インフレ加速のアメリカ、皆どうやって物価高を乗り越えている?
日本以上に物価高が報じられているのがここアメリカ。インフレ率は40年ぶりの高水準に達し、食品やガソリン、家賃などが急騰しました。全米でも特に物価が高いことで知られる大都市ニューヨーク。人々はどのようにこの物価高を乗り切っているのでしょうか?現地からレポートします。
ファストフードのランチが2500円
毎日のように物価高が報じられている日本。しかしここアメリカでは、日本以上に物価高が進んでいます。記録的なインフレは2021年春から進んでいき、食料品、外食費、ガソリン、家賃etc… と全体的に価格が急騰しました。
食品の中でも卵の供給不足と価格上昇は特に深刻です。鳥インフルエンザ(そして燃料費、鶏の飼料費の高騰など)の影響で、ニューヨーク市内のごく一般的なスーパーでさえ、1ダース(12個入り)が6、7ドル以上(現在の為替で約820~950円、以下同)の商品が主流になりました。中には12ドル(約1640円)の値がついた高級品まで並んでいます。たまに行われる安売り(と言っても4ドル代)に市民は飛びつき即売り切れとなり、売り場には価格の高い卵だけが残る始末です。
外食費の急騰も深刻です。アメリカでは食材や運送、店舗家賃の価格高騰がすぐにメニューの価格に上乗せされることが多く、それらに加えサービス費用(高い人件費とチップ)が、我々消費者が支払う価格となります。日本のメディアでは「パンケーキの朝ごはんが2人分で8000円だった」など驚異的な物価高が伝えられていますが、決して誇張した報道ではありません。
ごく一般的なレストランでサンドイッチのランチをオーダーすると20ドル(約2730円)は軽く越します(ドリンク代別)。筆者は最近、Five Guys(ファイブガイズ)というファストフード店に久しぶりに行き驚きました。ミニハンバーガーとポテトとドリンクをオーダーしたところ18ドル(約2500円)もしました(以前なら高くても13ドルくらいだったと記憶しています)。ラーメンも当地では高級品の部類で、チップを含めると25ドル(約3400円)ほど見込んでおかなければなりません。
毎年上がり続ける家賃
生活費の中で家賃の上昇は、ニューヨーカーの家計を圧迫している最大の要因です。
米不動産マーケットプレイス&IT企業のZillowによると、市内にあるあらゆる部屋数の賃貸アパートメントを総合した結果、中央値は月3300ドル(約45万円)に上るということです。マンハッタン区だけに絞ると、中央値は月4100ドル(約56万円)に達しました。
ちなみに、当地の賃貸物件は毎年(もしくは2年に一度)契約更新時に値上げされていくのをご存知でしょうか?当地では当たり前ですが日本の知人に「家賃の定期的な上昇」の話をすると必ず驚かれることです。
値上げ率は経済状態によって変動しますが、昨年の上昇率は1年契約で3.25%、2年契約で5%でした。つまり月3300ドルの家賃であれば昨年だけで月107ドル(約1万4600円)以上値上がったことになります。このような値上げは「契約更新ごとに毎回」続きます(編集注:パンデミックだった2020年だけ例外で上昇率は0%でした)。このような値上げ率ですが、不当な上昇を阻止するための規制ルール「レント・スタビリゼーション(家賃の安定化)」でコントロールされているのでまだ良心的な方です。そのような規制を受けていない新築物件で人気のエリアであれば月30万円アップ、年間360万円アップなんていう話も決して珍しいことではありません。
昨年、BBCの記事で紹介された20代の女性(俳優業)は、マンハッタン北部の3ベッドルームの住居を3人でシェアしていました。4月の時点で次期の契約更新の知らせが大家から届き驚いたといいます。それまでの家賃は月2600ドル(約35万4000円)だったのが新たな家賃は月5200ドル(約70万円)になったということですから、倍近く値上げされたということになります。この女性は退去を決め、物価の低い他州への引越しを余儀なくされました。
貸す側が強気で交渉の場に出られるのは、全米はもちろん全世界から人が集まる大都市たる所以かもしれません。起業家やアーティスト、学生などさまざまな人が夢を追いかけてやってきますから、住居はどうしても売り手市場になります。
ニューヨークは年収も日本より高いのは事実です。当地では平均時給が25ドル(約3400円)、平均月収が4,299ドル(約58万5000円)、平均年収が51,590ドル(約700万円)とされています。ただしやはりこれら平均月収や年収を加味しても、ニューヨークの家賃はかなり高いと言えるでしょう。
ニューヨーカーのサバイブ術
節約術1. アパートはシェアが当たり前
では、どのようにニューヨークの人がこの街でサバイブをしているのでしょうか?
まず住居費と生活費をルームメイトと折半することで、出費を大きく削ることができます。独身で若い世代の人の多くが、ルームメイトや友人ら何人かで広い住居をシェアしています。そうすることで例えば月3300ドルのアパートメントでも3人で折半することで1人につき月の家賃を1100ドル(約15万円)に抑えることができるのです。光熱費やインターネットなどの生活費もルームメイトと折半します。
節約術2. 外食をセーブ
外食費に関しても周囲のZ世代に話を聞くと、これまで頻繁に外食をしていた習慣を見直し、月に1度とか週末だけなどと決め、限られた予算で恋人や友人と外食を楽しんでいるようです。さらに男性の出費が多くなりがちなデート(編集注:男女平等が叫ばれるアメリカですが、それでもデート費用は男性が持つことが多い)は、食事は自宅で済ませ、1、2杯飲みにバーにお出かけしていると言った人もいました。それでもニューヨークのバーは高いので、2杯でも軽く7000円以上はかかるのですが...。
ニューヨークのカルチャー系ウェブメディアのUltranycはこのように報じています。
「アメリカのインフレ率は40年ぶりの高水準に達した。また労働省のデータによると、消費者物価指数は前年から9.1%上昇し、1981年以来の上昇率となっている」「これに伴い、ニューヨークのスーパーでは卵、鶏肉、牛乳、香辛料の価格が急騰している。1979年以来もっとも価格が高騰した」「以前なら30ドルの買い物だったのが、今では軽く50ドルになっているのに気づくだろう」
その上で「ニューヨークのインフレを乗り切る4つの方法」としてこのような節約術(以下はこのうち3点を抜粋)が提案されています。
1. 購買習慣を変える
これまで週に一度食料品の買い出しに行っていたなら、その頻度を変えると良いかもしれない。一度にまとめ買いをするのではなく、必要なものだけを少しずつ購入すると良いだろう。店によって価格が微妙に異なるので、いろんな店を覗いてお買い得品をチェックすると良い。
2. 生協やコミュニティガーデンを利用する
ニューヨークに1年以上住んでいる人ならば、生協(Food Coop)で月に数時間働くことで食品を割引価格で購入できるプログラムに参加できる。また果物や野菜を無料で手に入れられるコミュニティガーデンもあるのでそれらを利用する。
3. クーポンや割引コードをチェック
Groupon(グルーポン。編集注:日本では撤退したが本場アメリカでは引き続き人気の割引サービス)などのアプリを使えば、割引価格でさまざまなアクティビティを楽しめる。さらにプロモーションコード対応の店舗で節約しながら買い物する。Rakutenではキャッシュバックがあるので利用する。
2はアメリカらしいですが、1と3は日本でも同様かもしれません。
かくいう筆者も、以前ならスーパーであまり価格をチェックしていなかったのに、インフレ後はクーポンを利用するようになりました。大好きなピスタチオはインフレ以降、容量が減り(編集注:アメリカではシュリンクフレーションと呼ばれています)価格が倍になったので、買う頻度をこれまで以上に減らさなければと思っているところです。