古いのに、新しくてポップ。若き店主が語る郷土玩具の魅力。
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古いのに、新しくてポップ。若き店主が語る郷土玩具の魅力。

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個性的な洋服店などが建ち並ぶ福岡市中央区今泉。このエリアのアパートの一室に、昔ながらの郷土玩具がひしめく異色の店がある。「山響屋」には、だるまに魅せられた瀬川信太郎さんが、日本各地の作り手と会って、「ヤバい」と思ったものだけが並んでいる。このユニークな店がなぜ生まれたかを取材した。

Q.なぜ「郷土玩具の店」を作ろうと思ったのですか?

Q.なぜ「郷土玩具の店」を作ろうと思ったのですか?

最初から郷土玩具に詳しかったわけではありません。最初に、「自分の店を持ちたい」という夢が先にありました。

雑貨屋で働いていて、「好きなものに囲まれた生活はいいな。自分も好きなものでいっぱいの店をやりたい」と考えるようになりました。仕事そのものは楽しかったのですが、28歳になった時に「このままだと、うかうかしているうちに年をとって“あぁ夢が叶わんかったな”と死んでしまう」と一念発起。「30歳までに店を出すためのお金を貯めよう」と決めました。

それから本屋で「独立してお店を作る方法」みたいな本を買ってきて、目標は500万円に定めました。100万は店の経営が厳しい時に使える資金として、100万を内装費に。残りの300万で最初の家賃や仕入れなどに当てようと考えていました。そして2年で500万貯めました。借り入れですか? もしも店がうまくいかなかった時は、すぐに次の仕事をしようと思っていたので、借金というリスクを負いたくなかったんです。ただ、この時点でもなんの店をやるかは決まっていませんでした(笑)。

当時の雑貨店の仕事は、バイイングなども担当していて収入的には安定していたのですが、“お金を貯める2年間”だと考え始めた途端に、仕事がつまらなくなってしまいました。これはいかんと思って、なにか楽しいことを始めようと、好きだった絵を描くことを始めました。そしてだるまの絵を描くチーム「うたげや」のメンバーと知り合って、だるまを描き始めました。

Q.自身がだるまの絵を描くようになって、郷土玩具に興味が湧いたのですか?

神社仏閣に行ったり、御朱印をもらったりするのも好きで、せっかくだるまを描き始めたからといろいろ回っているうちに、京都の老舗の郷土玩具屋さんを知りました。自分でも郷土玩具をいろいろ買うようになり面白いと思い始めていた時に、ちょうどいまの店を借りることも決まり、じゃあ郷土玩具の店にするか、と。

会う人会う人に止められました。「そんな店は聞いたことがない。絶対うまくいかん」って。僕は「誰もやってないからいい」と思ったんですけどね。

1年間売上が立たない時の運転資金は貯まっていましたし、実は僕は船舶の免許を持っていますし、ちょうどその時、三浦しをんの『神去なあなあ日常』という小説を読んでいて林業も面白そうだと思っていたので、店がだめでもどうにかなるだろうと(笑)、「山響屋」を開店させました。

Q.開店して、スムーズに軌道に乗りましたか?

Q.開店して、スムーズに軌道に乗りましたか?

それがまったく。半年間ほどは本当に暇でした。「こりゃやっぱり、いかんかもなー」と思って、やめるタイミングを考えていました。

郷土玩具は、とにかく掛け率が高いんです。雑貨屋をやっていた時は通常45%くらいで取引していたのですが、70、80%はザラ。一つ売れても数百円の利益です。でも実際に作り手さんのところを訪ねると、それも理解できるんですよ。古民家や山小屋みたいなところで、一つひとつ手間ひまかけて手作りして、効率のよさとは無縁の仕事です。
僕自身が店を始めた理由が「好きなものに囲まれて生活したい」ということだったので、効率が悪いのはしかたないなと思っていました。

転機となったのは、オープンして半年くらい経った時にやった展示会でした。福岡パルコにあった「citruss store & gallery」で、「THE WELL OBJECTS」展として郷土玩具を取り上げてもらいました。パルコという場所柄もあって、若い人にたくさん見てもらうことができましたし、「Swimsuit Department」の郷古隆洋さんがセレクトした世界各地のオブジェと一緒に展示されたことで、「日本伝統のもの」としてだけでなく、「ユニークな造形」としても面白く見えて、可能性が広がったのを感じました。

Q.郷土玩具の魅力はなんでしょう?

単純に「モノとしてかわいい」ということはもちろんですが、背景にある土地のことや歴史のことを反映したものだという点でしょうか。

郷土玩具には3つ種類があると思っていて、1つめは「神社やお寺での信仰のためのもの」で、無病息災や五穀豊穣などを願うもの。2つめは「子どもの玩具」で、子どもが健やかに育つようにという親の願いが込められています。3つめが「土地のおみやげ品」。作り手さんを訪ねると、それができた背景がなんとなく分かってきて、より面白くなりますね。

贈り物で購入される方も多いです。それぞれの持つ意味合いが分かると、結婚式や病気のお見舞い、商売繁盛など、シチュエーションにぴったりのものを探すこともできますよ。

Q.いろいろな玩具が並んでいますが、瀬川さんおすすめのものはありますか?

よく聞かれるのですが、自分の気に入ったものしか置いていないので、難しいんですよね…。

この豆だるまは愛嬌があっていいですね。福島県郡山市の三春で作られた張子のだるまです。おしりとおしりを合わせた形の木型があって、一度に2つ作れるような仕組みになっているのですが、見てください、この形。木型があるのに、どうしてこんなにいろいろな形になった?と思わず笑ってしまうくらい、一つとして同じ形がないんです。自由すぎますよね。

よく通販サイトがないのかと尋ねられるのですが、お問い合わせがあれば対応していますが、積極的には受け付けていません。というのも、この豆だるまを見てもらえばわかるように、みんな全く顔が違うので、じっくり一体一体吟味して、選ぶのが醍醐味だと思っているからです。

地元博多の「博多だるま」も、なかなかキュートです。一般にだるまは黄色を絵付けすることで金運を表現することが多いのですが、さすが商人の街・博多らしく、本物の金粉があしらわれているのが特徴です。男だるまも女だるまも、チークが入っているのがカワイイでしょう?

Q.N.Y.で展示会も行われたそうですが、ニューヨーカーの反応はどうでしたか?

N.Y.の日本文化を広めるギャラリーで、ちょうどいま開催中です(取材時2019年10月)。「ENGIMONO」(縁起物)というタイトルで、日本各地のだるまに絞った展示にしました。「だるまってそもそも何?」「日本の信仰って?」など、伝えることがいろいろあるので、扱うものを広げるよりも、一つを深く掘って紹介したいと考えました。

そもそも日本文化に興味がある人が訪れるギャラリーなので、来場者は楽しんでくれているようです。ただ背景にある文化を伝えるというのは、簡単ではないなと感じてもいます。今回の経験をまた他の展示で活かせるといいなと思います。

Q.今後やりたいことはなんですか?

Q.今後やりたいことはなんですか?

店をオープンしてから4年半が経ちました。郷土玩具を取り巻く環境を知るほどに、細々とでも続けていかければという気持ちが生まれています。僕がやっているのはつないだり、再発見したりする役割です。作る人だけでも、買う人だけでも成り立ちにくいので、面白くつなぐ方法を考えたいですね。

最近は、企業からのオーダーに応えて、ぴったり合いそうな郷土玩具の作り手をつなぎ、コラボ商品のディレクションにも携わるようになりました。福岡県津屋崎市にある筑前津屋崎人形巧房のゴン太人形とコンバースのコラボや、博多菓匠左衛門のお菓子「博多ぶらぶら」とヤチコダルマのコラボなど、面白いものが生まれています。新しいものだけど古いような、不思議なポップさがあって、郷土玩具のポテンシャルの高さには驚かされます。

もう一つやりたいことがあります。お気に入りの玩具でいっぱいの部屋に友達を招くような、飲食店をやりたいと思って、いま物件を探しています。最初はまるで詳しくなかった郷土玩具にこんなにハマってしまって、いろいろなことが実現できているので、人生なにがあるか分からないですね(笑)。

山響屋 瀬川信太郎

山響屋 瀬川信太郎

長崎県島原市出身。福岡市中央区今泉で、日本各地の郷土玩具を扱う「山響屋」を展開する傍ら、絵師としても活動。大阪を拠点に縁起物アートを展開する「うたげや」のメンバーとして、だるまにオリジナルの絵つけを行う活動も行っている。

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