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子どもから大人まで、触れる人の知的好奇心を刺激するエキシビション。福岡市動植物園の「いきものマップ」や、福岡市科学館の「発見の壁」「ジャンプ!」、福岡市役所プロジェクションマッピングなど、一度は目にした人もいるはず。これらを手がけるのは、福岡のクリエイター集団「anno lab(あのラボ)」です。その代表を務める藤岡定(さだむ)さんに、メディア・アーティストを志したきっかけや、作品にかける思いについてインタビューしました。
Q. 藤岡さんがメディア・アーティストを目指したきっかけは?
大学の研究室では、AI(人工知能)の機械学習を専攻していました。今では多くの企業がAIを導入していますが、2002年当時はまだ認知度が低く、仕事に直結する状況ではありませんでした。せっかく大学で面白い研究をしても仕事に活かせないなんて勿体ないと感じましたね…。
大学卒業後は、趣味に留めていた音楽づくりを研究としてしっかり学ぶために、九州大学大学院芸術工学府に進学。この進路がメディア・アーティストを目指す、大きなきっかけになったと思います。
大学院で取り組んでいたのは、五線譜とは異なる新しい楽譜の研究。ソフトウェアをプログラミングし、映し出す映像が楽譜の代わりになる仕組みを作ったりしていました。例えば、アルファベットA〜Zの各文字に、音楽の演奏機能を割り当てて、適当にアルファベットを打ち込めば、機能に準じて音楽が流れる… というようなソフトウェアとか。
研究室では自己表現のためにメディア・アートを作ってきましたが、「シリアスゲームプロジェクト」に参加したことで、アートティストとしての価値観に変化が生まれました。同プロジェクトでは、リハビリテーションを目的としたゲームのプログラミングを担当したのですが、そこで初めて社会のため、人のためにクリエイトする楽しさを実感したんです。ここで培った“メディア・アートで社会問題を解決する”という指針は、今のanno labの理念に繋がっていると思います。
Q. さまざまな作品を手がける中で、大事にしている信念は何ですか?
一番大事にしている信念は、自分も楽しみながら作ること。作品テーマは自分から遠すぎず、子どもの頃に面白いと感じたものや、私生活と繋がっているものを重視しています。まあ、僕自身が子どもっぽいというか(笑)。仕組みを自分なりに分析することや、ワクワクすることが好きなので、そこが子どもたちの好奇心ともシンクロするんでしょうね。人のために作るコンテンツであっても、まずは自分が一番のお客さんという意識でいます。
教育や科学の展示物に関しては、必ずしも作品に“答え”を示さなくてもいいと思っています。知識を与えられるのと、自分で発見するのでは、吸収力や応用力が全然違うからです。実体験として、教科書よりファミコンから学んだことの方が多かったように、実践しながら発見したことは時間が経ってもしっかり覚えているもの。メディア・アートも同じように、体験しながら心に引っかかった何かがのちのち教科書で登場したり、私生活にリンクしたり、点と点が結ばれる楽しさを感じてもらいたいですね。
Q. 東京ではなく、地方で活動することのメリット、デメリットは?
メディア・アーティストを目指し始めた当初は、上京しようと思っていました。メディアも東京一極集中とあって、自分の活動を取り上げてもらうチャンスがたくさんあり、プロモーションとして効果的ですから。
けれど、東京の色に染まってしまう懸念もあるなと。表現する上で“自由”であることが重要だと思うので、時間的な拘束やしがらみを含め、「東京の当たり前」をスルーできる距離感が理想。福岡では「自分たちの当たり前」を軸に活動できるので、この環境の良さは大きなメリットです。
また、尊敬する先輩の発言にも影響を受けました。「東京には“ニッチ”というものが存在しないから、マニアックなパフォーマンスでも100〜200人集めることは容易。ただ、そこで満足してもプロとしては通用しない」と。人口密度が高い東京で100人集まったとしても、福岡で言えば10人程度の動員。逆に、福岡で100人集められたら東京で1000人規模のパフォーマンスと言えるでしょう。だから、まずは福岡でしっかり成果を出そうと思いました。
Q. 最近のクリエイティブで、新しくチャレンジしたものはありますか?
僕らのクリエイティブは、新しい技術を取り入れることを念頭に置いていません。新しい作品のアイデアも、技術面を一切考えず、「こういうのって面白いよね!」というイメージの創造から始まります。
一方、普段から機械や装置をオモチャのように触っていて、遊び感覚で操作法と応用術を修得しています。そうした中で、作品にアウトプットできるものがあれば採用する、という流れ。まるでオモチャの部品をかき集めながら作り上げるように(笑)。
日本未上陸のAI カメラ「アズールキネクト」も、最初は遊びで使っていました。「不思議の国のアリス展」で、立つ人のポーズを額内のキャラクターがゆっくりと真似をする仕掛けを施しました。
Q. 展示を見る人にどういう価値を提供していきたいですか?
僕らが目指すアートは、現実逃避として楽しむゲームではなく、生活の全ての瞬間が幸せと感じられるコンテンツ。楽しい体験が、次の興味に繋がったり、その人の暮らしにリンクしたり、後から花開くものになれば嬉しいです。
僕自身、高校生の頃に地元で行われた「世界のシンセサイザー展」を覗きに行って、人生が変わりました。シンセサイザーがどうやって音を鳴らすのか、その構造に興味を抱き、文系から理系に土壇場で進路変更…! あの展覧会がなければ今の僕はいません。
一人でもいいので、体験する人の生活や人生を変えるきっかけを作れたらいいな。
また、生活にエンターテインメントを与えるのも目標。例えば、ゴミ捨ての行為をゲーム感覚で楽しめて、気づけば公園や道路がきれいになったりとか。「福岡はすべての瞬間が楽しい!」と言われるような仕掛けを作りたいですね。
Q. メディア・アーティストを目指す人へアドバイスを。今取り組むべきことは?
新しい体験にチャレンジすること! 一歩踏み出すことを恐れず、いくつになっても好奇心やワクワクする気持ちを忘れないでください。頭で理解するより、体でしっかり感じましょう。
あと、一回の体験じゃわからないことも多いですよね。一年前と今では全然違って感じることもありますし、何回も繰り返しトライして、その都度新しい視点で学びを吸収してください。
個人的に、メディア・アーティストが特殊な仕事だとは思っていません。興味を突き詰めた結果であって、自分が楽しいと思うことを精一杯仕事に繋げる姿勢はどの職業も同じじゃないでしょうか。スキルも興味によって磨かれるもの。興味が趣味へと昇華し、能動的に学ぶことで自然とスキルアップしていく。だから新しい物事に挑戦して、自分の興味を広げて、趣味を楽しみながら突き詰めていけたらいいですね。
持論ですが、楽しいと思うことを仕事にしないと勿体無いと思います!
どんな人も楽しいものにお金を使いますよね。ということは世の中、楽しいものに自然とお金が集まる。お金を集める最短距離は、自分が楽しいと思うことを仕事にすることだと思います。
収益などお金を先に意識せずに、趣味や興味を仕事に変換して実直に取り組めば、誰だって稼げるはず。anno labはこの考え方でちゃんと成立しています。
「これが仕事になれば100倍頑張れる!」という好きなものを、いかに仕事の中心に持っていくか。これが大切だと感じています!
anno lab 代表・藤岡 定(さだむ)
福岡在住のメディア・アーティスト、インタラクション・デザイナー、研究者(芸術工学博士)。 知的好奇心を刺激するインタラクションの創造とプロセスの視覚化をテーマに、anno lab(あのラボ)を2012年に設立。人が楽しさから“つい”動いてしまい、それをきっかけに新しい視点・行動・興味・思考が広がるクリエイティブを手がける。