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金地金の特殊詐欺が頻発!背景にある「右肩上がりの金価格」

経済とお金のはなし 工藤崇

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「金」を巡る特殊詐欺が増加しています。宮城県では2024年11月から12月にかけて、70代女性が北海道警察を名乗る電話により、金塊13キロ(時価約2億円)をだまし取られる事件がありました。このような事件は、宮崎や香川などほかの地域でも頻発しています。背景には、環境変化の中でも底堅さが続く金価格の高騰があります。

金を巡る特殊詐欺の特徴 

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特殊詐欺の多くは三段階に分かれています。まず①電話で被害者が「事件の容疑者になっている」と伝え、恐怖心を煽ります。実際に犯罪に関わっていることを電話で伝えられることはあり得ないのですが、混乱して判断能力が無くなってしまう人がターゲットとされます。ついで②金地金を用意させ、③自宅の郵便受けや玄関などに置かせ、受け子が回収します。

特殊詐欺の被害を受けた金は、買取業者などに持ち込まれ、現金化されます。

金の特殊詐欺は「犯罪収益防止法」とのいたちごっこ

金の特殊詐欺において必ず関わるのが、貴金属の買取業者です。もともと貴金属の買取業者は江戸時代からありました。現在、日本銀行がある東京の日本橋本石町はもともと「金座」があり、幕府による金管理の中心地でした。従来より税務当局(国税庁や税務署)は貴金属の売買業者を抑えることで、貴金属の流通を管理しています。

現在も当局は資金洗浄(マネーロンダリング)の対策として、金融機関を中心に管理を強めています。「犯罪による収益の移転防止による法律」では、取引記録の法定保存期間を7年に設定し、買取業者に義務として定めています。

この管理制度により、たとえば金の延べ棒(インゴット)の販売店に強盗が入り、盗難した金を売却しようとした場合に「当局によるチェックが入る」ことになります。2025年の年明けに世の中を騒がせた、某メガバンクの貸金庫管理者による盗難事件は、金塊を盗んだことにより盗難事実が確定し、逮捕の決め手になったともいわれています。

一方で今回のように、長年金を所有していた一般家庭の「タンス預金」状態のものでは、持ち込まれた金が詐欺や窃盗によるものなのか、正当な売却なのか判断はできません。そういう意味では、管理当局とのいたちごっこによる被害拡大ともいえるため、対策が急がれます。

事件の背景にある金の高騰

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事件の背景には、2024年前半から続く「金の高騰」が1つの要点であると考えられます。投資の世界では調整局面に入っている株式相場と異なり、金などの貴金属は右肩上がりの状態にあります。下記のチャートは、大手買取業者「なんぼや」による金価格のチャートです。

引用:なんぼや

2024年はじめに1万500円前後だった金のインゴット(1gの金の延べ棒)は、2025年2月に1万5000円前後まで上昇しています。株式など他の投資商品で150%の伸長を見せているものはほとんど無いでしょう。かねてより金は株式が暴落すると上昇するため、「有事の金」として注目されてきました。

2024年から金が上昇した理由①戦争リスク

2024年春先からの金の高騰は、戦争リスクによるものです。この時期はロシアによるウクライナ侵攻が長期化していることに加え、イスラエルのガザ侵攻が報じられました。またイスラエルとイランの緊張状態が高まっていったことで、メディアの中には「第三次世界大戦が起こるのでは」という意見さえ見られました。

実際に20世紀に発生した第一次大戦・第二次大戦は、対立する2カ国の武力衝突が契機となっています。今日の紛争が契機となって諸国を巻き込み、世界的な戦争が起こるのではという不安感は世界中の投資家を金に向かわせました。

一方で上記チャートを見れば、金価格がタイミングによって大きく上下していることが分かります。2024年4月22日にイスラエルは米欧や中東諸国からの自制要請を無視し、イランの空軍基地などを爆撃しました。これを受けて金相場は大きく上昇しますが、その後イラン側が報復攻撃を行わないと表明すると、金は大幅に売られました。

また、今後は「織り込み済み」の視点も意識する必要があります。2025年1月に再就任したアメリカのトランプ大統領は、ロシアのウクライナ侵攻を停戦させるべく精力的に動いています。今後停戦が大筋合意となった際に、これまでの流れであれば金価格は大きく下落します。

ところが同氏は大統領選に勝利した時点で停戦介入を主張しており、世界中の投資家が戦争が長期に渡っていることも含め「いずれ停戦となるだろう」と見込んでいます。よって大筋合意の内容では、金価格はそれほど動かないのではという見通しもあります(2025年2月13日朝、トランプ大統領はロシアのプーチン大統領と停戦交渉開始と報道)。

ただ停戦案が一方的でどちらかの遺恨を遺すものであったり、停戦後にテロが続いたりする場合は、金価格にも影響することが考えられるでしょう。

2024年から金が上昇した理由②アメリカの金利

金価格は、各国の中央銀行が設定する政策金利によっても大きく変動します。特に世界の基軸国であるアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)が決定するFF(フェデラル・ファンド)金利の影響は大きなものです。

引用:Reuters

アメリカでは2000年代から低金利が続き、一時的には限りなくゼロに近くなったものの、2020年前後から利上げが続いていることが分かります。

このアメリカの利上げが終了し、債券金利と米ドルの上昇期待が落ち着くと、金への期待感が上がります。その後の利下げ終了までの上昇への期待感が、ここ数年の金上昇の根拠と言えるでしょう。

2025年、FRBのパウエル議長は、2024年に実施された3度の利下げ回数を「2度に減らす」と表明しました。これが金の天井感を招くのではという見通しもあります。一方でトランプ大統領は引き続きの利下げを要求しており、不安定感を残した展開です。

戦争リスクと政策金利は、2025年の金価格にどのような影響をもたらすのでしょうか。金の特殊詐欺の今後の動向にも大きく影響してくるであろう価格推移に、注目していきたいところです。