「カッコイイ」を表現し続ける、クリエイティブエンターテイナーとは。
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「カッコイイ」を表現し続ける、クリエイティブエンターテイナーとは。

my story

時にTシャツをメインにしたデザインチーム「cheese cheap shop」、時にヒップホップ・グループ「週末CITY PLAY BOYZ」のメンバーとして、アート・音楽の垣根を超えたクリエイティブワークを行っているpen_publicこと吉松裕也さん。フレキシブルな表現活動をとことん楽しむその存在が生まれた、気になるプロセスは?

「カッコイイ」を、作りたい。

「カッコイイ」を、作りたい。

今でこそアートや音楽を生業にしている僕ですが、“ものづくり”は、学校の図工・美術で経験したくらい。大学も商学部で、いわゆる普通の大学生でした。ただ高校時代からダンスを始めていた妹に影響されて、大学では自分もロックダンスに興味を持ち、クラブやイベントなどにはよく足を運んでいたんです。踊るより、場を眺めることが楽しくて。すると同じようなスタンスでフロアを眺めている人がいて、それがのちに一緒に活動をするようになる相方のノスケ(「週末CITY PLAY BOYZ」メンバー・north NADO)。お互い、何となく通じるところがあったと言うか、「俺らが一番カッコイイ」と言い合える存在。それがきっかけで、Tシャツブランド「cheese cheap shop」を立ち上げました。言葉では上手く表現できないのですが、「とにかく俺らが一番カッコイイ」ということを表現できる媒体のひとつがTシャツだったのかもしれません。そしてその時、彼が「何か絵を描いてみれば」って言ってくれたのが、pen_publicとして活動し始めたきっかけですね。

Tシャツ作りは、究極の「遊び」

Tシャツ作りは、究極の「遊び」

そこからは、僕が絵を書き、相方がパソコンでデザインをする流れが生まれました。始めのうちはお金もありませんでしたし、在庫を抱えるのもイヤだったので、1枚作ったらインスタグラムにアップして、欲しいという人が現れたらサイズを尋ねて製造。袋に入れて届けるという感じでした。その後、販売数は増えていったんですが、これをビジネスにとか、儲けようみたいな意識は全くなかったですね。大学を卒業したら就職しようと考えていましたし、Tシャツ作りはただ楽しいからやる。そのスタンスでいることが一番カッコイイことだと思っていました。

欲しいものしか、欲しくない

欲しいものしか、欲しくない

大学卒業後は、Tシャツ作りを続行しつつ、IT系の広告代理店にプランナーとして入社しました。パソコンは触ったことがないけれど、面白いことを考えるのは好きでしたし、会社の居心地も良くて。でもしばらくすると、社会の中にいる自分にちょっとした違和感を感じるようになって。仕事すればするほど、自分が必要とする以上の情報が入ってくるというか、自分のインスピレーションに、あまりよくない影響がある気がしてきたんです。例えばですけど、「ファンタジー小説を書きたいのに、政治のど真ん中にいなきゃいけない感じ」(笑)。

きっかけになったのは旅でした

そんな時、友人のタイシ(「週末CITY PLAY BOYZ」メンバー・bill)から、アメリカに行かないかと誘われたんです。それまでは会社で3年は頑張ろうと思っていたんですけど、一瞬でアメリカに気持ちが持っていかれました。その後会社を退職し、コツコツ貯めていた25万円を握りしめ、男5人でまるまる1ヵ月、アメリカを横断する旅へ。人生初の海外は最高でしたね。L.A.からN.Y.まで車で移動しながら気になる場所があれば立ち寄って、食べて笑って。終始楽しかったです。途中、ラスベガスのカジノで大負けしてしまい、かなりの貧乏旅行になったことを除けば…。

その旅に出る前に、福岡市・渡辺通の「STEREO COFFEE」から、作品を展示しないかという話をいただいていたんです。会期は帰国後の翌日から。準備期間がないことがネックだったのですが、同店に勤める先輩が「アメリカ道中で描いて来たら」と言ってくれて。それで生まれたのが、日々のレシートを使った絵日記的作品です。楽しかったことはもちろん、カジノで大負けしたことも作品にしたんですけど、展示の際、作品の表面的なことより、僕が過ごしてきた時間を見てもらっているような不思議な感覚があって。そこに新しい創作活動の面白さを感じたんです。きっと、アメリカへの旅がなければ、そういう思いを抱くこともなく、アーティストとしては始まってなかったと思います。旅に誘ってくれたタイシに感謝ですね。

音楽というジャンルでの活動は?

大学の最終学年で絵とTシャツ作りを同時に始めたんですけど、その後、大学の仲間がビートを作ってきたのをきっかけに、相方やタイシも一緒に曲を作ったりリリックを書いたりをやり出して。それがヒップホップ・グループ「週末CITY PLAY BOYZ」の始まりです。イベントに出たりして、卒業後には、ちょこちょこライブに呼んでもらえるようにもなりました。その活動もアメリカ旅行を機に変わりました。僕とタイシが旅に出ている間、相方とリーダーのユースケ(BUGS)の2人が新しいビートを作ってくれていて、帰国組が作ったリリックと重ねることで、ものすごく面白いものが生まれたんです。

「週末CITY PLAY BOYZ」としては、2019年9月4日に、ファーストアルバム「Tonight.」をリリースします。これまでに「Caroline EP」「Mattew EP」という2つのデジタルアルバムをリリースしているのですが、それはキャロラインとマシュー、ふたりの男女の1日をそれぞれのアルバムで追って、夜に同じクラブで出会うというコンセプト。今回のアルバムはその夜をイメージしたもので「Tonight.」に。流れは先の2作を作った時から決めていました。そんなストーリーを、いちいち作っていくのも楽しいんです。9月には福岡、10月には東京でリリースパーティを予定しているのですが、将来的にはアメリカにもツアーで出かけてみたいですね。

《2019年9月4日にリリースするニューアルバム「Tonight.」は全13曲入り。1080円》

枠を超えた表現をしていきたい

枠を超えた表現をしていきたい

pen_publicとしては今年1月に、懇意にさせてもらっている福岡市・薬院のバーバー「MERICAN BARBERSHOP FUK」にお声がけいただいて、伝説のホラー映画「サスペリア」のプロモーションに関わらせていただきました。映画を上映しながらライブやアート、フード、ドリンクなども楽しむイベントだったのですが、僕は絵と空間づくりを担当。ここで「空間」という新しいフィールドが加わり、表現者としてもう一歩進めたような気がしています。

今はクリエイティブ活動をしながら、福岡・住吉のゲストハウス「THE LIFE hostel & bar lounge」のスタッフとしても働いていますが、ここでもアートディレクションなどを担当させてもらっていて、とにかく刺激的です。

《「THE LIFE hostel & bar lounge」にはpen_publicの作品を多数展示》

常にいろんなことにチャレンジしているように思われがちなのですが、僕自身は一人じゃ何も決断できないタイプ。絵や服、音楽の道に進んだこと、旅に出たことも含め、常に周りの人に助けられてきたんです。ただそこに柔軟に反応してきたからこそ、今がある。それでもいいかなと。将来的には、自分で何かを決める場面に出会うかもしれないですけどね。

ちなみに僕は自分を表現する場合、例えばミュージシャンとか、イラストレーターではなく、一人の人間として見て欲しい。だから、あえてクリエイティブエンターテイナーだと名乗っています。音楽とかアートとかの活動バランスも特に決めず、その時々に合ったスタイルの表現ができれば。その上で「仲間が楽しく揺れてくれたら、街も楽しくなる」ことが叶うと嬉しいです。

やりきれない事態こそ、表現の源。

やりきれない事態こそ、表現の源。

これは自分で作ったフレーズで、僕の座右の銘です。「幸せな時間」はもちろん大切なんですけど、僕にとっては感情の起伏の谷底部分が一番大切というか。そこで感じたやりきれない想いが表現の源になっている。だからどんな状況が来てもいいかなと思っています。そうして作品に映し出される表現のニュアンスやテイストが、時々で違うところにも自分らしさを感じますし、人生を振り返った時、この絵はあの時の作品だなとか、人生がもろに反映されていくのも面白いんじゃないかと思っています。

今思う、「お金」や「稼ぐこと」

「これが欲しい」とか「これが食べたい」とか、さらには「お金が欲しい」という願望すらあまりないんです。ただ、遠い国の大切な人に急に会いに行くとか、L.A.のライブに誘われた時にサッと移動できるような、カッコつけたい時にお金を惜しまない生き方はしていきたいですね。

あとは、自分の利益を追うよりも、常にロマンスに夢中になれる男でいたい。自分が稼いでいくお金=人生の中で感じられるエモーショナルな記憶の数にしていけたら嬉しいです。

吉松裕也(pen_public)

吉松裕也(pen_public)

1993年、福岡県生まれ。大学在学中にTシャツブランド「cheese cheap shop」を立ち上げ、その後、ヒップホップ・グループ「週末CITY PLAY BOYZ」のメンバーとして音楽活動も開始。さらには「THE LIFE hostel & bar lounge」のスタッフとして、館内カフェのアートディレクションも務める一面も。

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