求道的エンジニアが作る、世界最高のコーヒーのためのマシン
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求道的エンジニアが作る、世界最高のコーヒーのためのマシン

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ビジネスホテルのロビーと、大きな通りに面したカマキリコーヒーには、さまざまなお客さんがやってくる。ロビーで打ち合わせをするビジネスマン、ランチの後にコーヒーをテイクアウトして行く女性、近所の人、休憩に立ち寄った親子連れなどなど。一番人気はKAMAKIRI LATTE(500円)だ。

カウンターにずらりとセットされた試験管のようなセラーの中には、きっちり20.0gが計られたコーヒー豆。それを、グラインダーで挽いて、エスプレッソマシンで抽出する。このグラインダーを設計しているのが、ダグラス・ウェバーさんだ。「ぼくは、日常的に飲むコーヒーのおいしさのレベルを上げたいと考えています」と話すウェバーさんの、これまでの取り組み、そしてこれからやりたいことを伺った。

Q. このコーヒー用グラインダーが特別な理由を教えてください。

Q. このコーヒー用グラインダーが特別な理由を教えてください。

専門店でスペシャリティーコーヒーを淹れる場合は、まずミルで豆を挽いた後で、粉の量を計ります。ミルの中にある程度の豆が残り、正確な量が計れないからです。このやり方にはいくつかの問題点があって、まず大きな欠点は、1〜2割の豆が無駄になってしまうこと。さらにどうしても以前挽いた豆の残りが混じってしまい、淹れた時にコーヒーの雑味となってしまうこと。そして、挽いた後に計り直すという、無駄な行程が発生してしまうこと。

これらを解決するには、「挽き残りがでない高い精度のコーヒー用グラインダー」を作ればよいと考え、開発を始めました。

このグラインダーは、コーヒーミルとしてはありえないくらいの精密な部品を使用しています。だから、粉がマシン内に残らず先程の問題を解決できますし、さらにさまざまな種類の豆をこれ一台で挽くことができます。ダイアル式の正確な目盛りで、エスプレッソ用からドリップ用まで挽き分けることも可能です。強力な磁石を使うことで、ネジを外さなくても簡単にメンテナンスをすることもできます。

これらはすべて「味のブレがなく、いつ飲んでも極上の一杯をつくる」ためにやっていることです。

Q. モノづくりに最初に興味を持ったのは、いつだったか覚えていますか?

Q. モノづくりに最初に興味を持ったのは、いつだったか覚えていますか?

5歳の時に、ダイアル式電話を分解して、外側のベークライトのカバーを折ってしまったことを覚えています。小さい頃から、モノの仕組みに興味があったんですね。

陶芸に興味が湧き、スタンフォード大学在学中に日本へ留学。勉強とは別に、陶芸ができるのではないか?と下心を持って(笑)。九州大学へやって来ることになり、いま住んでいる糸島との縁ができました。
留学してからは、1日15時間くらい陶芸に没頭していました。モノづくりに携わる人はみんなそうだと思いますが、無の状態から一を生み出すのは、すばらしい快感があります。

その後アメリカに戻り、声をかけてもらっていたアップル社に入社。当時のアップルは、今のアップルと違って、就職先としてそこまで人気のある会社ではありませんでしたが、モノづくりの環境としてはとてもおもしろい場所でした。アップルの考え方に触れて、iPodやiPhoneの設計に携わったのは、とても有意義でした。その後、次世代のために新たな製造方法などを検討するアジアでのプロジェクトを任されて、再び日本へ。

いつかは独立したい、それが大好きなコーヒーに関わることだったらいいなと考えていました。ちょうど世界的にも日本でも、すっかり馴染みになったスターバックスコーヒーよりも、遥かにおいしいスペシャリティーコーヒーが登場し、それがみんなの日常になっていくのではないかという予感がありました。僕はその波に乗り遅れず、最前線で開拓したくて、独立を決意しました。

Q.アップル社でのモノづくりと、いまのモノづくり、違いますか? 同じですか?

Q.アップル社でのモノづくりと、いまのモノづくり、違いますか? 同じですか?

まったく違います。今のほうがずっとおもしろいですよ。もちろんアップルの製品が世界中に及ぼす影響力の大きさは、モノをつくる人間としては魅力的です。しかし当然ながら、すべて自分の思い通りにデザインできるわけではありませんよね。ぼくは「アップルの意思」の一部として働くわけですから。

それに比べて、いまは一人で一から十まですべて自分の意思で製作できるのが、とても楽しいです。ニッチな分野ですが、人々の生活を豊かにしていると、直に感じることができます。モノづくりのフォーカスが変わった感じです。

Q.コーヒーを入れている動作が、まるで茶道のようですね?

Q.コーヒーを入れている動作が、まるで茶道のようですね?

よく言われます。茶道については詳しくありませんが、儀式のような美しい所作ですよね。もし共通点があるとすれば、僕がマシンをつくる時に、使うシーンがより合理的になるようにデザインしていることに理由があるかもしれません。無駄のない動作で豆を投入し、グラインダーで挽いた後、流れるように粉を詰め、抽出をする。この過程で不要な動作が入らなくてよいようにデザインするのです。道具の設計がしっかりしていれば、それに従って、無意識に身体は動くと考えています。

時々想像するのですが、100年前のエンジニアは、まるで器具が自分の身体の延長上にあるように、自由自在に使っていたに違いありません。僕も、自分の手足のようにマシンを使いこなしたいのです。

Q.いま住んでいる糸島は、製作に影響を与えていますか?

豊かな自然はすばらしいです。ただ一つ残念なのは、地元の住民の人達の中には、そのすばらしさを当たり前のものとして受容していて、環境のことをあまり考えない人が、意外に多いということです。しかし昔から住んでいる人にとっては当たり前に周りにあったものですから、無理もないことかもしれません。

この自然のすばらしさに気づいてもらうためには、自分のような、外から入ってきた人間の意見が、役に立つのかもしれません。美しい自然は、何もせずにこのまま放っておいて、持続するものではありません。ぼくのデザインのスタンスと通じますが、生活においても「本当にそうなのかな?」とラディカルに考えることから、新しいものが生まれてきます。日々の生活も、惰性に流されず、根本から考え、行動に移す姿勢が大切だと思っています。

とはいえ、糸島の木々に囲まれた工房での開発は、とても充実しています。まるで映画『ジュラシック・パーク』のラボみたいでしょう? ジャングルの中でハイテクノロジーを扱う感じが。自然の中で、人間だからこそできるハイテクノロジーについて考えるのが楽しいんです。都会の中で考えるのとは、全然違います。

Q.ウェバーさんにとって、お金はどんな意味を持ちますか?

Q.ウェバーさんにとって、お金はどんな意味を持ちますか?

意外に考えたことがありませんでした。よく考えれば、もう一つの道具のようなものですね。お金があることで、できることが増える。

生活について言えば、まったく浪費家ではないと思います。いつでも収入に対して2ランク下くらいの生活をしようとする超節約派です。
しかし開発では、部品や材料はまったくケチらずに、贅沢なものを使っています。そうすることで、おいしいコーヒーを淹れることができ、手入れがしやすく、長く使えるよいマシンになるからです。僕が作っているマシンは、一生残るものですから、そういう意味では、「贅沢」ではなく「妥当な値段」と言えますね。

欲しいものですか? 無人島です。自分のボートでしか行けない、秘密基地のような島が欲しいですね。あまりに高価だと思いますか? 実は意外と射程圏内なんですよ(笑)。

Q.これからつくりたいモノはなんですか?

Q.これからつくりたいモノはなんですか?

このスティックブレンダーは、ちょうどお店に登場したばかりの新作です。チョコレートドリンクのために作ったのですが、スチームを出しながらマイクロフォームの泡を入れて撹拌するので、なめらかでスッキリした舌触りを楽しむことができますよ。工房では、いま開発中のエスプレッソマシンのことばかり考えています。

僕がやりたいのは、特別な一杯のスペシャリティコーヒーを淹れることではなく、日々のコーヒーのレベルの底上げをすること。何度も何度も「ふつうにおいしい」を経験して初めて、自分の中においしいコーヒーの基準ができると思うのです。そのために、僕の世界最高のマシンが役に立つはずです。

ダグラス・ウェバー Douglas Weber

ダグラス・ウェバー Douglas Weber

1979年生まれ、アメリカ・カリフォルニア州出身。スタンフォード大学在学中に、京都大学や九州大学に留学。帰国後、アップル社に入社。プロダクトデザインエンジニアとしてiPodやiPhoneの開発に携わり、2007年にはアジア圏のプロジェクトリーダーとして再来日。2014年に独立し、グラインダーなどコーヒーにまつわる製品を製造・販売する「Lyn Weber Workshops」を設立。2019年福岡市に、自身の製品で淹れたコーヒーを提供する「カマキリコーヒー」をオープン。

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