不動産賃貸経営、初心者が見落としがちな税金・経費の注意点とは?
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監修・ライター
不動産価格が高騰し金利が上昇していても、自己資金の有効活用や将来の生活資金のために投資用不動産を購入して不動産賃貸経営を始める方が年々増えています。今回は税理士目線から見た、不動産賃貸経営を始めるにあたって気をつけておきたいポイントをお伝えします。
賃貸不動産を購入する時に気をつけたい初期費用とリスク
賃貸不動産を購入する時には、不動産(土地・建物)の購入代金以外にも様々な支出を伴います。その支出まで考慮して資金が足りるかどうかや、無理をして購入していないか検討しましょう。
賃貸不動産を購入する際に気をつけておきたい支出
①不動産の購入代金(土地・建物)
②不動産取得税
③不動産の仲介手数料
④不動産の移転登記費用(登録免許税+司法書士への報酬)
⑤銀行から融資を受ける場合は、銀行への融資の事務手数料
⑥銀行から融資を受ける場合は、抵当権設定登記費用
⑦売買契約書に貼付する収入印紙代
土地を取得してアパートなどを新築する場合は、上記の他に様々な支出とリスクがあるので十分な注意が必要です。
新築の場合の想定しておく必要がある支出とリスク
① 着工から引き渡しまでの支払金
一般的には、金融機関から「つなぎ融資」として借りて支払いを行います。その際に銀行に対しての支払利息も発生します。
② 追加工事
杭工事(地盤強化)にコストがかかったり、材料費の高騰により当初の見積よりも金額が増加したりすることがあります。余裕ある資金計画を立てておきましょう。
③ 埋蔵文化財調査
埋蔵文化財包蔵地にアパートを建てる場合は、建築の60日前までに自治体の教育委員会への届出が必要です。届出は通常、建設会社が提出します。その後、調査員が試掘・確認調査を行います。試掘費用は公費負担ですが、もし本調査が必要となった場合は、その発掘費用は、そのアパートの建築オーナーが負担しなければなりません。
不動産賃貸経営スタート時に税務署へ提出すべき2つの書類
①個人事業の開業届(全ての方)
不動産賃貸経営を始めてから1カ月以内に税務署へ提出が必要です。
参考:国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
②所得税の青色承認申請書(青色申告を希望する方)
この申請書は、事業を開始して2カ月以内に提出をした場合には、その年から青色申告が可能となります。青色申告では、不動産所得から10万円の特別控除を受けられるため、所得税・住民税の軽減が見込めます。適用を受ける場合は帳簿として現金出納帳の作成が必要です。
参考:国税庁「所得税の青色申告承認申請手続」
「所得税は戻ってくる」は本当?不動産所得と還付の仕組み
賃貸不動産の購入と税金について、相談内容に答える形で見ていきましょう。
【相談内容】
40代のサラリーマンです。マンション投資の街頭アンケートに協力した際に商品を紹介されました。将来の年金の足しや副収入として魅力がある内容なので購入を迷っています。また、不動産賃貸経営をすると、毎年の所得税の一部が戻ってくることもあると聞きました。本当でしょうか?
【回答】
賃貸不動産を購入した初年度は、初期費用もかかり赤字になるケースもあります。そのため、損益通算で総所得が減少して所得税の一部が還付されることもあります。しかし2年目以降、順調に家賃収入があれば、特異な不動産物件等でない限り所得税が戻ることはなかなかないと考えられます。
お金の収支と税金の計算方法は違う
不動産賃貸経営では、家賃収入から借入金の元利返済を行い、固定資産税、管理手数料などを支払うと、手元にお金がほとんど残らないか、または少し手出しになることもよくあります。
しかし、「お金が残らなかった=所得が出ていない」とはなりません。お金の収支と、税金の対象となる「所得」を計算する考え方は少し異なります。
最大の違いは、購入した不動産のうち、「建物」は耐用年数にわたって必要経費として計上できるのに対し、「土地の部分」は必要経費とならない点です。
例えば建物と土地を合わせてローンで借入をして購入した場合、実際には土地・建物両方にお金を払っているのに、税金の計算では土地の部分の支払いが経費にならないため、「お金は出ていくのに所得が出たことになる」といった差が生じるのです。
このように、「現金の収支」と「課税される所得」は一致しないことがあるため、帳簿上で利益が出ていても、実際にはお金が残っていない、というケースも起こり得ます。
賃貸経営でかかる毎年の維持管理の支出一覧
賃貸不動産を取得して家賃収入を得ようとする場合、様々な支出が伴うことを事前に想定しておく必要があります。特に銀行から融資を受けて不動産賃貸経営を行う場合は、借入金の返済をしても手元にどれぐらいお金が残るかを確認しておきましょう。
またアパート1棟を所有し複数の部屋がある場合は、満室を前提に収支を計算するのではなく、稼働率80%程度でも収支が見合うかを見て、購入を判断することが経験上望ましいです。
下記は、不動産賃貸経営をするにあたって、毎年発生する主な支出の一覧です。これらの項目がどれぐらいかかるのか想定しておくことが大切です。
【不動産賃貸経営を毎年継続する場合に必要な支出】
①銀行から融資を受けていれば、借入金元利返済額
②入居促進のための広告宣伝費(契約形態による)
③不動産管理手数料
④共用スペースの電気代・水道代
⑤固定資産税
⑥分譲マンションの場合は、修繕積立金・共益費
⑦自治会費(地域による)
⑧浄化槽清掃費(地域による)
⑨エレベーターを設置している場合は保守料
⑩有線サービスやインターネットを利用している場合は回線使用料
⑪税理士に確定申告を依頼する場合は税理士報酬
⑫所得が発生した場合は、所得税及び住民税
不動産経営でよくある“経費にできる”の都市伝説
不動産賃貸経営を始めた方から確定申告のご相談を受けることがあります。その際に「それ、どの書籍・雑誌に書いていたのだろうか…」と思うような都市伝説的なご相談を受けることがあります。ここでは、特に多い3つの“経費にできる”という誤解について解説します。
・都市伝説その1
Q:東京に賃貸投資用の分譲マンションを購入すると、東京に遊びに行く際の航空券や宿泊代を経費で落とせると聞きました。本当ですか。
A:不動産収入を得るために「直接必要な支出」が必要経費として認められます。よって遊びに行く支出は経費にはなりません。
・都市伝説その2
Q:賃貸不動産経営をしていれば、車の購入や維持費用も経費として認められると聞きました。本当でしょうか。
A:不動産収入を得るために直接に要したものが必要経費として認められます。よって事業に使用していない車両にかかる支出はいずれも必要経費になりません。
・都市伝説その3
Q:不動産賃貸経営をする時、自宅を事務所として使用すると家賃が経費で落とせると聞きました。本当でしょうか。
A:不動産収入を得るために直接に要したものが必要経費として認められます。よって実際に事務所として機能しており、来客が日常的にある場合は必要経費となります。ただし、一般的に不動産賃貸経営は、不動産会社に管理を委託するケースが多いため、自宅を事務所として使用することは少ないと思えるため、必要経費として考えるのは難しいでしょう。
これらに共通するのは「不動産収入を得るために直接必要な支出でなければ、必要経費としては認められない」ということです。
まとめ
自己資金がどのくらいあり、どのエリアで、どんな種類の不動産を購入するかの判断や、資金調達のための金融機関の選択、帳簿の作成、確定申告そして、毎月の資金繰りの把握…。不動産経営は、様々な判断と意思決定が必要となります。前もって必要な知識のインプットをしておきましょう。この記事がお役に立てればうれしいです。