水曜はパンとイタリアンのカフェ、木〜日曜は別のスタイルのカフェ、夜は1週間通しでバーに。面白いのは、それぞれ店主が異なり、1つの空間をシェアしながら営業していること。
今回お話を伺ったのは、福岡・二日市にあるシェアレストラン「Ranan(ラナン)」のオーナー、和田佳那子さん。元・客室乗務員で、現在は、イベント企画や空間プランナーという顔も。彼女がなぜカフェのオーナーになり、さらにはシェアというスタイルを選んだのか、聞いてきました。
社会人3年目で迎えた転機
2018年10月にオープンしたシェアレストラン。この場所のオーナーであり、木〜日はカフェ「Ranan」の店主としても店に立つ和田さんは、大学卒業後、まずは目標としていた客室乗務員になる夢を叶え、社会に出ます。
「国内線の客室乗務員として3年間勤務したのですが、お客様に接する仕事はもちろん、たくさんの地方を訪ね、大好きな焼きものや建物、様々なものにも触れることが出来、とても充実していました。その後、国際線への異動を打診されたのですが、『契約社員から正社員になること』が条件で…。普通なら、世界各国を飛び回ることができるようになるし、正社員にもなれるし、二つ返事で受けるところなのかもしれませんが、その時の私にはちょっと窮屈に感じてしまって。珍しいですよね(笑)。すでに想像以上の満足感も味わえていたので、これを機に別の道に進んでみようと考えたんです」
ひょんなことからカフェオーナーへ
航空会社を退職し、東京から地元・福岡へ。焼肉店や写真館など、これまでとは全く異なるジャンルの場所で、アルバイトを始めます。
「その時、久しぶりに福岡の、さらに二日市という場所に帰って来て感じたことは、『20年前は、もう少し賑わっていたような…』という、ちょっと切ない思い。ここ数年は水害の影響でお店が少なくなっていたこともあるのですが、それにしても寂しい。そんな話を、地元で四半世紀くらい営業されている珈琲店のオーナーさんに話していたんです。そしたら、『僕、もうすぐここを閉めるので、もし良かったらやってみませんか?』と。さすがに驚きましたが、いつかカフェをやってみたいという思いがあったので、何かのご縁だと挑戦してみることにしたんです」
自分を表現できる場所
学生時代から、興味を持つことがあれば、とりあえずやってみる、という好奇心とバイタリティを持ち合わせていた和田さん。カフェの打診をもらった頃は、アルバイト先の写真館が企画したイベントで、その調整力やセンスを買われて企画会社にスカウトされ、空間やイベント、デザインのプランナーとしての依頼も受けていたそう。
「プランナーって、好きなことを形にできる、とても楽しい仕事なんです。でも私は自分でデザインができるわけじゃない。依頼主とデザイナーの間に入って、双方の意見をまとめたり、客観的にアイデアを添えるような立場なんです。となると、結局何者でもないし、人にも説明がしづらくて。カフェのオーナーになれば、そこに明確な肩書きもできていいかな、と思いました」
そして譲り受けた場所を、知り合いのデザインチームに依頼してリノベーション。レイアウトや素材などには自分のアイデアをフルに投入し、開業資金はアルバイトしながら貯めたお金で賄います。
「コンセプトに関してはかなり考えました。まず1つは、ここを地元の活性化に少しでも役立てる場所にすること。そしてもう1つは、女性の雇用を生める場所にすること。その2つを軸に考えるうちに、ふと“シェア”というスタイルを思いついたんです」
1つの場所で、いろんな顔を持つ場所へ
1つの場所を複数でシェアすることで、利用する人にとってはバリエーションを楽しむことができ、店に足を運ぶ人が増えれば、通りにも人が増える。また店主は、少ない負担で店が持てる。そうしたメリットをうたい、開業に合わせて応募をかけたところ、昼の1日は、イタリアで20年間料理の修行をし、自宅でパン教室を開いている女性が、そして水〜日の夜はバーテンダーの男性が借りたいと手を挙げて入店。オープン以来、どちらも人気を博しています。
《水〜日の19:00からは、カウンターの後ろの棚にボトルが並び、照明を絞ればバー営業がスタート》
「借りるのに必要なものは施設使用料(家賃)のみ。売り上げは全てそれぞれの時間帯のオーナーさんのものにしていただいています。調理器具や食器などは基本的に用意してあるものを使ってもらってOK。必要なものがあれば、それぞれ自由に持ってきていただくスタンスです。システムがシンプルな方が貸している私にもストレスがないし、借りている方も、余計な心配をせずに営業に集中できるのかなと」。
《右.店に置いてあるものは、和田さんが一つ一つ吟味し、手に入れてきたものばかり。例えばお猪口は沖縄のやちむん、山口の萩焼。骨董市で100円で購入したものなどもさりげなくミックス。左.オープンサンドを乗せるプレートは、山で切り出した丸太を製材所でカットし、やすりをかけてもらって製作。費用0円。「お金をかけたり、かけずに労力を使ったり。いろいろです」》
そして和田さん自身、自らカフェオーナーとして店に立っているのですが、その営業スタイルにもある工夫が。
「実は、私のカフェで提供している料理やデザートは全て、糸島にあるフレンチレストラン「Pinox」のオーナーシェフが手掛けてくれているんです。雇用を生めるような仕掛け、誰もがオーナーになれる仕掛けを作りたいという思いから、料理の手間と材料のロスをなくせないかと考えていたところ、たまたま知り合ったシェフが、温めたり、解凍したりして盛り付けるだけで、本格的な味と見た目を再現できるメニューを考案してくださって。今は私がトライアルでやってみていますが、簡単ですし、提供時間も短くて済む。これなら料理が得意でない人でもカフェを開業できる可能性が。シェフの店は、もともと知る人ぞ知るレストランなので味も折り紙付き。さらに、『あの店の料理がここで、しかもカジュアルにいただけるなんて!』という方にも足を運んでいただき、喜ばれているので、大成功です」
《右:ケーキは季節替わりで500円〜。常時3~4種類を揃えている。コーヒーは500円。山口県徳山市の「COFFEEBOY」にオリジナルの焙煎豆を依頼している。左:糸島和牛をシェフが8時間かけて煮込んだ「和牛ホホ肉の欧風カレー」は1,380円》
ここを、スタートの場にして欲しい
開業から約1年半。自らも現場に立ってきたからこそ、わかってきたこともあるそう。
「飲食業界って、本当に大変だなと。起業は簡単かもしれないけれど、続けることがとにかく大変なんです。それでも『カフェをやりたい』という人は後を絶たない。その気持ち、すごくわかるんです。そしてもちろん、失敗して欲しくない。そこで、自分の店を構える前にここで体感してみてはどうでしょう、という提案もできたら。私自身、1年間やってみてわかったことがたくさんありました。メニューの値段設定、集客の仕方、成功もあれば失敗も…。そういう経験を共有することもできます。今なら、月曜日と火曜日が空いているので、やる気のある方はぜひ(笑)」
今後は少しずつ、カフェを他の人に任せながら、店の一角で雑貨を販売したり、企画・ブランディングの仕事も受けていきたいと考えているそう。
「このカフェを作ってみて、改めて実感しましたけど、コンセプトや空間を作ることがやっぱり好きみたいです。オープン以来、いろんな方がお店に来てくれて、すごく世界が広がったなと思っていますが、それと同時に「コンセプトを考えて欲しい」「空間づくりを手伝ってほしい」というプランニング関連のお話しもいくつかいただいて…。無理のない範囲で受けていけたらと思っています。実は、6歳になる息子がいるんですけど、彼が今、一番面白い時期なんです。男の子なので、ここで私が働く姿を見ることも刺激になっているかな、と思いつつ、もっといろんなところに旅行にも連れて行ってあげたいし、もう少し一緒に過ごす時間を取れたらと思っています」
「Ranan」オーナー和田佳那子
1987年、福岡県生まれ。大学卒業後、日系航空会社の客室乗務員に。その後、いくつかのアルバイトを経て企画・プランナーの経験を積み、2018年10月にシェアスタイルのカフェ「Ranan」をオープン。木〜日は自ら店主としてカフェを運営している。
住所:福岡県筑紫野市二日市中央4-14-8
電話番号:092-922-9648
営業時間:11:00~16:30、19:00〜翌2:00
休み:不定
メニュー:チキングリルのオープンサンド1,200円、「かうひいや」より引き継いだ懐かしの味・なめらかコーヒーゼリー400円
instagram【Ranan(https://www.instagram.com/ranan_share.restaurant/)】