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夕方になると渡辺通沿いの歩道に現れる、ブルーと赤のポップカラーの屋台「Telas&mico(テラス&ミコー)」。他のレトロな屋台とはひと味違う海外風の佇まいで、若い男女がオシャレに食事を楽しんでいる姿も印象的だ。
実はこの屋台、福岡市春吉にある同名店舗の2号店に当たるという。この屋台を手がける店主・久保田鎌介さんは海外の有名店でシェフとして活躍したスゴ腕の持ち主。そんな逸材がなぜ屋台を…!? そんな気になる疑問と、久保田流の屋台の楽しみ方を伺った。
Q. 久保田さんが作る多国籍料理はイギリスで学ばれたそうですね?
大学卒業後は、飲食業界とは全く別のアパレル会社で働いていました。ハードな日々に疲れてしまって、外へ飛び出したくなったんですよ(笑)。もともと外国で暮らしてみたいなと思っていたので、退職後にイギリスへ行きました。
2002年当時はワーキングホリデー制度の導入前で、僕には試験的に2年間の就労ビザが発行されました。イギリス・ロンドンへ 渡り、居候先だったフィッシュ&チップス屋のお父さんに紹介してもらって、ホテルのレストランのウェイターとして働き始めました。これが僕の初めての飲食店での仕事です。え、英語ですか? ギリギリの日常会話レベルでした(笑)。
帰国後、福岡でカフェを開きましたが、そこでハッと気付くんです。「自分にはウェイター経験しかない……。もっと料理を学ばねば! やり残したことがイギリスにあるぞ!」と。再びイギリスへ渡り、ロンドンとパリに5年間滞在し、10軒の飲食店で料理人として腕を磨きました。
イギリスって「料理がいまいち」と先入観を持たれがちですが、実はミシュランスターの獲得店が多い国なんです。いろんな国の料理店が集まっていて、僕もイタリアン、フレンチ、モダンブリティッシュ、モダンジャパニーズなどいろんな店で働くことができました。
Q. 福岡に戻り「テラス&ミコー」を始めたいきさつは?
イギリス滞在中にモナコの飲食店からオファーがあり、本当はそのままモナコへ移住する予定でした。
ビザの申請のために一時帰国した際、福岡で飲食店を経営する友人から「今だけちょっと手伝ってよ」と声がかかり、友人の店の定休日に、僕が料理をふるまう機会をつくったんです。寿司や焼き物からフレンチなどさまざまな多国籍料理を、自由気ままに出していました。そしたら意外と人気が出ちゃって……。
「このまま福岡で飲食店をやりなよ!」と周りに背中を押されたこともあり、結局モナコへは行かず、福岡で飲食店を始めることに。
こうして開いた「テラス&ミコー」は、フレンチもあれば寿司もある。今までイギリスで学んだ料理や僕が作ってきた料理を提供する店です。そのときひらめいた創作料理を出す店なので、ジャンルをひとつにはくくりにくいかもしれません。
その中でもフィッシュ&チップスは、現地のレシピ通りに出していたらイギリス人のお客さんから「故郷の味だ」と喜んでもらえて、自然とうちの看板メニューになりました。
Q. 2号店がまさかの屋台! なぜ屋台にしようと思ったんですか?
僕は飽きっぽいところがあるので、同じ店に毎日立つことを窮屈に感じることがありました。知人から屋台出店の公募の話を聞いて、やってみたい! と思ったのが始まりです。
屋台といえば長年継承されている店舗がほとんどですよね。そんな中で新規枠として屋台業界に身を投じてみるのも面白そうだし、「テラス&ミコーの2号店は屋台です」っていう意外性もみんなに楽しんでもらえそうだなと感じました。誰もやってないことに魅力を感じるタイプなので(笑)。
とはいえ、28店舗の空き枠に104店の応募があり、難易度が高くてビックリ! 募集要項にある事業計画書の作成が大変で、面接でもプレゼンテーションをしました。ありがたいことに当選して、今こうして屋台を出せています。
Q. ブルーグリーンのかわいい屋台は、誰がデザインしたんですか?
この2号店の立ち上げは、常連客だったデザイナーやイラストレーターの友人に手伝ってもらいました。「屋台自体にデザインを加えてみよう!」とテーマを掲げ、コンセプト作りから設計まで熱心に打ち合わせを重ねました。
屋台デザインの設計と製作は、店舗設計やオーダーメイド家具を手がける「Lentement(ラントマン)」に依頼。
木の質感はもちろんのこと、テーブルの広さも特徴で、なんと扉の支柱にドイツ車の「BMW」の部品を使用しています。従来屋台の約2倍の費用がかかった、まさに“屋台界のロールス・ロイス”です!
壁の黒板に描かれた屋号は、福岡在住の画家・沖賢一さん直筆のカリグラフィー。そして器は「nishimokko(ニシモッコ)」の木製プレートを使用しています。まさか屋台で、木のお皿で食事するなんて思いませんよね! 木のぬくもりから感じとれる心地よさを、屋台でも体感してもらえたら嬉しいです。
Q. 久保田さんならではの特別な仕掛けを設けたと聞きましたが?
コの字型のカウンターの一角に、立ち飲みできるバーカウンターを設けています。女性一人で「ちょっと一杯だけ」とフラッと立ち寄れる気軽さを出したくて。おそらく、屋台で立ち飲みの営業許可を取っているのはうちだけだと思います。
春吉の店で出しているメニューとは切り離して、屋台限定の鉄串焼きを出していますが、福岡県産華味鳥を使ったタンドリーチキンや、地元の漁港で獲れた真鯛や野菜がとっても好評です。レストランと同じクオリティーで味わってほしいので、料理に添える隠し味も自家製ソースを使っています。
通常、福岡の屋台の“締め”はラーメンですが、うちの“締め”は焼きタルトとコーヒー。こんなメニュー構成も、うちだけかもしれませんね(笑)。
Q. これから屋台で挑戦したいことを教えてください。
繁華街の屋台は、本当に刺激的。オープンスペースですし、人との距離が尋常じゃないほど近い。道を行き交う人とパッと目が合った瞬間その人が店に入ってくることも多くて、思いがけない出会いがこの狭い屋台内でたくさん起こっています。
日頃から多くの観光客の方に利用してもらっていますが、観光客にとって福岡を楽しむための案内ツールは観光ガイドブックしかないみたいで、何だかもったいないなと感じています。
地元がおすすめする“本当の名店”をもっと知ってもらいたくて、僕が大好きな麺屋さんとコーヒー屋さんの紹介記事をメニュー表に挟みはじめました。
今後もこの記事を1ページずつ増やしていきたいですし、ゆくゆくはマップ付きの観光ペーパーも作りたいと考えています。
あと今年はアート展を開くのが目標! 屋台の中にアート作品を展示して、気に入ったものがあったら購入できる。これから具体的に企画を詰めなきゃと思っているところです。