コワモテの美容師から、善意が伝染する。キーワードは「give & give」
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コワモテの美容師から、善意が伝染する。キーワードは「give & give」

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ある人から受けた親切を、また別の人への新しい親切でつないでいくことを、英語で「ペイ・フォワード」と言う。美容室「BRUNTJET hair」のオーナー・井上裕介さんは、一見コワモテに見えるが、実は「ペイ・フォワード」の人だ。さらに海外で人気の「バーバースタイル」をいち早く取り入れたり、アウトドアでカットをしたりと、先取りの人でもある。なぜいまのようなスタイルに至ったのか、これまでに考えてきたことを伺った。

Q.「バーバースタイル」とはどんなスタイルですか? なぜ始めようと思ったのですか?

N.Y.でバーバーが流行っていると聞いて、すぐに現地に見に行きました。20店舗くらい見学して、その中の気に入った店で切ってもらい、「これはカッコイイ。福岡でも伝えたい」と思いました。

「バーバースタイル」というのは、バリカンを使ってつくるスタイル。特徴的なのは、襟足を刈り込んでグラデーションをつくる「フェード」という技術です。一般的に理容室ではバリカンを使いますが、美容室ではあまり使いません。理容師と美容師では国家資格も異なっていて、美容師はバリカンの訓練を受けていないのです。もちろんバリバリのバーバーでカットしてもらうのもいいのですが、敷居を高く感じてしまう人もいるはず。僕はふだん通っている美容室で、美容師の得意なことを活かしながら、バーバースタイルを提供できたらいいなと考えました。

襟足は理容の方法でカッチリ固めのスタイルを、頭頂部は美容の方法で遊びのあるスタイルをつくることで、これまでにないスタイルを提案したいと思っています。

Q.YouTubeでスタイルの作り方をアップしているのはなぜですか?

お話した通り、美容師はバリカンの技術を教わっていない人が多いので、定期的にセミナーを行うことにしました。ここには、自分のお店でバーバースタイルを提供したいという美容師がやってきます。女性も多いのですよ。

もっと広く知ってもらうにはどうしたらいいのかな?と考えて始めたのが、YouTubeに動画をアップすることでした。まだ1ヶ月ほどですが、33万回再生されたものもあり(取材時2020年3月時点)、ニーズの高さを感じています。セミナーで有料で教えていることをどんどんアップしているので、「いいのですか?」と聞かれることがありますが、みんなが切れるようになればいいなと思っているので、気にしていません。

僕は同業者の仲間に向けて動画を作り始めたのですが、実は意外な効果が。それは集客につながったということです。僕が「美容師さんたちに、フェードの切り方をマスターしてもらいたい!」と始めたことでしたが、お客さんの中の潜在的なニーズが高かったことに驚いています。

Q.井上さんの「みんなでやろう」というスタンスには、なにか理由があるのですか?

世界一のフェスと言われる「バーニングマン」に参加したのが、大きなターニングポイントとなりました。砂漠の中に10日間だけ現れる、火も水も電気もない村。ここではお金を使うことは許されておらず、とにかくなんでもいいので、みんな自分の持っているアートを提供します。食べ物を振る舞ってもいいし、音楽を奏でてもいいし、リラックスできる場所でも、とにかくなんでもいいのです。

僕は「自分にできることといったら、これだけだな」と、とにかくみんなの髪を切ることに。青空の下で髪を切る開放感も楽しいし、みんなとても喜んでくれるし、なにより「与えるだけ」という行為が楽しい。そして見返りを求めずにgiveしていると、周りのみんなも違った形で返してくれるのです。あぁ、ふだんはお金が邪魔をしているコミュニケーションがあるのだなと思いました。最後には、「もっと自分にできることはないかな?」と探し始めたくらい。

この経験がきっかけになって、日本でも、自分や自分の店のことだけを追い求めるのではなく、みんながよくなる方法を考えるようになりました。スタッフのみんなにもチャンスを与えたいし、自分の持っている技術が役に立つのであればおすそわけしたい。そうすることで、いいことが伝染していくことを、身を以て体験しています。

Q.なるほど。そこから今の活動である「アウトドアで髪を切る」ことも始まったのですか?

帰国して、日本でも外で切れないかな?と模索していた時に、「キャンピングカーにタープを立てればいけるやん」と思って、実際にやってみました。それをInstagramに上げていたら、切って欲しいという人や、フェスで切ってみませんか?といった声がぞくぞくと寄せられました。

やっぱり外で切ることそのものが開放感があって楽しい。きっとお客さんも非日常の空間で切られることで、テンションが上がるのではないかと思います。ストレスの多い毎日なので、たまにはこういう空間でリセットして欲しい。実は法律の規制上、外で切る時は料金をもらえないのでチップ制にしているのですが、僕としては「最高の空間で、最高の技術をくらってみて」という気持ち。イベントだからこそチャレンジできる髪型もあるし、それをきっかけにお店に来てくれることもよくあります。

Q.さらに移動できる店舗を計画しているそうですね!

空間ごとそのまま移動できるコンテナで、いろんなところに出向いてカットをしようと考えています。いま検討しているのは、snow peakでも使用されている隈研吾が設計したモバイルハウス「住箱」。見た目もかわいくて、意外に広くて、機能性もばっちり。僕が気持ちいいと思う場所や景色のよいところへでかけて切れたらいいですね。

お客さんとのコミュニケーションの方法も、もっといろいろ考えられるのではないかと思います。例えば野菜との物々交換で髪を切ったり、本のイベントで「感銘を受けた本」と交換で髪を切ったり。そうすればお金のやりとりだけでは生まれない関係ができるんじゃないか?などと想像しています。これから具体化するために検討します。

美容室って実は「待ち」の職業で、お客さんが来店してくれるのを待つしかないという一面があります。しかし、これからは外に向けて展開することで、自分から仕掛けていくことができると気づきました。だれもやっていないことを、必ずやっていきたい。

Q.井上さんにとって、「髪を切る」とはどんな行為ですか?

Q.井上さんにとって、「髪を切る」とはどんな行為ですか?

髪が自分の思い通りに、もっと言えば自分の想像以上に「キマった」時、きっとみんな元気が出るのじゃないかと思います。希望をしっかり聞きつつ、プロならではの提案をするのが僕の仕事です。スタイルはもちろんですが、メンタル面でプラスの人たちをつくりたいですね。ケアをされるということは、おそらく人間にとって大切なことだと思うので。

髪って、よほど近い人や心を許した人にしか触らせないもの。それを触らせてもらう仕事ができて、本当に幸せだなと思います。

Q.お金とはどのような存在だと思いますか?

僕は、「もうかること」ではなく「自分の好きなこと」にお金を使いたいと思います。僕の好きなことを周りのみんなが楽しんでくれて、よりよい循環が生まれればいいなと考えているからです。

確かにお金を使うことが不安な時もあります。しかしバーニングマンを経て自分が取り組んできた経験からも、「やったほうがいいこと」にお金を使うことで次の新しい展開が生まれてきました。お金は何かをするための手段です。「お金持ちになりたいだけの人」にはお金はついてこないんじゃないのかなぁ。

「BRUNTJET hair」オーナー 井上裕介

「BRUNTJET hair」オーナー 井上裕介

高校在学中に雑誌モデルをしていた時に出会ったヘアメイクに憧れて美容師の道へ。26歳で独立し、マンションの一室から美容室を始める。27歳の時に現在の福岡市大名の路面店で営業を始める。2019年から始めたYouTubeチャンネルが好評に。現在は店舗での営業のかたわら、店を飛び出してカットをする活動も行っている。

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