開業資金はほぼゼロ!? 大好きなハンバーガーの専門店と自由な時間を一度に手にできたプロセスとは?
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開業資金はほぼゼロ!? 大好きなハンバーガーの専門店と自由な時間を一度に手にできたプロセスとは?

new work style

営業時間は11時から16時まで。と言うのも、ダイニングバーの営業前の時間を有効活用した、“間借り営業”の店だから。

今回お話を伺ったのは、2019年7月に、福岡・警固にハンバーガー専門店「GOONIES BURGER CLUB」をオープンさせた山中富美也さん。なぜ、間借りで店を開いたのか? なぜハンバーガーだったのか? 新しいワークスタイルに辿り着いたストーリーを聞いてきました。

気になったことは、やってみよう

2019年7月にハンバーガー専門店をオープンし、オーナーとして店を切り盛りする山中さん。けれど高校時代に目指していたのは、車の整備士だったそう。

「子どもの頃からモノづくり全般が好きで、車もその中の一つ。楽しそうだと思いました。それで高校卒業後は専門学校へ。でも卒業する頃になると、いつの間にか夢は役者に…(笑)。ちょうど、舞台を中心に活動していた宮藤官九郎さんや阿部サダヲさんがテレビで活躍されるようになった頃で、その佇まいにすごく憧れたんですね。それで舞台をやるなら東京だと思って、卒業後は1年間、福岡で整備士として働いてお金を貯めて、19歳で上京しました。気になることを見つけたら、やってみないと気が済まないんです」

楽しいけれど…悩みも多い日々

楽しいけれど…悩みも多い日々

先に東京で生活していた友人を頼って上京し、居候しながらアパートと職探しをスタート。整備士の資格を持っていたことから、すぐにガソリンスタンドのアルバイトに採用され、真面目な仕事ぶりと人懐っこい性格から、1ヵ月で時給もアップ。落ち着いたところで演劇の道を模索し始めます。

「何のコネもないので、下北沢に行ってみたり、劇場に足を運んだり、何とか演劇に近づこうとしていました。するとある日、求人広告に俳優養成所の研究生募集の記事を見つけたんです。講師は演劇業界にも顔が広い方で、レッスンを受けながら、いくつか舞台にも立たせていただきました。それで2年ほど続けたのですが、楽しいはずなのに、どこかしんどくて…。将来自分は家族が欲しいと思っているけど、本当に養っていけるのかなど、急に不安になっちゃったんですね。それでそろそろ九州に帰ろうかなと。アルバイト先で顔見知りになっていた常連さんにも、チラッとそのことを話したんです」

ハンバーガー屋で働きたい

ハンバーガー屋で働きたい

役者を諦め、九州へ帰ろうかと考えていた山中さん。でもその前にもうひとつだけ、やってみたいことがありました。それが、「ハンバーガー屋で働く」こと。

「車も舞台も本気で好きだったんですが、一番好きなことは何かと言えば、ハンバーガーを食べることだったんです。それは小学生の頃から。うちでは毎週土曜日にだけハンバーガーを食べることが許されていたのですが、それが本当に楽しみだったんです。専門学校で福岡に出てきた時も、休みの日にはハンバーガーの食べ歩きをしていましたし、もちろん東京でも。特に東京にはハンバーガーの専門店が山ほどあって、ガイドブックを片手に店を巡りました。その中で、『この店のこのメニューは美味しい』とか、『この雰囲気は好きだな』など、自分なりに分析をするようになって、いつかは自分で店をやってみたいとも思うようになっていたんです。すると、バイト先の常連さんが、『知り合いのハンバーガー屋を紹介しようか』 と。上板橋の『ハングリーヘブン』 というお店でした」

目からウロコがこぼれまくった修行時代

目からウロコがこぼれまくった修行時代

思いがけずハンバーガー専門店での勤務がスタート。客としてしか訪れたことがなかったハンバーガー屋をスタッフとして見ることになり、ギャップはなかったのでしょうか?

「オーナーは肉屋の息子さんで、所有していた店舗が1つ空いたことをきっかけにハンバーガー屋を始めた方でした。そもそもが肉屋なので、パテへのこだわりはすごいし、ソースも全部手作り。食材に関することや、手作りの魅力を伝えることはここで身に付けることができました。2年目以降は仕入れやレジの管理も任せてもらえて、将来店をやる上でもかなり勉強になりましたね。ここで5年働いたのち、九州に帰ることにしたのですが、このことは働き始めた時からオーナーに伝えていたので円満退社でした。東京で独立するイメージはなかったです。暮らしてみて、やっぱり自分は自然が近い九州が好きだとわかりましたし、親も安心させてあげられる。何より福岡にもっとハンバーガーの選択肢を増やしたいという思いがあったんです」

《パテとチーズが、賑やかな街を作り出しているイメージで作ったという“タウン”シリーズより「チーズタウン」(1,250円)。ミンチを網脂で包んだパテは、ジューシーな味わいが倍増。パンは春日市の「ベーカリーチャンプ」にオーダー。ふわもち食感の白パンに仕立てたところがこだわりだ》

思いがけないきっかけで、独立

そして福岡に戻り、中央区のハンバーガー店で働きながら、独立準備をスタート。すると思いがけない出会いに恵まれます。

「警固の『fam』というダイニングバーのカウンターで飲みながらオーナーと話していると、40人くらいでデイキャンプをやるからおいでよと誘われて。せっかくなのでハンバーガーを作らせて欲しいとお願いしました。それで当日、振舞ったら大好評で、『うちの空いている時間を使って店を始めたら?』と言ってもらえたんです。間借りで店を開くなんて、その時は全く想像していなかったのですが、よくよく考えてみると開業資金も少なくて済むし、ちょうど、バイトで一緒だった後輩にハンバーガーを作って持って帰らせたら、『今まで食べたことないハンバーガーです!』と興奮の電話が掛かってきて『店をやるなら手伝いたい』と。それが、今一緒に働いてくれている松尾なんですが、場所も人も揃ったことだし、思い切って始めてみることにしたんです」

《スタッフの松尾拓海さん(左)は、今や山中さんにとって、なくてはならない右腕的存在》

間借り営業は最高です

間借り営業は最高です

そしてオープンした「GOONIES BURGER CLUB」。3ヵ月経った今、正直な感想を聞いてみた。

「間借り営業、最高ですよ(笑)。もともとしっかり食事も出すお店なのでキッチンも充実しているし、鉄板もあるんです。自分で用意したのは、メニュー立てやターナー、お皿くらい。開業資金にと約100万円を準備していましたが、ほぼ使わずに店を始めることができました。それにそもそもハンバーガーって、やっぱり昼の食べ物というイメージが強いんですよね。なので昼間にしっかり働いて、夕方以降は自分の時間にできる今のスタイルがベスト。実際、朝は7時、8時から働いているので、実働8時間なんですけどね。気分的には全く苦じゃないです。お客さんが少ない日があっても、その時はSNSを充実させる時間にしようと気持ちを切り替えられますし、店を閉めた後は友達と飲みに行ったり、絵を描いたり。どの時間も有効活用できている感覚です。何をやるのも自分の責任というのも良いんですよね」

《上.大好きなハリウッド映画のスターたちも、「GOONIES BURGER CLUB」のハンバーガーが大好き、というコンセプトで山中さんが絵を描いたオリジナルステッカー。/右.作画はiPadを使いながら》

どの瞬間にも美学を忘れない

充実した日々を送っている中で、山中さんは今も、修業先のオーナーから教わったあることを大切にしている。

「修行中、言われて続けていたのは、『筋肉の動きを意識すること』、『無駄な動きをしないこと』、『いちいちカッコつけること』です。例えば、ブラックペッパーを振る動作ひとつにもこだわりを持てと。最初の頃は良くわかりませんでしたが、今になって、これがすごく大事なことだとわかるんです。毎日ただ同じ作業を繰り返すよりも、毎日が挑戦というか、意識することで新鮮な気分で向き合うことができる。実際、意識して働いていたオーナーは、見ててめちゃくちゃカッコ良かったんですよね。この教えのおかげもあって、今ではハンバーガーに向き合うどの瞬間も楽しめています。特に鉄板にお肉を置いた瞬間からお客さんの手元に届けるまで、焼き上げの加減も含めすべての工程がバシッと決まった瞬間は最高に気持ちいいです」

これからやってみたいこと

これからやってみたいこと

オープンから3ヵ月で、すでに自分のペースをつかんだ今、「やりたいこと」が次から次へと溢れ出ているという山中さん。

「ケータリング向けにミニバーガーなんかを作るのも楽しそうですし、絵の展示や、音楽をからめたイベントもやってみたい。飲食店向けのTシャツやグッズを作るアパレルも立ち上げてみたい。福岡をもっとハンバーガーの街にしたいので、自分でハンバーガーのガイドブックも作ってみたい…。やりたいことは山ほどあります。何より、そうしたことを考える時間ができたことが嬉しいです。自分で店をやるの、いいですよ。もしも将来、自分の店を持つことになったとしても、夜は誰かに貸すなどして、“間借り営業”のスタイルは、ずっと続けていくんじゃないでしょうか」

「GOONIES BURGER CLUB」オーナー山中富美也

「GOONIES BURGER CLUB」オーナー山中富美也

1987年、佐賀県生まれ。福岡の自動車整備専門学校を卒業後、上京。アルバイトをしながら役者を目指すが、幼い頃から好きだったハンバーガーの専門店を営むという夢を実現するべく路線変更。東京の人気店で修行し、帰福。福岡・警固のダイニングバー『fam』のデイタイムを借りるスタイルで2019年7月に「GOONIES BURGER CLUB」をオープン。

住所:福岡市中央区警固1丁目6-4 ハナタレ横丁1F
電話番号:092-406-8785
営業時間:11:00~16:00(OS15:30)
休み:不定
メニュー:オールドスクール700円、グーニーズバーガー900円、グーニーズスペシャル1700円

instagram【GOONIES BURGER CLUB】