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カレーライスももはや高嶺の花!?物価指数から考えるインフレ率

経済とお金のはなし 竹中 英生

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家庭料理の定番であるカレーライスが、なんだか最近「高いもの」に感じることはありませんか?実際、材料費は年々上昇しており、家庭で食べても1食あたり400円を超えるケースもあります。

ところが、政府が発表するインフレ率を見ると、そこまで物価が上がっているようには見えません。この“実感”と“統計のズレ”は、なぜ生じるのでしょうか。本記事では、「カレーライス物価指数」という身近な指標を切り口に、物価指数とインフレ率の構造、そして今後の生活への向き合い方を考えてみます。

カレーライス物価指数とは?

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食品価格の上昇を生活実感として捉える指標として、「カレーライス物価指数」が注目されています。そこでまず、この指数がどのようなものなのかを簡単に説明します。

生活実感を表す独自の物価指標

カレーライス物価指数とは、帝国データバンクが独自に発表している民間の物価指標です。カレー1食分に必要な食材(米・牛肉・玉ねぎ・にんじん・じゃがいも・カレールウ)の価格を基に、2020年を100として指数化しています。

帝国データバンクによると、このカレーライス物価指数が、2025年2月時点で148.4となり、11カ月連続で最高値を更新して1食あたり407円まで上昇しました。これは、1年前の24年2月(319円)と比較すると、+88円、27.6%増と3割にせまる大幅な上昇となっています。

出典:帝国データバンク「カレーライス物価指数」調査―2025年2月分

では、政府の公式統計である消費者物価指数(CPI)はどうなっているのでしょうか?

政府のCPIはどれだけ上がっているのか 

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政府が発表する物価指数とインフレ率はどのように計算され、どれほど上昇しているのでしょうか。それを確認する前に、そもそも、消費者物価指数とは何なのか、その基本から整理してみます。

消費者物価指数とインフレ率の基本

消費者物価指数(CPI)とは、総務省が公表する公的な統計で、全国の家庭が購入する商品・サービスの価格動向を測定する指標のことです。このCPIの前年比上昇率が、いわゆるインフレ率です。

たとえば、ある商品の基準年の価格が100円で、比較年の価格が110円だった場合、この商品だけのCPIは以下のようになります。

なお、実際にCPIを算出する際には、多くの品目について同様の計算を行い、それらを加重平均しなければなりません。また、その際に用いられる基準年は5年ごとに改定されており、直近では2020年が基準年となっています。

CPIの種類

CPIには、主に以下の3つの区分があります。

これらのCPIは、その目的に応じて使い分けられています。たとえば、生鮮食品は天候で価格が大きく変動するため、長期的な傾向を掴もうとする場合、こうした価格変動を含めてしまうと正しい予測ができません。

したがって、このような場合は、コアCPIやコアコアCPIが指数として用いられています。

2025年のCPI推移と食品価格の実態

総務省の発表によると、2025年3月時点におけるCPIの総合指数は前年同月比+3.6%、コアCPIは+3.2%となっており、それほど急激なインフレ率ではありません。

しかし、注目すべきは項目別の上昇率です。例えば、食料品全体は前年比で+7.6%で、中でも米は+92.5%と大幅に上昇しています。

これらの値動きは平均化されたインフレ率には十分に反映されないにも関わらず、日々の食卓に直接影響を与える食品が軒並み高騰していることが、生活者に強い物価上昇を感じさせる原因となっているわけです。

インフレ率と体感インフレはなぜズレるのか

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平均値で示されるインフレ率と、日常生活で感じる物価の上昇。その差が生まれる仕組みを、各家庭における食料品の支出割合との関係から考えてみます。

平均値の落とし穴と「生活比重」

インフレ率は消費者物価指数の平均値の変動を示すものであり、すべての品目を一律に扱って計算します。こうした品目の中には、価格が安定している商品群や、消費頻度が低い品目も含まれているため、実際の生活に即した体感と同じ結果が出ることはありません。

例えば、(頻繁に買わない)家電製品の値下がりが平均値を押し下げた場合でも、(毎日購入する)食料品が高騰していれば、消費者はむしろ「物価は上がっている」と感じるでしょう。

また、CPIは全世帯平均を基にしているため、世帯ごとの支出構成の違いは反映されません。例えば、家計に占める食費の割合が30%の家庭では、食品価格の上昇が生活全体への影響に直結します。一方で、食費の占める割合が10%以下の高所得者層であれば、同じインフレ率でも家計に与える影響は限定的なため、それほど感じることはありません。

つまり、平均値の指標が生活実感を正確に反映できない背景には、物価指数の算出方法が抱える問題点だけでなく、「家庭における食料品の支出割合の違い」という盲点もあるのです。

生活者目線の指標で見直す必要性

こうしたズレを補完する役割を果たすのが、カレーライス物価指数のような生活密着型の物価指標です。平均値に頼るだけでは見えない実情を、具体的な食材ベースで数値化することで、より現実的な物価感覚が浮かび上がります。

特に、家計に占める食費の割合が高い層や単身世帯は、CPIの数値以上にインフレを厳しく感じる傾向にあります。物価上昇局面では、このような補助的指標を参照しながら、生活実感に近い経済分析を行うことが必要だと考えます。

今後の物価とどう付き合うべきか

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物価高が続く今、私たちはどのような備えと工夫をしていくべきなのでしょうか。最後に、今後の傾向や具体的な対応について考えてみます。

食品インフレはしばらく続く可能性が高い

食品価格の高止まりは、残念ながら、短期的に収束する兆しが見えていません。理由としては、まずエネルギーや原材料の輸入コストが依然として高水準にあること、次に政府による電気・ガス代補助などの支援策が段階的に縮小されていることが挙げられます。

さらに、円安の継続や気候変動による農作物の不作リスク、物流費の上昇など、複数の不確実要因も重なっています。

こうした状況を踏まえると、食品を中心とした物価は今後もしばらく上昇基調、あるいは高止まりが続く可能性が高いと考えられるでしょう。

個人が取るべき対応とは

こうした環境下では、慌てずに冷静な対応を取ることが大切です。家庭では、特売情報の活用、まとめ買い、冷凍保存の工夫などが定番ですが、食材の代替(牛肉→鶏肉、白米→パスタやオートミールなど)によるコスト調整も効果的です。また、価格比較のアプリやネットスーパーなどを上手に活用すれば、節約も可能になるでしょう。

ただし、過度の節約は本質を見失う恐れがあります。栄養が偏ったり、不足したりすることで健康を害してしまっては、本末転倒と言わざるを得ません。

食料品が高騰しているから食料品を節約するのではなく、食料品が高騰しているからこそ、無自覚に使っている月額課金サービスなどを見直し、必要な部分にはお金を使うようにした方が良いでしょう。

まとめ

物価の上昇を示す統計と、日々の暮らしで感じる負担感の間には、必ずしも一致しないギャップが存在します。特に、食品のような生活必需品の価格が上昇すると、インフレ率以上に強い圧迫感を覚えるのは当然のことです。

本記事で紹介したカレーライス物価指数は、こうした現実を捉える有効な視点の一つと言えるでしょう。