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2019年11月にリリース予定のアプリ「辛メーター」。これは単なるグルメ系アプリではなく、世の中の辛さの基準を、人々の集合知によって統一させる“単位制定”の一大プロジェクトだ。飲食店で提供されている辛い料理や市販の辛い食品に対して、「中辛」でも「チョイ辛」でもなく、0から5の数値を「辛メーター(KM)」として単位化する。今までになかった“辛さの統一単位”が、世界中で当たり前に使われる日は近い…!?
この革新的ムーブメントを起こそうとしている、辛メーターの創始者・江口カンさん(映画監督/映像ディレクター※写真左)と、元木哲三さん(ライター/作家※写真右)にインタビューを敢行。どういう背景で辛さの統一単位のアイデアが生まれたのか、そしてプロジェクトが始動してからのプロセス、これからの展望について伺った。
Q.「辛さの単位を創る」という発想は、何をきっかけに生まれたんですか?
江口さん:いろんなお店で辛い料理が食べられますが、それぞれの店で「3辛」や「ちょい辛」など、辛さの程度を独自の表現で示していますよね。僕はある店の「3辛」のカレーが好きだから、別の店で「3辛」表記のカレーを頼んでみたら、想像と違う辛さのカレーが出てきちゃって。「これのどこが3辛だよ!全然辛くないじゃん…」とモヤついて、1杯分損した気分になったんですよ。そんな残念な場面がちょこちょこあって、3年くらい前に「あぁ、これって店がおのおの独自の基準で辛さを表しているからよくないんだ」と気付きました。
元木さん:オーダーした時点でもう脳内が辛いモードになってますからね。体だって「よし、こい!」と準備できているのに、それで辛さが物足りなかったら、すごく虚しい気分になる。逆に、想像より辛すぎて具合が悪くなった、なんてことも。
江口さん:辛さの統一単位があったらいいのに、とずっと思っていて。誰かが作ってくれないかな〜ってしばらく様子見もしたけど、特に他で動きがないから、だったら自分で作るか!? と。ただ、周りに相談しても、「単位を作るって何の意味があるの?どれだけ役に立つの?」みたいに反応がイマイチ。なかなか理解されず、2年間くらい悶々としながら過ごしていました。
あるとき、仕事の打ち合わせで元木さんとお話しする機会があり、余談で辛さの統一単位について話したら、ものすごく食いつきがよくて(笑)。初めて理解者が現れて、あの時は嬉しかったですね〜!
元木さん:店によって辛さの基準値がバラバラなことに困っている人は、これまでもたくさんいたはず。実際、飲食店を評価するグルメサイトはたくさんあります。辛さについても、その類なら他者も考えついたかもしれない。でも(江口)カンさんの場合、「評価」じゃなくて「単位」。「みんなで楽しみながら、集合知で単位を作ろうぜ」という発想だから斬新極まりない!
そもそも「単位」って国とか科学者とか、時の為政者が制定するものでしょう。だから「え、単位って自分たちで作っていいんだ!?」と衝撃も受けました。大げさだけど、成功したら今後単位として永遠に使われることになる。これって革命ですよね! ……と壮大なビジョンを描いていますが、よくよく考えると「辛さの単位を統一する」という、ちょっとおバカな内容。そんなことを真面目にやる、この絶妙なバランス感も面白いと思いました。
Q. 前例がない「辛さの統一単位」の制定。実現へ向けて、どのように進めましたか?
元木さん:まずやるべきことは、集合知=データを大量に集めるために、専用アプリを作ること。あとは、メディアの立ち上げです。意外なことに、辛いものに特化したウェブサイトやウェブマガジンが他にないんですよ。地域限定やイベント系の特設サイトは別として、全国展開かつオールジャンルで辛いものを扱う専用媒体はない。奇跡的に空席があってラッキーでした。
とはいえ、一番の目的は単位作り。ウェブサイトの役割は、内容が専門的かつ面白くて、辛メーターを使ってもらうためのフック的立ち位置です。アプリもメディアも両方充実させて、多くの人に利用してもらうことで、「みんなで辛さの単位を作る」という偉業が達成できると思いました。
江口さん:プロジェクトを進めるにあたり、数名の有志でチームを組み、何度も食べ物の辛さを検証しました。例えば、「3辛」表記のレトルトカレーを片っ端から買ってきて、食べ比べしたりしてね。商品によって3辛の程度ってこんなにも違うのかと改めて知ったし、的外れの辛さにブーブー文句を言いつつ、その場がすごく盛り上がるんですよ! 辛い食べ物と単位をテーマにエンターテイメントが繰り広げられる。これが辛メーターの面白さ。アプリを介せば国や地域を問わず、この愉快なコミュニケーションを交わせます。
元木さん:尺度を意味する「パラメーター」のダジャレで、カンさんから「辛メーター」という言葉が出ましたよね。このネーミングを皮切りに、作戦会議で「マイ辛値」や「辛ジャッジ」など、さまざまなキーワードが生まれました。
Q. 「辛ジャッジ」「マイ辛値」など、オリジナルの専門用語について教えてください。
江口さん:まず食べ物の辛さに関して、全く辛さを感じない「0」から、人類の限界「5」までを単位の範囲とし、「○KM(辛メーター)」と言い表します。そして、食べ物の辛さの判定することを「辛ジャッジ」、自分が心地いいと思う辛さの単位を「マイ辛値」と呼び、辛ジャッジを繰り返せば、「あ、俺の好きな辛さは3.15KMだな」とわかってくる、みたいな。元木さんのマイ辛値が3.5KMで、僕は2.3KMくらいですよね。
このマイ辛値の概念がないと、料理の辛さについて他の人と議論しても辛ジャッジの数値が噛み合わないんです。だからまずは、絶対値となる自分の現在地=マイ辛値を知ることが重要。あとね、辛ジャッジの回数を重ねると、辛さの単位づけがだいぶ的確になってきますよ。人によって感覚の差はあるし、たとえ異常値が含まれていたとしても、集合知だから最終的には納得の単位が生まれるんです。
元木さん:辛いものが好きになってマイ辛値が上がっていったり、逆に二日酔いの時はマイ辛値が下がったり、っていうのもありえます。決して数値が低いことが悪いことじゃない。
よく質問されるんです。例えば「3KM」って“チョイ辛い”くらいですか? どんなメニューですか? と。でもカンさん曰く「例えを出すことで、一定のイメージで判定されてしまう。その人の感覚と想像力でジャッジしてもらいたい」。辛さの単位を集合知で作ろうとしているのだから、単位のヒントをこちらから押し付けない方がいいという考え。
いろんなメニューを辛ジャッジするのも楽しいけれど、逆に「3KMってどんな料理だろう」と探ったりして、辛さの判断力を養えるのも醍醐味ですよ。辛ジャッジもマイ辛値も考えれば考えるほど、試せば試すほど、新しい発見があって面白い。
Q. アプリやウェブメディアの立ち上げには資金も必要。運用はどのようにしていますか?
江口さん:プロジェクトメンバーが少しずつ小口で出資している状況です。将来儲かったら山分けしようくらいの感覚。もちろん、クラウドファンディングやスタートアップ支援制度など、いろんな選択肢を考えていましたよ。スタートアップの先輩に話を聞きに行ったこともあったけど、なんとなく、辛メーターは資金調達プログラムに向いてなさそうだなと思いました。お金目的で辛メーターを立ち上げるわけではない。自分たちが面白がって、愛し続けられるものでありたいんです。
元木さん:スタートアップやクラウドファンディングを真っ向から否定したり、選択肢から外しているわけじゃないんですよね。とりあえず今は、プロジェクトメンバーの手弁当で着実に進めていこう、という結論に行き着きました。
【2019年1月に「辛メーター株式会社」を設立。プロジェクトメンバーがそれぞれ小口で出資し、アプリ開発費やサイトの立ち上げ費などに充てている】
Q. アプリでの広告収益も見込めそうですが、お金に関わるビジネス展開は考えていますか?
元木さん:僕らはユーザーファーストの考えで、辛さの単位を統一することを一番の目的として取り組んでいます。お金儲けが主眼じゃないんです。金銭欲は2〜3番目くらいに置いて、お金は辛メーターの運用を円滑にしていくためのものと捉えています。
辛メーターが普及すれば、多角的なビジネス展開が見込めるでしょうが、現時点の目標は、一人でも多くのユーザーを増やして、「みんなで辛さの単位をつくる活動を楽しみたい!」というシンプルなこと。そして近い将来、辛メーターのことをみんなが知っている状態になることが夢。それこそ、アプリを使ってなくても誰もが自分のマイ辛値を把握していて、メディアでも「このカレーは3.2KMですね」と当たり前に言われている状況が生まれたら最高ですよね。それくらい、辛メーターが世に定着してほしいなぁ…!
Q. 今後どのような展望を描いてますか?
江口さん:今は手弁当ですけど、想像以上に早いペースでさまざまなエビデンスが揃ってきています。有名企業と辛メーターのすごいコラボが実現するかも!? あと、僕らも注目している辛い食べ物に関する某イベントがあるんですが、その辺りとの楽しい絡みが期待できそう!
それこそ、2〜3年前はなかなか理解してもらえなかったけれど、こうしてプロジェクトとして形になるにつれ賛同者が集まり、パンッと跳ねるものなんだなと実感しています。改めて考えるとおバカな企画ですが、確かなニーズがあると手応えを感じています。
辛さの単位「辛メーター」を世界中の人が使って、各国どこへ行っても好きな辛さの料理を瞬時に見つけられる環境を作りたい。辛さの単位を真ん中に置きながら、面白いムーブメントを起こしていきたいですね!
「辛メーター」創始者・江口カン、元木哲三
江口カン (※写真右)
映画監督、映像ディレクター。KOO-KI(空気株式会社)取締役会長。1997年にKOO-KI共同設立。映画やドラマ、CMなどの演出を数多く手がけ、2007年~2009年までカンヌ国際広告祭で三年連続受賞。2013年、東京五輪招致PR映像「Tomorrow begins」のクリエイティブディレクションを担当。2018年映画「ガチ星」、2019年 映画「めんたいぴりり」、映画「ザ・ファブル」を監督。 https://koo-ki.co.jp
元木哲三 (※写真左)
ライター、作家。株式会社チカラ代表取締役。1971年生まれ、福岡出身。雑誌記者、ミュージシャンを経て、東京でフリーランスライターとして活動。2004年から4年間、中国・上海を拠点に執筆活動を行う。 2008年に帰国し、株式会社チカラを設立。書籍の企画・編集や広告ツールの制作をメインに、企業ブランディング、研修・講演のほか、文筆スクール「文章の学校」、福岡のレストラン情報「クイッターズ福岡」を運営。https://chikara.in