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世の中デフレ状態が長いせいか、ついつい、安いものにばかり目が行く日々。しかし、世の中には「高いなぁ」と思うモノだって、もちろんあります。どうしてその価格なの? 価格のうしろに隠れている秘密を探ってきました。
中洲のビルの5Fにひっそり息づく、美しいシャツたち
博多メイドのシャツブランドMateriaL(マテリアル)のオーナーであり、デザイナーである田中龍也さんは、自身がいわばシャツマニア。シャツに魅せられて、イタリアやフランス、イギリスやアメリカと世界各国のシャツを手に入れてはパーツに分解し、なぜその形なのかを推理し、日本人だったらどんな形が合うのかを考え尽くして、MateriaLのシャツを作り上げました。
現在お店では、基本となるシャツの形がいくつか準備されており、それを基に自分好みの生地やディテールを相談して作り上げる「パターンオーダー」を主に行っています。
徹底的にこだわり探し出す素材の数々
MateriaLのシャツは、まるで人格があるように凛とした佇まい。その秘密の一つは、素材のよさがあります。
例えばこの「アフタヌーンコート」に使われているのは、“生地界のロールスロイス”と呼ばれるスイスのアルモ社が作るアルモボイル。コットン100%とは思えないほど、サラリとして透け感のある美しい生地です。
強く撚った糸で織り上げた、爽やかで風通しのよい生地
「かつて銀座を闊歩するようなおじいさんたちが好んだ上質なものですが、今ではメンズのシャツに使われることが少なくなりました。せっかくの素晴らしい生地なので、うちではレディスのデザインに使うことに。中にペチコートを着れば一枚でも着られますし、羽織に使ってもステキです」
アフタヌーンコート 6万4800円
(写真の生地の場合)
このネイビーは、田中さんがアルモ社に特別に作ってもらったカラーです。
オーストラリア産の白蝶貝で作ったボタン。真っ白で肉厚
さらにはボタン。田中さんは、オーストラリアやタヒチなど世界中の産地で、貝ボタンの材料となる貝を確保するところから始めます。
「4mmの厚さのボタンを作るには、10歳くらいの貝が必要なのですが、最近は大きく育った貝を確保するのが難しくなりました」。ボタンを加工する職人さんもどんどん減っているそう。
「このボタンを掛けてみてください」と言われて、ツルリとしたスムーズな掛け心地にびっくり。裏面を球体状に磨いたボタンは、大阪のおじいさんの職人さんが手作業で削ったもの。「もう高齢だからと、僕に道具を一式譲ってくれたんですよ」と、ちょっとさみしそうに話す田中さん。
職人さんから譲り受けたボタン製作の道具。しっかり使い込まれている
このようにMateriaLのシャツの素材の一つひとつには、たくさんの物語が隠されています。
縫う人によって、価格が変わるシャツ
MateriaLには、価格帯が約4万円~10万円の「ファーストライン」と、3万円前後の「セカンドライン」があります。この2つのラインの違いは、実は「縫う人の違い」。ファーストラインを手がけるのは、たった一人の女性。もともとパリコレのサンプルの縫製をしていた経験がある人で、一度縫ってもらったエプロンのクオリティに田中さんが驚き、スカウトしたそう。
「ファーストラインには、そのお金を払っても、彼女に縫ってほしいというお客様がついてくださっています」
もちろんセカンドラインも確かな技術の職人さんに発注しています。2型を限定して縫ってもらうことで、クオリティをキープしつつコストダウンを図っています。
「うちのシャツは、“一日着ても疲れない”ことをモットーにしていて、そのために通常のシャツの何倍も工数がかかり、技術も必要です。その分、職人さんたちにはきちんとした対価をお支払いできる価格設定にしています。ぼく自身が納得できるものを作り続けるためには、職人さんたちが仕事を続けられる環境を整えることが大切なんです」
サファリミックス 5万9400円
(写真の生地の場合)
仕立てが難しい一着
田中さんと話していると、価格にはっきりとした理由があることが分かってきます。同じデザインのアイテムでも、例えばストライプ柄の生地であれば、柄合わせのためによけいに生地の長さが必要なので、価格が高くなる。「このシャツをこのクオリティで作るのに必要なもの」で価格が決まっていることが明快です。
その誠実な姿勢と、もちろんシャツのよさが信頼を受け、けして安くはないMateriaLのシャツには、大勢のファンがいるのです。
MateriaL
福岡市博多区中洲5-1-20 東京堂ビル5F
営業時間 13:00~20:00(要予約)
日曜定休
092-282-7777
https://www.instagram.com/materialhakata/
※タイトルの金額は、記事内でご紹介したアフタヌーンコートの一例です。