日本銀行の利上げ、何を背景にどんな指標を元に決定されているのか
監修・ライター
NISAなどで株式投資をしていると、2024年12月現在「アメリカは利下げの可能性が高い、日本は利上げの可能性が高い」という専門家の見解が報じられていることに気がつきます。これら政策金利は株価に影響が大きなものとは理解できますが、何を背景に決定されるのでしょうか。また、日銀などの中央銀行は「自分たちだけの都合で」決められるものなのでしょうか。
日銀は「政策金利を変更しても問題ないか」で判断する
2024年12月の日銀決定会合にて政策金利の利上げをするか、現状維持とするかが決定されます。この時の判断材料となるのは、インフレ(インフレーション)の達成度と賃金レートです。
長くデフレ(デフレーション)に苦しんだ日本は、インフレへの転換を目指しています。テレビなどの報道を見ていると「インフレによる物価上昇は人々の生活を苦しめるもの」という印象が強いですが、そもそも日銀は現在、消費者物価が前年比で安定的に2%上昇する経済を目指しています。
安定的な上昇とは、物価上昇により企業の業績が伸び、従業員に上昇した賃金が支払われることです。伸びた賃金は、更なる消費を呼び込みます。この流れにより更に経済が活性化するという、インフレのプラス面が判断材料となります。2024年現在、既に2%超の物価高が2年以上続いていますが、日銀は「円安や資源高による一時的な上昇」として、政策金利変更の判断材料としてはいませんでした。
賃金は2024年春闘の賃上げ基調で判断
2024年の春闘は、ベースアップ(ベア)と定期昇給を合わせた平均賃上げ率が5.1%と、1991年以来33年振りに5%を上回りました。春闘ベースで見れば、適切な利上げのタイミングと考えられます。
ただ、春闘の対象は大企業です。同時期の中小企業の賃上げ率は4%台に留まっている上、実質賃金(※)はマイナスの状態が続いています。中小企業の従業員を念頭に、物価上昇が生活苦に繋がっているという声も目立っています。
※実質賃金:名目賃金(実際に受け取った給与)から消費者物価指数に基づく物価変動の影響を差し引いて算出した指数
消費者物価指数の状況は
消費者物価指数は、全国の世帯が購入するサービスの価格等を総合した物価の変動を、時系列的に測定するものです。最新(2024年10月)の状況を見てみましょう。
消費者物価指数(2024年10月)
(1)総合指数は2020年を100として109.5。前年同月比は2.3%の上昇
(2)生鮮食品を除く総合指数は108.8。前年同月比は2.3%の上昇
(3)生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は108.1。前年同月比は2.3%の上昇
引用:総務省 統計局
「10月」の消費者物価指数が限定的に上昇していればいいということではありません。「安定的な上昇」という視点はどうなっているか1年間の推移を見てみましょう。
この統計から読み取れるのは、利上げが議論されるようになった2024年後期だけではなく、春闘が実施されていた2024年前期から、継続的に消費者物価指数が上昇しているという証明です。
「令和のブラックマンデー」の再現防止には世論の読み解きが重要
賃金状況と消費者物価指数の2つの指標から見ると、利上げの適切なタイミングが到来したと言えます。ただ忘れてはならないのは世論の反応です。2024年8月、当時の金利レート0%から0.25%に上昇させた判断は、かねてからの米株安と相まって、日本株市場を暴落させました。いわゆる「令和のブラックマンデー」です。
最近日銀が、「準備ができたら利上げをするかもしれない」とジャブを繰り返しているのは、8月のような暴落を再度引き起こさないための予防線とも言えます。結果論ですが、それだけ8月の利上げは唐突で、株式市場を混乱させたものだったといえるでしょう。
なお日銀は継続的な利上げの姿勢を見せています。日本は利上げ基調とはいえ、元々アメリカやユーロ、イギリスなどは平均3~4%の政策金利を設定しており、12月に利上げしたとしても日本とは大きな差があります。各国の関係性を如実に示す「為替」においても、金利差は大きな影響力を持ちます。
(日本と各国の金利差が)
拡大 → 円安を誘引
縮小 → 円高を誘引
今後、日銀はどのような金利政策を打ち出して、実行していくのか。2024年、年明けからNISA新制度も始まり、投資をスタートする人も増えています。極論すると、政策金利は「偉い人達が決めて、我々の生活に影響するかもしれない事柄」から、「私達の資産に直接影響する指標」に変わってきています。だからこそ、今後日銀が示す意思決定には要注目なのです。