お金

シリコンバレー銀行以降相次ぐ銀行経営破綻。米国での現地報道は?

N.Y.発、安部かすみの今気になる最新マネートピック 安部 かすみ(あべかすみ)

シリコンバレー銀行以降相次ぐ銀行経営破綻。米国での現地報道は?

【画像出典元】「Sergei Elagin/Shutterstock.com」

アメリカでは2023年3月、3つの銀行の破綻が立て続けに報じられました。シリコンバレー銀行、シグネチャー銀行、そしてシルバーゲート銀行です。たった5日間で中堅銀行の閉鎖が次々に伝えられ、国民に金融不安をもたらしました。本国アメリカではどのような報道がなされたのでしょうか。現地からレポートします。

「大銀行の1つ」シリコンバレー銀行

【画像出典元】「Sundry Photography/Shutterstock.com」

アメリカでは今年の3月に入り、中堅銀行の破綻が3件も発生しました。暗号資産(仮想通貨)取引を主軸としたシルバーゲート銀行が8日、地方銀行のシリコンバレー銀行が10日、そしてシグネチャー銀行が12日と、3つの銀行が1週間以内に立て続けに経営破綻したのです。当然、金融業界は危機感を募らせています。

中でもシリコンバレー銀行は、アメリカ国内でも規模の大きな銀行としてこれまで成長をしてきた銀行の1つでした。IT企業の多いカリフォルニア州サンフランシスコ市のシリコンバレーに拠点を置き、一時期はシリコンバレー最大の銀行と言われてきたほどです。

そんな中、銀行が相次いで倒産したアメリカ。3行のうちの1つ、シグネチャー銀行は、筆者が居住するニューヨーク市に拠点があります。状況が刻々と変化する中ですが、本稿では現段階の現地報道をピックアップして紹介します。

シグネチャー銀行「一時期、NYでもっとも成功」

【画像出典元】「Poetra.RH/Shutterstock.com」

ニューヨーク州では3月12日以降、地元のシグネチャー銀行の破綻が大きく報じられています。同行は中小企業や不動産融資を主軸に、暗号資産(仮想通貨)バンキングなどを含め国内事業を展開していた州公認の商業銀行で、本拠地であるニューヨーク市内をはじめ、ニューヨーク・トライステートエリア、カリフォルニア、ノースキャロライナなど全米各地にオフィスを広げていました。FDIC(連邦預金保険公社)の保険にも加入していました。

当地NYでは、メガバンクであるシティグループ、JPモルガンチェース、バンク・オブ・アメリカ銀行が一般的にポピュラーですから、一般市民にとってシグネチャー銀行はあまり馴染みのない銀行だったと言えます。ただ、不動産会社の銀行業務に注力して成功しており、2014年には 「ニューヨークでもっとも成功した銀行」と持て囃された時代もありました。

経営破綻後、米財務省などが同行の預金者の保護を迅速に発表したため、倒産のニュースが報じられた後も一般市民の間でパニックのようなものは起こりませんでした。ファイナンシャル危機を回避し、市民がパニックに陥らないためにも「同行は連邦政府の管理下に置かれている」と、さまざまなメディアによって強調されました。

ロイターやゴッサミストなどの報道では、同行の中小企業の預金者の中には、イノベーション経済を牽引するテック業界などニューヨーク経済を強固に支えているIT企業も多く含まれているということです。また、ニューヨーク市自体が2017年以降にシグネチャー銀行に口座を持っていると報じられています。その預金額は21年末の時点で5000万ドル(約65億円。1ドル130円計算。以下同)以上とされています。

ちなみに数ある金融機関の中から、行政がどのように取引先である銀行を選別しているかについては、ブルームバーグの調査によると、人種差別がないかなど企業を詳しく精査した結果だといいます。例えば、ウェルズ・ファーゴ証券はローン申請者のうち黒人の半数以上が拒否され、白人の70%以上が承認されていることが判明。この結果を受けNY市は同証券会社の新規口座の開設を停止したと伝えられました。このような視点でも、シグネチャー銀行が行政から選ばれ信頼に基づく銀行の1つであったのは間違いなかったようです。そのような堅実な銀行が、今回の倒産劇の主軸にあったということなのです。

「シグネチャー銀行の崩壊がNYにとって何を意味するか?」という記事を発表したザ・シティは、このように述べています。「州の規制当局によって突然閉鎖されたというニュースを知った。ニューヨーカーのほとんどがこれまで聞いたこともなかった銀行だが」。この記事でも、連邦政府により預金額は保証の対象になっていることが述べられています。

さらに「破綻後、シグネチャー銀行の経営幹部は職を失い、 株主は一掃された」ということです。今年暮れに引退予定だったCEOのジョセフ・デパオロ氏は約20万株を所有しており、株価のピーク時には約7300万ドル(約96億円)だったということです。

同行の破綻によって影響を受けるのはどちらかというと「賃貸アパートメント(日本でいう賃貸マンション)の所有者や管理会社、ディベロッパーだろう」といいます。その理由として、「同行の主要取引先が、賃貸や家賃が市によって規制されている建物、レント・スタビライズド・アパートメント*などの所有者だったから」です。

*レント・スタビライズド・アパートメント:
アメリカの大都市では基本的に、契約更新ごとに家賃が上昇し続ける。よってNYなどいくつかの州では家賃コントロールの一種「レント・スタビリゼーション」つまり家賃の安定化が設定され、所有者や管理会社による法外な家賃の急上昇を防いでいる。レント・スタビライズド・アパートメントとは、そのような規制が敷かれたアパートを指す。

同行の破綻による今後起こりうる長期的な問題としては、金利の上昇や融資基準の厳格化などが予想されています。「特に2019年の賃料規制改革によって賃料の値上げが制限されているビルの所有者にとって、借り入れがより困難になってくるだろう。貸し手はより多くのローンを請求できるようになる」というのが専門家の見方です。

またアメリカ全体では、個人のSNSの投稿でも銀行破綻の引き金になりうる危うさも囁かれています。今年2月、フィンテック系メルマガ『The Diff』の発信者、バーン・ホバート(Byrne Hobart)氏が金融不安を警告した自身のメルマガを引用しツイートしたのですが、それがバズり、取り付け騒ぎに発展し、シリコンバレー銀行の破綻の引き金になった可能性を、フォーチューン誌やヤフーなどが報じました。

そしてSNSに今ほどの影響力がなかった時代、リーマンショックの金融危機との違いや、今後さらに用途が広がっていくAIが主導するSNSが引き起こす未来の金融危機の恐ろしさも指摘されています。

「口座を移動する計画はない」(NY市)

【画像出典元】「Sergii Figurnyi/Shutterstock.com」

経営破綻後、米財務省やニューヨーク州のホークル知事などが「同行のすべての預金者の預金は保護されている」と強調し、ニューヨーク市も「口座を移動する計画はない」と発表しました。また3月19日には、当地NYを地盤とするフラッグスター銀行が買収することで合意したことが、連邦預金保険公社によって発表されました。(ちなみにシリコンバレー銀行の方は26日、地銀のファースト・シチズンズ・バンクシェアーズによる買収が発表されています)。

別の報道によると、ニューヨーク市が取り引きしている銀行や金融機関は約30もあり、そのうち例えばJPモルガンチェース銀行には6億4500万ドル(約839億円)、バンク・オブ・アメリカには約5億ドル(約650億円)を保有しているといいます。それらに比べるとシグネチャー銀行への市の預金額は総資産のほんの一部と言えるかもしれません。

ホークル州知事も「米政府による預金者保護の取り決め措置が金融システムの安定性と信頼を高めることに繋がると期待する」と表明しました。同行の破綻によって影響を受ける当地のほかの銀行もないといいます。

しかし、それでも5000万ドルとされる市の預金額はかなりの大金です。これらは市民(納税者)から徴収した大切な資産なのですから、預金先や買収先の金融機関へのさらなる精査を求める声が市民から多く上がっているのは当然のことと言えます。