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今年の賃上げ伸び率5.1%、20代男性の手取りはいくら増える?

ためる 紗冬えいみ

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2024年8月、経団連(日本経済団体連合会)が春季労使交渉の最終結果を公表しました。平均賃上げ率は5.1%で、33年ぶりの高水準です。傾向としては20代の伸び率がもっとも高く、世代間で格差が見られました。本記事では、これまでの賃上げの推移を見ながら2024年の賃上げを整理し、20代男性の手取りがどれくらい増えるのか試算してみました。

2024年の賃上げ率は5.1%の高水準、若年層の賃上げがトレンド

賃上げは春季労使交渉で決まります。企業・産業の労働組合が労働条件について企業(経営者)と行う交渉で、企業への要求提出が2月、企業からの回答が3月頃のため「春闘」とも呼ばれています。

2024年8月、連合による春闘の最終集計結果が公表されました。5284社の平均賃上げ率は5.1%と、1991年以来33年ぶりに5%を上回る高水準です。金額にすると月額1万5281円となりました。

しかし年齢層別にすると、また違った景色が見えます。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」に年齢層別の賃上げ率が記載されていますが、2024年分は未発表のため2023年の動向を見てみましょう。なお2023年の平均賃上げ率は3.58%でした。

【年齢層別の賃金伸び率】

図表:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」を参照し筆者作成

表から分かるように、20代男性のみが3%を超えており、30代後半~40代後半については男女ともにマイナスあるいは1%程度と低水準です。

企業は人手不足により若年層を確保したいために20代の処遇を上げ、相対的に賃金の高い中高年層の賃金を抑えた動きが世代間格差の背景です。

少子化で若年層の人口が減少する中、多くの企業が若い働き手を確保しようとしています。特に2020年頃から若年層の賃上げや賃金制度の整備に積極的に取り組む姿勢がみられます。人手不足が慢性的である以上、こうした動きは今後も続くものと考えられます。

賃上げ率の高かった産業は? 

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切り口を変えて、2024年の賃上げ率を産業別に見ていきましょう。下表は、春闘の結果について経団連が22業種の大手244社に対して行った調査をもとに、業種別の賃上げ率をまとめたものです。

【産業別の賃金伸び率】

図表:日本経済団体連合会「2024年春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果[最終集計]」を参照し筆者作成

表の黄色で網掛けした12業種の平均賃上げ率が、連合傘下の労働組合がある5284社の平均賃上げ率5.1%を上回っています。12.04%と伸び率が突出している鉄鋼業は、2022年に2年分の賃金改善を決めたため、2023年の賃上げ率が他業種より低かった反動があったとみられます。製造業は円安や半導体需要の増加がプラスに働いたといえるでしょう。

しかし賃上げの原資は企業の利益である点を忘れてはいけません。物価の上昇により企業活動のコストがかさむ中、増えたコストを商品価格に転嫁できなければ賃上げのハードルは高いといえます。つまり賃金の上昇とともに、物価も引き続き上昇しつづける可能性があります。

これまでの賃上げの推移

2024年の賃上げは33年ぶりの高水準となりましたが、これまではどのように推移してきたのでしょう。下のグラフは1965年から2024年まで、59年間の賃上げ率の推移を表しています。

出典:厚生労働省「民間主要企業における春季賃上げ状況の推移」より一部抜粋

賃上げ率が上昇していた時期は「いざなぎ景気」「第一次石油危機」「バブル景気」の3つです。この3期間は共通して物価も上昇していました。

一方、第一次石油危機からバブル景気までの期間と、バブル景気以降はおおむね物価が下落していた時期です。そして、約30年ぶりとなる2021年頃から再び物価が上昇しはじめ、2024年に至っています。

5.1%の賃上げといわれてもなかなか実感が湧かない方も多いでしょう。背景には物価の上昇があるためです。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によると、2023年度においては、物価の上昇分を差し引いた実質賃金は前年度比で2.2%減少しました。つまり、物価の上昇に賃金の上昇が追いつかなかったと言い換えられます。

したがって賃上げ率だけでなく、「実質賃金がプラスかどうか」も消費者にとっては重要です。2024年6月の毎月勤労統計調査では前年同月比1.1%増と、2年3カ月ぶりにプラス転換しました。ただし6月は多くの企業でボーナスが支払われ、ボーナスも前年度比で大きく伸びた影響があります。実質賃金が安定してプラス基調になれば肌感覚でも賃上げの効果を捉えやすくなるでしょう。

2024年の賃上げ率で手取りはいくら増える?

2024年の賃上げ率で手取り収入は具体的にどれくらい増えるのでしょうか。ここでは20代男性の平均年収(中央値)で試算してみます。

なお月収・年収には「手取り」と「額面」の2種類があります。健康保険料や厚生年金、税金など国や自治体に支払う(納める)金額が差し引かれた後、銀行口座に振り込まれる金額が「手取り」で、差し引かれる前が「額面」です。

それでは下記の条件で試算しましょう。
・20代男性の平均年収(中央値)…額面で350万円(※)
・2024年の賃上げ率…5.1%
※参考/転職サービスdoda

平均年収を月収に換算すると350万円÷12≒29万2000円です。
5.1%引き上げられると29万2000円×(1+0.051)≒30万7000円になります。

ここで額面から手取りに換算します。年収1000万円未満の場合、手取りは額面の70~80%が目安です。
30万7000円×70%≒21万5000円
30万7000円×80%≒24万6000円
賃上げによって手取り月収は21万5000~24万6000円ほどとなります。

賃上げ前の手取り月収を計算してみましょう。
29万7000円×70%≒20万8000円
29万7000円×80%≒23万8000円
おおむね20万8000~23万8000円だと分かりました。

賃上げ前後で比較すると、月額7000~8000円ほどの増加となるでしょう。

ベースアップと定期昇給の違い

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最後に、ベースアップと定期昇給の違いについても簡単に整理しておきます。

ベースアップは「ベース(基礎)のアップ(上昇)」と和訳できるとおり、基本給の引き上げです。ベースアップが行われると、社員全員もれなく給与が引き上げられます。

対して定期昇給は会社の業績や年齢・勤続年数に応じた定期的な引き上げの機会を指します。昇給のタイミングは年1、2回とする企業が多く、例えば勤続年数が1年長くなると基本給が1万円上がるといった形です。ただし、定期昇給はあくまで定期的に昇給の「機会」を設けているのであり、昇給が約束されているわけではありません。

また定期昇給は年功序列とは異なります。もちろん勤続年数や年齢を昇給の条件とする企業もありますが、個人の仕事の成果などが規定に含まれている場合もあります。定期昇給については会社の就業規則に条件が記載されているため、気になる方は確認してみるとよいでしょう。

まとめると、ベースアップと定期昇給はどちらも給与の引き上げを意味しますが、社員全員を対象とするのか、個人に対する昇給機会なのかが大きな違いです。なお2024年の平均賃上げ率5.1%は、ベースアップと定期昇給を合わせた数字です。

まとめ

最後に、本記事の内容を簡単にまとめておきます。

33年ぶりの高水準となった2024年の賃上げですが、物価も上昇しているため「給料が上がって家計が潤っている」とはなかなか感じづらいでしょう。

物価の上昇率を賃上げ率が上回った時、ようやく効果を実感できるはずです。2025年の春闘は2月、3月頃に盛り上がり始めます。物価の上昇率とともに注目してみると今までとは違う見方ができるでしょう。