誰でもできる新しいアート鑑賞法で、日常がエンターテインメントに変わる!
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誰でもできる新しいアート鑑賞法で、日常がエンターテインメントに変わる!

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“ビジネスで成功している人は、みんなアートを鑑賞している”というようなタイトルの書籍がずらりと本屋に並ぶほど、今注目を浴びている「アート鑑賞」。しかも教養としてアートをたしなむ…というのではなく、アートを鑑賞することがビジネスにも役立つということだが、いったいどういうことなのだろう。

詳細を確かめるため、新しいアート鑑賞法「VTS(ビジュアルシンキングストラテジー)」のモデレーターとして活躍している雑賀元樹さんにお話を伺った。

耳慣れない「VTS」とは、そもそも何ですか?

耳慣れない「VTS」とは、そもそも何ですか?

ブランディングデザイナーとして企業のブランディングをサポートしながら、VTSモデレーターとしての活動も行っている雑賀さん。しかし、そもそも“VTS”とは何でしょうか。

「VTSとはVisual Thinking Strategyの略で、MoMA(ニューヨーク近代美術館)で開発された、アートの一つの鑑賞方法です」。作者や作品名、解説文などは一切見ずに、「その絵の中で何が起こっているのか、どこからそう思ったのか?」ということを考えることがVTSを使った鑑賞方法なのだそう。

一人でVTSをすることも可能ですが、複数人で一つの作品を元にVTSを使った対話型鑑賞をすることで、参加者は「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション能力」が養われるのだとか。

「例えば、目を閉じて横になっている女性の絵があるとします。それを観て、その女性が死んでいると思う人もいれば、眠っていると思う人もいる。どうしてそう思うのかは、その方の今まで見てきたものや経験で違います。同じ絵なのに、人によって目の前のものが変わるということを目の当たりにすると、自分の中の価値観と他人との違いを認識することができるんです」。

実際に、職場の人間関係に悩んでいた方が雑賀さんのワークショップに参加し、VTSを通して「人にはいろいろなものの見方がある」と分かり、他人との考えの違いを受け入れられるようになったという声もあるそう。

「それに、アートを観ることで観察力も磨かれます。例えば、有名なモナリザの絵ですが、背景に何が描かれているか分かりますか?正確に答えられる人はなかなかいません。観ているけど、観ていない。それを客観的に観て、さらに人に説明することでコミュニケーション能力も養われます。実際に、医師の診断力や子どもの学力が伸びるというデータもあるんですよ」。

「平面に描いた水面が動く」という衝撃の体験

「平面に描いた水面が動く」という衝撃の体験

そして、雑賀さんがこのアート鑑賞法に触れるきっかけになったのは、ご自身の衝撃的な体験によるものだったと言います。

「数年前に、福岡市美術館で開催された『モネ展』を観たんです。有名な「睡蓮」という作品を観たとき、なぜか水面が本当に動いて見えました。絵だから動くはずはないのに、目の前の水面が揺れているように見える。なんだこれは、すごい!と思いました。そのとき、自分の中で何かが開いたような気がしたんです」。

「それ以来、道を歩いていても花が咲いているのが目に留まるようになって、日常で目に入るものが輝いて見えて。世界ってこんなにキレイなんだ!と感じるようになったんです」。今では花の図鑑を買って読み込むほどその美しさに魅せられているという雑賀さん。そんな自分の変化に驚きと興味を持ち、どうしたらアートの魅力を伝えられるだろうということを考えているときに、新しいアート鑑賞法であるVTSの存在を知って、学び始めたのだそうです。

今、ビジネスエリートに「アート」が注目されるワケ

もともと独立志向のあった雑賀さんは起業に備え、社会人になってから奨学金を150万円ほど借り、平日の夜や週末に学校に通って約2年でMBAを取得。奨学金は今も返済しています。

「簡単に言うと、過去のビジネスモデルを分析して導いた仕組みを使い、問題解決を図るということを学ぶのですが、そうやってロジカルにビジネスを進めることに、限界を感じる人が増えていて。そういう人たちが何をしているのかというと、直感や美意識を鍛えるために、美術館に足を運んでいるんです」。

先程のモナリザの例のように、作者や作品名ではなく作品そのものを観るということは実は案外難しく、深い観察力が必要となります。つまり、ビジネスの成功者たちは、常に日常の変化やチャンスを見逃さない力を身に付ける方法の一つとして、このVTSというアート鑑賞法を実践しているのです。

※MBA(Master of Business Administration)
日本語では経営学修士号、または経営管理修士号と呼ばれる学位であり、経営学の大学院修士課程を修了すると授与される。経営者や経営をサポートするビジネスプロフェッショナルを短期間に育成することが目的とされている。

デザインは答えを出すもの、アートは問いかけるもの。両方のバランスが大切

デザインは答えを出すもの、アートは問いかけるもの。両方のバランスが大切

雑賀さんは「まずは自分がその絵を観て感じることを大切にしてほしい」と言います。「絵を観た後に、キャプションを見て答え合わせみたいにすると、解釈が違ってもすごく楽しい。自分がなぜそう考えたのか?どんな思考を持っているのか?それをこれからどう生かしていくのか?アートの中には様々な“問い”が隠れているんです。作品の解説は一つの解釈であって、それが全てだと思ってアートを鑑賞すると、自分の中の問いに気付けない。深い学びができないんです」。

「逆にデザインは、問題を解決するために、視覚を使って人の行動をどう促していくのかという答えを出すためのものだと考えています。僕は前職で営業職をしていたのですが、当時は数字や目標をクリアするために周りと競争しながらやっていくことが仕事だと思っていました。でも、クリエイティブの世界では問題を解決するために、ロゴやウェブサイト、パンフレットなどをクリエイターサイドとクライアントサイド、みんなで協力しながら作り上げて、それがカタチに残る。競争ではなく、共創の概念で物事が進んでいく。それがすごくいいなと思えたんです」。

アートによって問いを生み、デザインによって問題を解決していく。その両輪をバランスよく駆動させることによってビジネスはさらに良い方向に進んでいくと雑賀さんは言います。

アートを楽しめば、人生がエンターテインメントに変わる

アートを楽しめば、人生がエンターテインメントに変わる

さらに、アートを通じて美意識を鍛えていくと、日常の全てがエンターテインメントに変わると雑賀さんは言います。

「道端に咲く一輪の花に感動したり、ふと見上げた夜空の月明かりに幸せを感じたり、日常の中にある小さな美しさや幸せを見出せるようになると、人生はより豊かになると思っています。そのきっかけが、僕の場合はアートとの出会いでした」。

VTSを用いることで、人生を主体的に楽しむ力も身に付くという雑賀さん。「アートを入り口にして感性を磨いていくほど、世界がどんどん楽しくなります。僕はそう思うとこれからの人生が楽しみで仕方ないし、皆さんにもこの楽しさを伝えていくのが自分の使命だと思っています」。

アートの知識はむしろ必要ないというVTS。雑賀さんはVTSを使った絵画鑑賞会を不定期に開催しているとのことなので、自由な発想法を手に入れるため、まずは一度体験してみてはいかがでしょうか。

クリエイティブディレクター 雑賀 元樹

1985年神奈川県生まれ。外資系食品メーカーに勤務しながらMBA(経営学修士号)を取得し、2015年に独立。ブランディングデザイナーとして企業のマーケティングやブランディング戦略、販売戦略の立案や実行などをサポート。また、自身の意識をガラリと変えてくれたアートの入り口としてのVTS (ビジュアルシンキングストラテジー)を広めるモデレーターとして、イベントや企業向けワークショップ、社員研修なども実施し、新しいアート鑑賞法の魅力を伝えている。
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