子どもの「やりたい!」から始まる教育を。ストリート系教育者の実践とは?
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子どもの「やりたい!」から始まる教育を。ストリート系教育者の実践とは?

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子ども向けのプログラミング教室「ITeens Lab. アイティーンズラボ」を経営しながら、子どもが主役のITフェスティバル「EXA KIDS エクサキッズ」を運営する古林侑樹さん。ちょうど取材日は2019年の「エクサキッズ」が終わったばかりのタイミング。いわゆる“社長”“先生”“プログラマー”の類型的なイメージを軽々と飛び越え、子どもの教育の本質について実践する古林さんが、なぜそのような考えを持つに至ったのかを伺います。

Q.まず、今年の「エクサキッズ」はいかがでしたか?

Q.まず、今年の「エクサキッズ」はいかがでしたか?

「エクサキッズ」は、子どもたちの成功体験をつくることを目的に行っています。昨年に続き、今年が2度目。子どもたちのプログラミングコンテスト「ITキッズコンテスト」でのプレゼンテーションを中心に、ドローンやロボット、セキュリティなど、ITにまつわるいくつかの競技を実施しました。
目標にしていた来場者数には届かなかったのですが、参加者はもちろん関わった人すべてが「感動した」「子どもたちのポテンシャルを感じた」と口々に言ってくださったのが印象的でした。子どもたちが、自分のやりたい気持ちに従えば、すごい力を発揮できることを改めて感じた一日でした。

Q.古林さんは、自分のやっていることを、どのように人に伝えていますか?

Q.古林さんは、自分のやっていることを、どのように人に伝えていますか?

僕は自分のことを「ムーブメントメーカー」と自称していて、あまり教育者だと思っていないところがあります。

ただ小さい頃から、物事の根源的な部分から疑問を持つ性格だったことが、いまやっていることにつながっているのかもしれません。「本当にそうなのか?」と考えることが、すべての基本にあると思っています。
僕がふだんどういうふうに物事を考えているのか、少し伝わるエピソードをお話ししますね。僕は、ルールやマナーというのを守るか守らないかは、自己責任だと考えています。というか、なんのためにそのルールがあるのかを考えないのは愚かなことだと思っている(笑)。
加えて、高校生の時に江戸川乱歩の本で読んだ「プラクティカルジョーク」というものに、とても惹かれました。「冗談のいたずら」という、なにげない日常を、ちょっと変えて楽しむというものです。

以前僕はバンドに熱中していて、まぁ行儀がいい感じではなかったのですが、そのバンド仲間たちで、交番の窓拭きをしたことがあります。当然お巡りさんは驚いて尋ねますよね、「なにしてるんだ?」って。僕たちは至極真面目に答えます。「窓を拭いています」「自分たちでやるから必要ない。やめなさい」「お巡りさんたちには、もっと大切な仕事があるじゃないですか。ぜひ僕たちにやらせてください!」こういうやりとりを繰り広げます。

まっとうな言い分でいいことをしているので、お巡りさんたちには僕たちのことをやめさせることができません。こういう“ふつう”と考えられていることを、一から捉え直すのが、昔から好きなんです。

僕はふだんからまったくスーツを着ませんし、少し前までドレッドヘアにしていました。それでも、いわゆるきちんとした格好の人と比べて、子どものことや日本の将来のことを考えていないなんて言えるでしょうか? このように、日頃から本質的なことをユーモラスに表現できればいいなと思っています。

Q.古林さんが教育に興味を持つようになったのはなぜですか?

そんなふうだったので、小さい頃から「なんのために生きるのか?」「なんのために勉強しているのか?」ということを考えていました。僕のこの問いに答えてくれる人はいなかったわけですが、高校の倫理学の授業で、哲学者の存在を知ります。「自分が悩んでいたことを、筋道立てて深く考えてくれている先人たちがいた!」と理解者を見つけた気持ちでした。

また、父が学習塾を経営しており、以前から子どもたちに勉強を教える手伝いをしていました。この時に、「勉強を教える」ことと「学ぶ」ことの矛盾が見えてきました。塾では、そして学校でもそういうことは多いと思いますが、「試験や入試のクリアの仕方を教える」ことになりがちです。しかし、「テストでよい点数をとること」と「本当の学力をつけること」は、本質的に違います。

それでも、僕だけに気持ちを話してくれる子もいて、子どもの力になれている実感が少しありました。しかし子どもの声を聞く機会があればあるほど、その責任の重さを実感し、当時は信頼に応えられる自信がありませんでした。

Q.当時から、本来の「学び」ができればいいなと考えていたわけですね。それが、どうしてITと結びついたのですか?

ITについては、高校の頃からコーディングをやっていましたし、大学でプログラミングを研究するゼミに所属していました。

ある時期「TED」にすごくハマった時に、MITメディアラボで教育用プログラミングソフト「Scratch」を開発したミッチェル・レズニックや、子どもにプログラミングを教えるリンダ・リウカスのプレゼンテーションに影響を受けました。
リンダ・リウカスが語る、子ども向けのIoTのワークショップの方法は、僕にとって衝撃的でした。それは「パソコンについている起動ボタンのシールを、例えば皿に貼り、『押したらなにが起きると思う?』と子どもたちに問いかける」というもの。これこそ、モノのコンピューティングの本質を考えさせる問いのたて方。創造的に物事を考えるとは、こういうことだと思いました。

事業を始めるときには、これまで自分がやってきたことの掛け算になるものがいいと教わっていました。こういった経験を経て、僕にできることは「教育✕IT」ではないかと、子ども向けのプログラミング教室「ITeens Lab.」を始めました。

Q. 「ITeens Lab.」では、どのような方法でプログラミングを教えているのですか? ITを学ぶことは、子どもたちにとってどんな意味を持つのでしょうか?

基本のカリキュラムを設けているので、まったく経験のない子も始められます。僕はもっとも大切なのは、本人の学びたい・知りたいという意志だと考えているので、教室では子どもを一人の人間として扱うことを徹底しています。「面白くない」という子がいれば、講師は「なぜ楽しくないのか」「どんなものだったら作りたいのか?」をしっかり会話する必要があります。

大切にしているのは「40%ルール」です。これは、「相手に何かをさせる時に強制できるのは40%まで。どうしても意見が合わない場合の最後の決定権は相手にある」というもの。

講師は一方的に教えることはできないし、子どもたちもまた、最終的に自分の学びたいことは自分で決めます。
プログラミングを取り巻く環境は、すごい速さで変わります。だから子どもたちが身につけるべきものは、技術そのものではなくリテラシーです。

「どんな世の中にしていきたいか?」というビジョンに対して、それを実現するにはどうしたらいいかを、自分の力で考えることができる自主性や論理性、体力をつけること。ITを学ぶ意義は、そこにあると考えています。

だから僕は子どもたちに「プログラミングは、この世界の生き抜き方。ツールだぜ」と話すのです。

Q.2020年から、小学校ではプログラミングの授業が必修になります。これから子どもを取り巻くIT環境が、どうなっていけばいいと考えていますか?

関東圏と地方の子どもたちの間には、大きなデジタルデバイド(情報格差)があります。日本と海外の間には、さらに大きな格差があります。しかしグローバリズムはどんどん進みますから、地方で育つ子どもたちが、世界の人間と対等にコミュニケーションし、働く時代がやってきます。その時のために、機会をつくることが大人の仕事だと考えたのが、僕が「エクサキッズ」を始めた理由でもあります。

学校で授業が始まるにあたって忘れてほしくないのは、子どもにプログラミングを教えるのは、けしてプログラマーを養成するためではないということ。

プログラミングは、子どもたちの自主性と論理性を育てるのにとてもいい科目になるはずだからです。
僕たちは、えてして教育よりも経済を見てしまいそうになる教育界の風潮に逆らって、子どもたちの欲求に根ざした教育をやっていきたいですね。

Q.古林さんの今後の展望を教えて下さい。

Q.古林さんの今後の展望を教えて下さい。

僕は、社会がIT化することが一点の曇りなく正義だとは思いません。現に多くの人が、SNS疲れを自覚しているように。しかし、スマホがなかった時代にはもう戻れないし、IT化が進むのは止められません。
だったらせめて、どう使うかは考えよう、というのが僕のスタンスです。テクノロジーの手綱を手放すと、よくないことが起きるというのは、これまでの歴史を見ても分かります。だからこそITを追いかけるのではなく、なぜ人間がITを使うのか?という哲学が先にあるべきだと思うのです。

「エクサキッズ」もまた、より子どもたちが主体であるありかたを模索したいと思います。今年は関西からも参加者があり、子どもたちにとっても、いい刺激になりました。子どもたちが、もっと負けん気を出してプログラミングに取り組めるような大会にしていきたい。

また個人的には、世界の絶景を見に行きたいです(笑)。ずっと忙しくして自分を可愛がることを怠ってきたので、そろそろ自分の欲求に応えることも考えたいですね。

ITeens Lab.代表  EXA KIDS 実行委員長 古林侑樹さん

ITeens Lab.代表  EXA KIDS 実行委員長 古林侑樹さん

「ITeens Lab.(アイティーンズラボ)」CEO。九州大学芸術工学部芸術情報設計学科卒。2015 年より子供向けプログラミング教室「ITeens Lab.」を立ち上げ代表を務める。株式会社プレディの代表取締役社長に就任。2016年1月よりサイバーセキュリティ人材の育成を目的とした団体「Hackerz Lab.博多」を有志のエンジニアと立ち上げる。ITキッズフェスティバル「エクサキッズ」の実行委員長も務める。

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