糸島の山を救い経済を回していく。地域を元気にする場所「糸島くらし×ここのき」
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糸島の山を救い経済を回していく。地域を元気にする場所「糸島くらし×ここのき」

LOCAL CREATION

目次

糸島と聞いてまず頭に浮かぶのは、海岸線沿いのカフェやそこから眺める美しいサンセット、ビーチフェスやカキ小屋など、「海」に関連するもの。そんな中、糸島の「山」を元気にする拠点としてスタートし、現在は筑前前原駅前のエリアを盛り上げる中心地となっているのが「糸島くらし×ここのき」だ。

店内には糸島の作家が作った木工品や陶器、アクセサリーからおやつまで、暮らしの中にあるさまざまな商品が並ぶ。開店と同時に途切れることなくお客様が訪れる中、店主の野口智美さんと、スタッフの千々岩哲郎さんにお話を伺った。

Q. 「糸島くらし×ここのき」を始めた理由は?また、なぜ「山」に注目したんですか?

Q. 「糸島くらし×ここのき」を始めた理由は?また、なぜ「山」に注目したんですか?

野口さん:糸島の山の木を売りたい、と思ったからです。もともと環境問題に関心があって、地域の活動に参加する中で、糸島の山が荒廃していることを知り、何とかしたいと思いました。

でも、具体的にどうしたらいいのか分からなくて。とにかく何かお手伝いをさせてほしい、と糸島にある小さな木工所にお願いして、いろいろと山のことを教えてもらいました。

山は、生い茂った木を間伐(木を間引くこと)して定期的に手入れをしないと荒れてしまいます。それに、間伐しても再利用にはコストがかかるので、糸島のように林業地でないところは経済として成り立たず、間伐した木はそのまま山に放置されるんです。

せっかく植えてくれた木を切って捨てるのは本当にもったいないし、地元の木は放置しているのに、海外からお金と時間をかけて建材を運んでくるのは矛盾していると思いました。

木を消費する人がいて利益が生まれれば、経済が回ってもっと山を手入れすることができるという話を聞き、じゃあその場を作ろうと思って、お店を始めることにしたんです。

Q. 開店資金などはどれくらいかかりましたか?

野口さん:トータルで150万円くらいです。とにかく気持ちはあるけれどお金がないところからスタートしたので、解体した古い家のドアや窓ガラスを譲っていただいて大工さんに枠だけ作ってもらったりして、お金をかけないように工夫しました。

【写真右:桜のボールペン 270円(税込) 糸島の障がい福祉事業所「MUKA」が制作した作品。自分たちで切った糸島産桜の木を使用している。】

千々岩さん:お店の壁も、ワークショップみたいに「漆喰塗り体験」と言って、参加した方にやってもらいました。

その頃はまだ、糸島が今のように全国的に知られていなかったですし、20代の作り手さんなど「今からやるぞ!」という気持ちを持った方が多かったので、勢いで乗り切った感じです。

その中で作り手さんたちとも出会うことができたし、そういう苦労を共にしてきているから、みんな同志みたいで、今も根っこでつながっている感じですね。

野口さん:何にも分からなくて、最初は作家さんに納品書の書き方を聞いたり、支払いはよそでどうしてるのか聞いたり(笑)。でもそうやって、決まりを作らずにそれぞれの作り手さんに寄り添うスタイルだったので続けてこられたのかもしれません。

Q. たくさんの商品を取り扱っていらっしゃいますが、セレクトのポイントは?

Q. たくさんの商品を取り扱っていらっしゃいますが、セレクトのポイントは?

野口さん:暮らしに必要なものは何でも揃えたいんです。衣食住などのくらしに必要なものが、全部住んでいる場所で賄えたら幸せなんじゃないかな、って思うので。

今は70軒ほどの作家さんのものを取り扱っていて、全て糸島で作っているものや、糸島の素材を使っているものです。

【写真:季節のジャム 480円(税込)〜605円(税込) 「ジャムCafe可鈴」のジャムは、低糖度。さらに食感を楽しんでもらうために、果肉を残したジャム作りを心がけている。】

ものがいい、商品力があるというのは大前提。作り手の方が、それを作って、売ることでどうしたいのか、という思いに共感できることを大切にしています。

Q. 千々岩さんが「前原歩帖」を作ることになったきっかけは?

Q. 千々岩さんが「前原歩帖」を作ることになったきっかけは?

千々岩さん:僕は、旅先で「誰に出会ったのか」でその街の景色って変わると思うんです。せっかく糸島まで来てくれたのに、バスの待ち時間はスマホを見ているだけ、ピンポイントで「お店」「海」「山」をさっと回るだけでは寂しい。何か街中を歩けるようなものがあるといいね、とレストラン「古材の森」ディレクターの有田君とよく話していました。

そこにアウトドアショップ「GOOD DAILY HUNT」の林さんが加わって、街の散策マップである「前原歩帖」が誕生しました。林さんは関東から移住してこられたので、「外から見たこの土地の良さ」が分かるんです。観光目線と街の歴史の紹介、個人事業主を応援したいという気持ちなどを形にしました。

【写真:「前原歩帖」。掲載者からの協賛金で自主製作している前原地区のMAP。筑前前原駅横の糸島市観光協会や糸島市役所でも配布している。】

【写真:店舗内にある「タナカフェ」では、オーナー自らが豆から仕入れ、自家焙煎したコーヒーを提供。ご近所の常連さんも多い。】

Q. オープンして来年で10年。何か「変わった」と感じることはありますか?

Q. オープンして来年で10年。何か「変わった」と感じることはありますか?

千々岩さん:おかげさまで、少しずつお店の売上も伸びてきています。ここ最近で嬉しく思うのは、オープン当時は一人で活動していらっしゃった作家さんに、お弟子さんができたり、パートさんを雇っていたりすること。利益や雇用が生まれていることを実感します。

それに、観光で訪れる方に向けて作った「前原歩帖」が、新しく糸島に引っ越ししてきた方々から重宝されていることを知り、驚きました。ご近所に何があるのか分かるので、実際に暮らす人たちのコミュニケーションツールにもなっているみたいで、それは想定外の喜びでした。

観光地としての認知度も上がり、関東や関西のお友達から「遊びに行きたいから案内して」と言われる地元の方も多いそうです。「こういう情報が欲しいんだな」という新たなニーズが分かるので、少しずつ地図に反映させていけるといいな、と思っています。

【写真:メモラージュマグカップ 3024円(税込)〜4320円(税込) 「陶工房Ron」の龍太郎さんの作品。海が近いため、青色の釉薬作りにも力を入れて制作している。】

Q. これから先、どんなことを行っていきたいですか?

Q. これから先、どんなことを行っていきたいですか?

野口さん:今後は糸島の木材で作った家具を店舗に置けるようにしたいです。実は、1年前に木材を加工する機材を3台手に入れて、木材の加工を始めました。

木材の加工はお店をオープンする前からずっとやりたかったんです。今では鉋をかけたりカットしたり、木を削りだして、DIYで使ってもらえる材料屋さんとしての一面も持つようになりました。本業の方のような技術はありませんが、もっと気軽に木を使ってほしいという気持ちでやっています。

千々岩さん:僕は「前原手帖」を作って1年が過ぎたので、スタンプラリーをしたり、地図に描いてある建物のピンバッチなどのグッズを作ったりといった、小さいながらも来た方に満足していただけるようなイベントを企画中です。

この地図はお昼から夕方にかけての街歩き用として作ったんですが、今、九州大学の学生さんが夜の地図を作っているらしくて(笑)。すごくいい傾向だな、と嬉しく思っています。

前原地区以外にも、歩いて面白いところはたくさんあります。地図作りに興味がある方がいたら、必要なスキルや人材をお伝えして、その地区の方に作ってもらいたいです。

実際に暮らしている人たちが楽しみながらできること、その地域を盛り上げようと思う気持ちが一番大事だと思うので。住んでいる方が自分達でこういうものを作ろうと思ってくださったら大成功です!

糸島くらし×ここのき  野口 智美/千々岩 哲郎

糸島くらし×ここのき 野口 智美/千々岩 哲郎

野口 智美/1978年福岡市生まれ、糸島育ち。荒廃した糸島の山を手入れすること、そのために放置された間伐材を提供する場をつくることを目標に、2010年春に「糸島くらし×ここのき」をオープン。“住んでいる場所で全てが成り立つ暮らし”を目指し、糸島エリアの作り手さんによる暮らしに関するさまざまな商品を幅広く取り扱う。筑前前原駅周辺エリアを盛り上げていくため、「前原歩帖」の制作や企画・催事等を担う千々岩哲郎さんを始めとする仲間たちとタッグを組み、木を育てて森を作るように、活動を続けている。

千々岩 哲郎/1981年福岡市生まれ。オーガニックコットンの店舗運営を行っていた際に、取引依頼を受けたことをきっかけに「ここのき」との交流がスタート。現在は「ここのき」のイベント企画や催事等を主に担当。作家さんや地域の方とコミュニケーションをとりながら、前原地区全体の楽しさをより多くの方に知ってもらえるよう、情報発信を行う。

糸島くらし×ここのき
福岡県糸島市前原中央3-9-1
TEL:092-321-1020

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