっかけになれたら嬉しいです。

筒井時正玩具花火製造所  三代目 筒井 良太 筒井 今日子

筒井時正玩具花火製造所  三代目 筒井 良太 筒井 今日子

筒井良太  /1973年生まれ、福岡県出身。
筒井今日子/1976年生まれ、福岡県出身。
「ねずみ花火」の考案者でもある祖父の代から、約90年玩具花火の製造を行う「筒井時正花火製造所」の三代目夫婦。日本国内で唯一の線香花火「スボ手牡丹」のほか、動物モチーフ、スケルトンなどのユニークな花火を次々と開発。

また、花火製造だけではなく、東京・代々木上原のレストラン「セララバアド」とのコラボやイベント開催、原料確保のための米栽培、パンの製造・販売、花火ができる宿や工場周辺のぶどうを使ったワインの開発をプランニングするなど、その挑戦と夢の輝きは留まるところを知らない。2017年、「TOPAWARDS ASIA(June/2017)」、「COOL JAPAN AWARD 2017」受賞。

筒井時正玩具花火製造所
福岡県みやま市高田町竹飯1950-1
TEL:0944-67-0764

筒井時正玩具花火製造所HP
玩具花火研究所HP
Facebook
Instagram