手をかけた分だけ応えてくれる。ランに魅せられ300万円を投じた趣味人
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手をかけた分だけ応えてくれる。ランに魅せられ300万円を投じた趣味人

趣味とわたしとお金

お金は、あればあるだけよく、貯めれば貯めるほどよいというものではない。やはり使いみちがあってこそ、本領を発揮するものだ。趣味の世界に、情熱と時間と、そしてお金を費やしている人たちがいる。その幸せなお金の使いみちを聞いてみた。

今回の趣味人:ランコレクター 大石 賢

ランに夢中になったきっかけ

ランに夢中になったきっかけ

福岡から東京の大学に進学して、就職後はインテリア関係の会社に就職しました。転勤で高知と石川に住み、3年後に家業を継ぐために福岡に帰って来たんですけど、ようやく落ち着けると分かった時に、「何か植物を育てよう」と思ったんです。

とは言え初めてだったので、植物にはどんな種類があって、いくらくらいなのかも全く見当がつきませんでした。なので、せめて“見た目”から入ってみようと、インターネットでいろいろ調べていたら、あるお店の名前がとにかくよく出てきて。それで訪ねてみたら、グラフィティが描かれた男の作業部屋的な空間に、独特な佇まいの洋ランがズラっと置いてあったんです。その時まで、ランと言えば胡蝶蘭くらいしか知りませんでしたし、ランをこんな風にコーディネートするパターンがあるのかと衝撃でした。そしてすっかり魅せられ、ランを育ててみようと決めて。せっかく育て始めるならちょっと奮発した方が大事にしそうだと思い、1万円くらいのものを買って連れて帰りました。

その後、園芸店などにも通うようになって、1年くらいで一気に数が増えましたね。今は100株くらい。原種と呼ばれているものを中心に集めています。

ランを育てることの魅力

ランを育てることの魅力

ランの魅力は、やはり独特な姿形、そして栽培に失敗しなければ生き続けてくれるところでしょうか。子株を作って増えていくし、大きくしていくこともできます。あとは種類が豊富で飽きないところ。原種だけでも750属、2万6000種が存在するんです。香りも様々で、チョコレートみたいな香りがするものや、本当に耐えられないくらい臭いものもあるんですよ(笑)

《ラン関連の書籍も多数所有。中でも「原種洋蘭大図鑑」は、特にお気に入り。絶版になっており、定価約8000円のところ、中古でも2万円したが思い切って手に入れた》

これまでの投資金額は?

これまでの投資金額は?

300万円くらいでしょうか。今、手元にあるのは100株くらいですけど、栽培に失敗してしまったものや、知り合いに譲ってしまったものも合わせると、延べ300株くらいは買ってきたと思います。値段は1株だいたい2000円〜2万円ですね。あとは栽培の設備や書籍、ランを買いに他県まで足を運ぶこともあるのでその費用とか。でも、しばらくは新規で買うことはないかな…。今いる子たちで手一杯で(笑)。

愛情を注いだ分だけ、応えてくれる

愛情を注いだ分だけ、応えてくれる

光が当たる窓辺に置いて時々換気をし、水をあげれば花は咲きます。でも日本の四季を乗り越えられたもの、寒冷地以外の洋ランは、冬の間に10度を切ると弱り、5度を切ると死んでしまうんです。なので、そうしたランを育てるには環境作りが不可欠。僕の場合、もともと物置だった部屋1つを、まるまるつぶして「ラン部屋」にして、ここに自分で棚を作って育てています。ビニールシートで覆って、温度18度、湿度70%の状態にキープ。風もサーキュレーターで起こして、日光と同じ光を、ライトを使って当てています。この時期(3月初旬)なら、水やりは週に2回くらい。以前はひと鉢ずつバケツの中に沈めていたのですが、下に配管を通して水が溜められるように改造したので、水やりがずいぶん楽になりました。

さらにランを育てる上で不可欠なのが鉢変え。芽が出るぞ、というこの時期がベストシーズンです。以前はブルーシートを広げた床に座って、1日じゅう鉢変えをやっていたんですが、腰が痛くなるのと、「やらねば」という感じがちょっと億劫に感じるようになったので、今はテーブルを置いて、仕事から帰ってきて夕飯までの間に、とか、気が向いた時に細切れで作業するようになりました。作業中は携帯を触ることもありませんし、集中できるので気持ちがいいですね。

そうして、手をかけたランが咲いた時は本当に嬉しい。3年育ててやっと咲くものや、咲いても数日間しか持たないものもあるんですが、その儚さがまた、いいんです。

僕の場合は、大きく花が咲くと3,4万するようなものを、咲く前の状態で5000円くらいで買ってきて、育てていくのが好きなんです。なので割と大掛かりなことになっているのですが(笑)、例えば切り花みたいに1鉢買って、1シーズンだけ楽しむのもおすすめですよ。2〜3000円くらいで可愛い花が咲いているものもありますから。

ランを通じて、新しい仲間も

ランを通じて、新しい仲間も

ランを育てている人って、想像していた以上に多いんですよ。年代もかなり幅広くて。僕が始めた頃は、ちょうどインスタグラムが流行り出した頃で、同世代でランをやっている人を見つけてやりとりするうちに仲良くなりました。今では、5人くらいの「ラン仲間」で一緒に園芸店に行ったり展示会に行ったり飲みに行ったりしています。集まった時は、「これは咲いた」「うちはまだ咲かない」「あの店にはこんなランがあった」とか、そんな話で盛り上がりますね。育て方なんかについては農園の方に聞くのももちろんですけど、仲間に聞いた方がリアルな意見がもらえるので助かっています。

趣味と趣味を掛け合わせて、人生を豊かに

趣味と趣味を掛け合わせて、人生を豊かに

ランを始めるまでの趣味と言えば、旅行でした。年に5,6回、海外に出かけた年もあります。大体が、グルメや美術館、建築物などを目的に行っていたのですが、これから出かけるならやっぱりランのある場所、ランの自生地に行きたいですね。例えばブラジルやアマゾン川流域とか…。ちなみにアマゾン川の流域には、すごい場所があるらしいです。温かい地域でしか咲かない、バンダっていう種類のランがあるんですけど、それが川沿い一面に咲いて、反射して川面がピンクに染まるのだとか。それはぜひ、見てみたい!

ランコレクター  大石 賢

1989年、福岡県生まれ。地元の高校を卒業後、東京の大学に進学し、インテリア関連企業に就職。転勤による高知、石川での勤務を経て、家業を継ぐために退職。福岡に帰郷し、5年前よりランの蒐集をスタート。コレクションは約100鉢。