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海外に出れば日本より稼げる!?考えておかねばならないあの問題

山崎俊輔のライフプラン3.0時代を生きるルール 山崎 俊輔

海外に出れば日本より稼げる!?考えておかねばならないあの問題

海外で働けば年収が倍になる?

日本の円が弱い、とよく言われるようになりました。確かに1ドルが80円台であったころと比較をすれば、1ドル160円になったら「1円」の「1ドル」に対する交換価値は半分になってしまったことになります。

こうした話題とセットで、「海外で働こう」という話が紹介されることがあります。日本の力が落ちていくなら海外で働けばいい、というわけです。

紹介される事例をみていると「1時間で3000円くらい稼げる!」という話題があったりして、夢が膨らみます。これなら、日本よりもたくさん稼げる、という感じがしますが、本当でしょうか。

お金の話をさておけば、海外でも働ける人間になることはとてもいいことです。グローバルな時代に、日本企業に勤めていても海外勤務となることはあります。あるいは海外を自由に移り住みながら仕事を続けられる選択肢を得ることにもなります。

そうなると第一歩はやはり語学力です。日常生活の会話を行う力、そして徐々に専門的な知識を踏まえて会話できる力を身につけることができれば、それはあなたの大きな財産となり、また高年収を得るチャンスにつながるでしょう。

時給が倍になっても生活コストも倍?

「お金の話をさておけば」と前置きしたのは、時給が高いことが単純に「2倍稼げる」というわけではないからです。

例えばアメリカのカリフォルニア州では最低賃金が時給20ドルだそうです。1ドル150円換算で時給3000円になるわけですが、仮に時給が「円」で2倍になったとしても、生活コストも「円」で2倍になっている可能性があります。外国で稼ぐということは外国で暮らし、日常生活費を支払わなければいけないからです。

世界的には物価は大幅に上昇しています。日本も上昇しているとはいえ、世界の比では小さなものです。特にアメリカの物価上昇は著しく、昼食をすると2000円以上であるとか3000円になるとかネットではよく言われています。アメリカの時給が3000円であったとしても、そのほとんどは高い物価の影響で生活費に消えていくのです。

だとすると、日本で1時間働いて1000円もらって、1000円より安いお昼を食べたほうが「お得」かもしれません。単純に時給だけを見るのではなく、海外の生活コストもチェックすることが必要です。

海外でしっかり貯めて、日本でお金持ちになることはできる?

それでは「海外ではとにかく節約して暮らし、たくさんお金を貯めて、日本に帰ってから贅沢に暮らしたい」というのはどうでしょうか。

かつて日本に仕事をしにくる外国人たちの目的のひとつは「お金を貯めて、自国に帰る」ことでした。自分の国に帰ってそのお金で起業をしたり、家族を支えることが外国(彼らにとっての外国が日本)で働く原動力だったわけです。自分の国の通貨と日本の円との交換レートによっては、その送金や貯金は大きな力を持ちました。

同じことを、日本人が外国に行く時考えてみるとどうでしょうか。向こうでの生活は割高かもしれませんが、そこでうまく節約をしてお金を貯めておくことができれば、日本円に交換した時、ハイペースでの貯金になるかもしれません。

たとえば年収400万円の人が100万円の貯金をすることは25%の貯金になり容易ではありません。しかし、100万円相当(1ドル150円なら6666ドル)を外国で貯めるとして、アメリカで年収5万ドルの仕事をして同額を貯めるとすれば13.3%の割合ですから実現性はぐっと高まります。

ただし、こうした高年収はアルバイトでは難しく、外国でも正社員として採用され、日本で正社員として働くようにビジネススキルを発揮する必要があります。そうなると外国語を現地の人たちと同レベルで使いこなす必要もあるでしょう。

「海外の高い時給でバイトすれば、日本円では大きな財産」とは、簡単に考えない方がいいでしょう。なかなか、うまくはいかないのです。

年金制度は多くの国が通算協定を持つが高望みは禁物

こうしたグローバルな人の行き来やお金の流れを踏まえて、税金や社会保障制度はどうなるのでしょうか。税金および健康保険などは、その時点での年収からその時点での制度に基づいて負担し、また健康保険などは現地の病院などで医療サービスを受けることになります。ここはほとんどの場合、給与から引かれることになりますから、あまり心配することはありません。

負担と給付のタイミングがズレる制度としては年金があります。年金の保険料を負担するのは現役時代、もらうのは老後(しかも働くなってから)というタイムラグが生じる仕組みですが、現役時代は外国、老後は日本のように国をまたいだ時、年金を日本でもらうことができるのでしょうか。

年金制度については、多くの国が通算協定を日本と結んでいて、海外で納めた保険料について、日本の年金制度に反映させるような仕組みがあります。よって「外国で何十年も払った保険料は全部ムダになった」というような心配はあまりありません。

ただし、あまり高望みは禁物です。日本では厚生年金と国民年金の2階建てで合計16万円位をもらえますが、通算の対象が国民年金のみ、となると月6.8万円分だけに留まったりします。

詳しくは日本年金機構のホームページで解説されていますが、帰国時などは必ず問い合わせ、必要なら手続きをしておくようにしてください。

厳しいとみるか、チャンスが広がっているとみるかはあなた次第


さて、今回のコラムは「手放しでいいことばかりではないよ」というトーンになってしまいましたが、海外で働くというチャレンジを翻意させようというものではありません。むしろ、興味と好奇心がある人はぜひ挑戦して欲しいと思っています。

まず、海外に滞在したことは、あなた自身の見識を大きく広げます。海外に行ってみて分かる日本の問題点もあれば、逆に日本の素晴らしさを再認識することもあるでしょう。日本の電化製品や車、ゲームやアニメ文化などが世界で支持されていることを、肌感覚で理解しておくことは大きな財産です。

そして、海外で働くという経験は、その後に日本に帰ってきてもムダにならないと思います。おそらく語学力やその経験を武器に就職活動をすれば、日本でもう一度就職することも難しくないはずです。キャリアとしても経験を活かしてステップアップとなる可能性があります。

もしかすると、海外にチャレンジしてそのまま人生が動き出すこともあるかもしれません。海外で出会ったパートナーと結婚したり、仕事が楽しくなって海外に長期在住の決意を固めずっと暮らしていく、ということもありえます。

ただし、挑戦が甘いものではない、ということだけは考えておきましょう。「日本の2倍の時給だから、全然英語しゃべれないけど、とりあえずオーストラリアに行ってみよう」という位で考えているなら、ちょっとお薦めできません。

さて、あなたはここまで読んで「それでも行ってみたい!」という気持ちになったでしょうか。それなら、ぜひチャレンジしてみてください。その意欲、応援したいと思います!