バリスタ兼パタンナー。新スタイルの「二足のわらじ」が武器となり、価値を生み出す。
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バリスタ兼パタンナー。新スタイルの「二足のわらじ」が武器となり、価値を生み出す。

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2019年12月にオープンしたコーヒーショップ&プロダクト工房『ROUNDCOUNTER(ラウンドカウンター)』。手前はイートイン席を構えたコーヒー屋さんで、奥はオリジナル製品の工房スペースになっています。ここを切り盛りするのは、久保光太郎さん。バリスタとパタンナー両方の顔を持ち、一つの空間でスペシャルティコーヒーとオリジナルプロダクトを展開しています。他の店にはない特異なアプローチで展開する久保さんに、このスタイルに行き着いたプロセスと、その強みについて話を伺いました。

前職は大手デニムメーカーのパタンナー!

前職は大手デニムメーカーのパタンナー!

久保さんは2017年に福岡の服飾専門学校を卒業後、上京して大手デニムメーカー「株式会社エドウイン」に入社。そこでジーンズブランド〈Lee〉のパタンナーとして7年間活躍しました。大手ブランドとあって一度に何万本ものジーンズを大量生産し、国内の至る所に流通するアイテムを作る日々。ものづくりの第一線で働く中で、仕事のスタンスについて考えるターニングポイントを迎えたそう。

「僕はパタンナーなので、ブランドディレクターや工場の職人さんが仕事相手。お客さんの顔が見えない環境なんですよね。最初は自分が手がけたデニムパンツを街で見かけて喜んでいましたが、だんだんそれが当たり前になり、感覚がマヒしてきて…。消費者と直接繋がらないまま大ロット生産の服を作ることに違和感が出てきたんです」

それから、エンドユーザーとの繋がりや対話を求める気持ちが久保さんの中でじわじわと湧いてきたと言います。

ヴィンテージの食器を集めるようになり、コーヒーが趣味に。

当時の職場がデニムメーカーとあって、同僚や知人は根っからのアメリカ好き、ヴィンテージ好きが多かったそう。周りの影響で久保さんもヴィンテージ食器に興味を持ち始め、〈ファイヤーキング〉や〈パイレックス〉などのマグカップをコレクションしていました。

「せっかくならお気に入りのマグカップでおいしいコーヒーを飲みたいと思って、いろんなコーヒーショップの豆を買うようになり、いつしかコーヒーを淹れて飲む行為が趣味になりましたね。コーヒーで感動したのが、『BE A GOOD NEIGHBOR COFFEE KIOSK』のケニアのアイスコーヒー。なんだこれ!?ってビックリするくらい、他店の味わいと全く違って強烈なインパクトを受けました。調べてみるとスペシャルティコーヒーで、コーヒーへの探究心がますます強くなりました」

コーヒーが趣味になったとはいえ、やりがいのあるパタンナーの仕事を辞めてまで、コーヒー業界に転身しようと思った理由は何だったのでしょうか。

「ただコーヒーが好きという理由で、そんなに深く考えてなかったと思います(笑)。けれど頭の片隅で、いずれは独立したいなと考えていたのも確か。自分が作った服を自ら発信できたらなと。その時に服だけじゃなく+αがあるといいなと思って、コーヒーを集中的に勉強してみようと決心しました」

デニムメーカーを退職後、バリスタ世界チャンピオンが手がけるエスプレッソカフェ『Paul Bassett(ポール・バセット)』にてアルバイトし、2013年に福岡へUターン。国内最高峰のバリスタが代表を務める『REC COFFEE(レックコーヒー)』に入りました。抽出技術に特化してトップクラスのスキルを身につけ、バリスタとして新店舗の立ち上げを任されるなど信頼を得ながら丸6年所属しました。

「『REC COFFEE』で学んだことは、技術面だけではなく、一杯に対する“情熱”も大きいですね。おいしいコーヒーを味わってもらいたいという気持ちを込めて、一杯一杯丁寧に注ぐことが大事だと感じています」

独立を考え始めたきっかけと、理想のビジョン

独立を考え始めたきっかけと、理想のビジョン

観光客やビジネスマンなどで混雑する店舗に立ち、エスプレッソマシーンに張り付いて抽出に徹する日々。そこで少しずつ「自分が淹れるコーヒーについて、自分の言葉でお客さんに伝えたい」「自分もサーブしたい」など、前職で感じたような思いがふつふつと湧いてきたという久保さん。理想の環境を築き上げるために、一年ほど思いを温めながら独立の準備をし始めました。

「『REC COFFEE』に在籍していた頃から個人の仕事として、飲食店のオーダーメイドエプロンの製作を受けていたんですよ。独立するなら、自分が淹れるコーヒーや自分が作ったプロダクトについてカウンター越しに話せるような空間にしたいなと思って、屋号名を『ROUND COUNTER(ラウンドカウンター)』にしました。退職後はいろんなイベントに出店して、方向性を模索しながら実店舗オープンに向けて準備しましたね」

【蚤の市やマルシェなどのイベントに出店しながら、実店舗開店に向けて着々と準備】

模索しながらも、お店のコンセプト「スペシャルティコーヒー&カウンタープロダクツ」がより強固になり、久保さんが今まで培ってきた2つの経験を活かせる最高の場所が見えてきました。
こうして2019年12月、薬院駅から六本松方面へ向かう城南線沿いに『ROUND COUNTER』をオープン。広々とした店内には、大きなラウンド型のコーヒーカウンターとイートインスペース、奥に洋裁のアトリエスペースを併設し、ジャンルが異なる2つの要素が合体した空間になっています。

【念願の実店舗。煉瓦造りのレトロな外観が印象的】

オープン早々、コロナ禍へ。ピンチ到来と思いきや…!?

オープン早々、コロナ禍へ。ピンチ到来と思いきや…!?

オープンして3〜4ヶ月後、春頃には軌道にのるかと期待していた矢先、日本でも新型コロナウイルスが深刻化…。福岡にも緊急事態宣言が出され、『ROUND COUNTER』にとって初の試練が訪れます。

「当初の計画ではコーヒーのサービスを重点的にやって、軌道に乗ってきたらスタッフを増やそうと思っていたんです。コロナで出鼻をくじかれた気分でしたね」

けれど、バリスタとパタンナーの二刀流スタイルが強みになる転機が! それは布製マスクの販売です。各所でマスクの在庫切れが相次いでいた3月下旬、常連客の一言で久保さんの考えが変わったと言います。

「周りから『マスクを作って売ったらいいじゃん』と提案されても、なんだか気乗りしなかったんです。お金先行の姿勢が意に反するというか…。ところが、近所の常連さんから『マスクがなくて困っている人がたくさんいるよ。作れる技術があるなら社会貢献と思って作ってみては?』と言われて、その言葉がスッと胸に落ちました」

布製マスクが普及する前の早い段階で、オンラインと店頭で販売を始めたところ、待ってましたと言わんばかりに問い合わせが殺到! 『ROUND COUNTER』を初めて知った人は、「どうしてコーヒー屋さんなのにマスク作れるの!?」と久保さんのユニークなスタイルに興味を持ち、「落ち着いたらお店に行きますね」などのうれしい声も多々上がったそうです。

二足のわらじで得た、確かな手応え。

「布製マスクの展開はお金目的ではなかったものの、結果的には運営の支えになりました。そして普段接点がなさそうな人たちにもマスクを通じて店の存在を知ってもらえたので、やってよかったなと思います」と久保さん。

ちなみに、緊急事態宣言中もコーヒーショップは営業時間を短縮し、除菌対策など最善を尽くしながら開店していました。世の中がどんより暗いムードの中、せめておいしいコーヒーが飲みたくてと、ご近所さんがテイクアウトをしに店へ訪れる姿も多く見られました。

「(ソーシャルディスタンスを保ちつつ)顔を合わせて話すことでホッとしたり、コーヒーを飲むことで気分転換になれば、それこそ僕もうれしいです。店舗は店舗で、人との繋がりを感じられる場所になりましたね」

コロナ禍という未曾有の試練の中、パタンナーとバリスタの二足のわらじによって見出せた自身の強み。「二つともやっていてよかったと感じますし、店を構えている身として、いろいろ考えさせられる貴重な機会になりました」と久保さんは振り返ります。

コーヒー×プロダクト。これからのビジョンは?

コーヒー×プロダクト。これからのビジョンは?

やりたいことをたくさん叶えるというより、当初から考えていることを着実に具現化していきたい、と久保さんは語ります。まずはカウンタープロダクツの展開を進めていくこと。現在はエプロンをはじめ、コースターや巾着バッグ、鍋つかみ、洋服などを展開していますが、ゆくゆくはドリッパーやドリップスタンドなど、コーヒーを家で楽しむためのグッズをオリジナルで展開していきたいそう。

「例えば、何の変哲も無いポーチにオリジナルプリントを施して完成、という風にはしたくない。僕が作りたいプロダクトは、生産背景にストーリーがあって、縫製やかたち、デザインなどちゃんと中身が伴っているもの」

前職で“ものづくり”の第一線に身を置き、各工程のさまざまな職人と触れ合い、ひたむきにプロダクトと向き合ってきたことで芽生えた思いです。

【現在はオリジナルエプロンやアパレル商品などを販売。これからコーヒー関連のプロダクトも増えていく予定】

【バリスタとしての信念も大事にし、一杯一杯に思いを込め真摯に提供する久保さん】

「コーヒーに関しては、3〜5年先に焙煎機を導入することが目標です。生豆から一杯のコーヒーが出来上がるまでの全過程を自分で手がけ、目の前のお客さんに届けること。そのために今改めて、抽出技術を深く突き詰めているところです。扱う豆やメニューによって最適な抽出法があり、各工程のさじ加減で味も風味も異なってくるので、答えは一つじゃありません。そこがコーヒーの面白いところですね!」

「ROUND COUNTER」オーナー 久保光太郎

「ROUND COUNTER」オーナー 久保光太郎

2007年に福岡の服飾専門学校を卒業し上京、約6年間大手デニムメーカーにてパタンナーを務め、国内外問わずジーンズが作り出される現場で生産過程を学ぶ。コーヒーへの関心が高まり、2013年地元・福岡のコーヒーショップに転職。約6年間バリスタとして腕を磨き、コーヒーの知識やエスプレッソ抽出技術を習得。2018年から個人の活動を開始し、イベント出店やネットショップを展開。2019年12月に実店舗『ROUND COUNTER』を開店。

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