夫婦それぞれ世帯主になる?世帯分離の仕組みメリット・デメリット
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今回の「FPに聞きたいお金のこと」は、20代女性から寄せられた「世帯分離」に関する相談です。近年は共働き夫婦が増えており、世帯の在り方も変わっています。一緒に住む場合は通常、同一世帯・同一生計といった位置付けになるのですが、別々の世帯とすることもできます。今回はこの世帯分離について解説していきます。
20代女性Sさんの相談内容
世帯分離という言葉を聞くのですが、どういう意味なのでしょうか?結婚後しばらくの間、仕事の都合で夫婦別々で暮らしていました。今は転勤して一緒に暮らしています。共働きのため、お互い扶養には入っていません。
市役所で住民票の手続きをした際に「それぞれで世帯主になれますが、どうしますか」と言われ、よく分からずそれぞれで世帯主になっています。この、一緒に暮らしてはいるけれど扶養関係ではないことを「世帯分離」と言うのでしょうか?また、世帯分離のメリットやデメリットは何でしょうか?
世帯分離とは?そのメリットとデメリット
世帯分離は同じ住所に住んではいるものの、生活を切り離し、別世帯扱いにすることを言います。例えば親子で同居する場合に世帯分離を選ぶケースが多くあります。世帯分離をすることで世帯の収入が下がり、保険料や医療介護の負担が軽減するという点が大きなメリットになります。
世帯分離のメリット
世帯分離を行うことで、次のようなメリットが期待できます。
・介護費用の自己負担額や上限の軽減
・介護保険施設の居住費・食費を軽減
・国民健康保険料や後期高齢者医療制度の負担額を抑えることができる
例えば、介護サービスを受ける際の自己負担額(1割、2割、3割)は世帯の所得に応じて決まります。世帯分離を行うことで、2割負担が1割負担になることも考えられます。
また、同じ月内に介護サービスの利用者負担額の合計が一定額を超えた場合は、申請によってその超えた額が支給される「高額介護サービス費制度」があります。この上限額は世帯に市民税課税の人がいる場合は4万4400円ですが、世帯の全員が市民税非課税であれば2万4600円となります。
つまり同居している親が介護サービスを受ける場合、親のみであれば年金収入程度で住民税非課税でも、30代や40代といった働き盛りで住民税が課税される子供と同一世帯とみなされると上限額が上がることになります。
世帯分離のデメリット
一方、世帯分離をした場合は以下のようなデメリットが考えられます。
・税金や社会保険といった手続きが煩雑になる
・国民健康保険料が逆に増える場合がある
・扶養から外れる可能性がある
世帯分離によって同居していても住民票は別になるため、各種手続きをそれぞれ行うことになります。そのため税金や社会保険上、何かと手続きが煩雑となります。
また世帯分離によって国民健康保険料が下がる可能性をメリットとして紹介しましたが、世帯分離によって負担が増えることもあります。国民健康保険料の計算上、「1世帯当たり」に割り当てられる平等割があるほか、世帯ごとに限度額が定められているため、所得の状況によっては世帯分離することで保険料が増えることも考えられます。
また扶養についてもデメリットになりえます。税金、社会保険、それぞれ扶養の考え方が異なります。世帯分離によって必ず扶養から外れるというわけではありませんが、扶養から外れたとみなされると、税金上の扶養控除が適用できなくなったり、会社の健康保険組合に加入できなくなったり、会社から支給されていた家族手当がもらえなくなったりする可能性があります。
夫婦は原則として同一世帯
さて、今回はご夫婦の場合です。夫婦は民法上、お互いが助け合い、支え合いながら生きていく「相互扶助の義務」があるため、基本的には世帯分離はできません。以下は大阪市のHPのQ&Aです。
Q:同居の夫婦は世帯分離ができますか。
A:同一の住所地で生活している夫婦については、民法第752条により夫婦間には扶助義務があることから、世帯分離はできません。但し、事実上の別居状態にあるなど、同一生計でないことが客観的に認められる場合は、この限りではありません。
引用:大阪市HPより一部抜粋
筆者も実際にいくつかの市町村に確認を取りましたが、いずれも共通して以下のような返答でした。
・夫婦どちらかが世帯主になる。両方を世帯主にはできない
・単身赴任や別居の場合はそれぞれを世帯主にすることができる
よってSさんのケースは世帯分離には該当しないと思われます。基本に従うと、「それぞれで世帯主になれますけどどうしますか」と聞かれることは無さそうです。
ただし住民票は各市町村によって対応が異なる場合もありますし、何か違う意味合いがあってのお尋ねだったのかもしれません。もう一度、今回の記事を参考に市役所で確認をしてみてください。