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いびつなシルエットをした摩訶不思議なマスコットと、繊細なタッチで描かれたかわいい少女に、思わず見入ってしまう人も多いだろう。立体的なマスコットと、平面の絵という、相反する作品が実は一つのストーリーで繋がっているところも好奇心をくすぐられる。この作品を手がけるのは、福岡を拠点に活動するアーティスト・野口剣太郎さん。Instagramや個展で作品を発表し、アート界の巨匠からも一目置かれる存在だ。そんな話題の作者の素顔を覗きに、製作現場へ伺った。
Q. どういうきっかけで、4696-1616のアーティスト活動を始められたのでしょうか？
僕の本業は、主にご依頼をいただいてその目的をカタチにするグラフィックデザイナーです。クライアントとイメージを共有し、整頓・効率なども考えながら行います。ですので仕事柄、きれいに整ったものが好きですが、息抜きに普段仕事で使わない脳を動かしたくなって、リラックスするというのもあって、裏紙にモンスターや女の子のイラストを落書きしていたんです。
創造の世界を描いたり、上手い下手関係なくフェルトを縫ってマスコットをつくったり。次の日冷静な頭で見ると「ん？なんだこれ？」と自分でもよくわからないこともあります・・・（笑）。
本格的に活動しはじめたのは、8年前。人形作家の友人とバースデープレゼントを交換しあっていたんですが、途中から「リクエストを受けた既製品じゃなくて、手作りのモノとか“その人を思って選んだモノ”を渡し合おう」となり、そこで僕は無謀にも、人形作家に手製のマスコットをプレゼントしたのです。
この作業が意外と楽しくて、はじめのうちは100円均一などで材料を安く集めて、完全に “遊び”として作品を製作していきました。
Q. 野口さんの作品はちょっと毒っ気があってかわいいですよね。インスピレーションはどこから？
「4696-1616（シロクロ・イロイロ）」の名前で、マスコットと絵などその時々、今自分が楽しい手法で創作しています。今楽しいのは、モンスターと女子高生のかけあいをマスコットと絵で表現しています。僕自身、ギャップが好きなんですよ。例えば、かわいい女の子が意外とグロテスクなものを持ったりすると、その自己主張に魅力を感じます。僕がつくるマスコットも、誰かの自己主張に使われたら嬉しいなと思います。
インスピレーションは、幼少期に授業中妄想していた世界や、日常の違和感やダジャレなどなんでもです。自分が気になったことを掘り下げ、頭の中で創造性を高めます。落書きしたり、マスコットにしたり、いろいろです。
しっかりとしたゴールは決めずに、楽しい方へ向かって夜な夜なお酒を飲みながら自由に創作しています。
Q. 野口さんは、もともと手芸が得意だったんですか？
玉どめ、ボタン付け、ブランケットステッチ。裁縫でできたのはこの3つだけです！ 小学校の家庭科の授業で習ったくらいで、中でも「ブランケットステッチ」は響きがかっこいいという単純な理由で覚えていました。
逆にこの3つ以外は何も知らなかったので、独学というか、自由に楽しみながら縫っていった感じですね。
実はデザイナーになる前は寿司屋で働いていたので、修業中に大根の桂むきの練習をずっとしていました。
結構この淡々とした反復作業が好きで、刺繍も似ていますよね。黙々と縫う作業が僕に向いてるなと、改めて感じました。
Q. 趣味で始めたマスコット作りを、どうやって世間に発表して広めたのでしょう？
大々的に「発表」というと照れくさいですし、当初は作ること以外の広報活動は特にしていませんでした。絵を描いても人に見せることはなく、自己満足で終わっていましたね。けれど、東日本大震災を通して「人はいつどうなるかわからない。いつかやりたいと思っていることがあるのに、なぜ自分は今やらないのか」と自問自答して。自分の作品が人からどんな風に見られるかにも興味があったので、今やらなきゃと、外に向けて発信してみようと動いてみました。
まずは2011年に、福岡を拠点にしたリトルプレス・ZINEのイベント「10ZINE（テンジン）」に友人のデザイナーに誘われて参加しました。
僕が発表したZINEは、イラストと刺繍をドッキングして作ったストーリー仕立ての「Jack x Patch」という作品でした。
この10ZINEで素敵な出会いがあり、佐賀のギャラリー『PERHAPS（パハプス）』のオーナーから「個展をやってみませんか？」と誘ってもらったんです。
ずっとコツコツつくってきた作品があったので、初の個展では120体のマスコットを展示しました。 1回目の個展で来場者に楽しんでもらえたので、2回目はもっと楽しんでもらいたくて、全56体1体ずつQRコードを付けて短い動画も観てもらうような仕掛けをしました。
みなさんにクスッと笑ってもらうことが、僕の喜びです。
Q. 現代美術の巨匠から、直々にオファーがあったそうですね？
『PERHAPS』にて3年連続で個展を開き、4696-1616の存在を多くの方に知ってもらえましたし、地元福岡のギャラリーからも声をかけてもらえるようになりました。Instagramで描き下ろしの絵をアップしはじめてから、新たな広がりも！
昨年、Instagram経由で村上隆さんに絵（裏紙に描いていた落書き）を買っていただいたんです。とても驚きましたが、さらに 「うちのギャラリーで絵の個展を開きませんか？」と、マスコットではなく絵の展示のオファーをいただいたのです。
それから絵の創作に集中して、オファーから3ヵ月後に東京のギャラリー『Hidari Zingaro（左甚蛾狼）』で初のイラストの原画展が実現しました。マスコットなしの個展は初めてだったので本当に良いのかな？と思いながらも、今できる全力で描き下ろしました。しかし、本当は設営日を迎えるまでは「これはドッキリかも！？」と疑ってました。
【写真：絵の個展『白と、黒と、いろいろと。』では、作品と蛍光紙をクリップボードに挟んで展示。空調の風で偶然ゆれた絵から色があらわれたので、そのまま採用。絵が動いて見える展示となった！】
Q. 4696-1616としての今後の展望を聞かせてください。
「なにこれ？」と思われるものを創作できたらなと思っています。目にした人の好奇心をくすぐり、誰かと誰かのコミュニケーションツールとなるアイテムになれたら嬉しいです。
そして密かなる野望もあるんです。女子高生がよくバッグにマスコットをぶら下げていますよね。僕が創作したマスコットをぶら下げてくれたら嬉しいなぁと思っています。これには理由があって、普段交わることのない人と作品を通して繋がる面白さを感じたくて。僕のことを知らないけど、僕の作品を持っている、という不思議な感覚を味わいたい。今まで全くなかった接点を、作品を通してどう生み出すか。そんなことを想像しながら創作しています。
【写真：創作した年代や、手法も異なるマスコットたち。みんな個性的】
近年はギャラリーさんからオファーいただいた企画展に集中していたのでサボっていましたが、毎年4月6日を「シロの日」と掲げて大々的なイベントを行い、9月6日を「クロの日」と呼んで小規模なイベントを開催しています。
次の4月6日と7日は、うちのデザインオフィスで2日間ですが展示会を行う予定。絵とマスコットをどう絡めるか。どういうストーリー仕立てにするか。その答えは、「シロの日」のお楽しみということで！
Q. 4696-1616の活動で得たお金と本業との違いはありますか？
4696-1616で得たお金は、創作に必要なものにしか使いません。材料購入や工具や試作などに使っています。僕のマスコットや絵を購入していただいたものなので、また次の創作を期待してもらえているのかな？と思っているからです。
僕にとって大切な活動費です。ここだけは、かなり真面目です。
