インフレって言うけど、今世の中の物価は本当にインフレ状態なの?
監修・ライター
最近買い物をしていると、日常生活の費用が総じて高くなっていることを感じます。だいたい肌感で2000円くらいかなと予測してレジを通したら、想定していたより高かった経験はないでしょうか。その理由は物価高です。
政府が物価高を懸念していることはニュースで報じられていますが、一方で日本の中央銀行は物価高を「推進」している側面もあります。なお物価高という状況は抽象的でもあり、我々の生活に落とし込むと「卵を買いにいったら100円高かった」という何となくの体験値でしかありません。世の中の物価は、本当にインフレ(インフレーション)状態なのでしょうか。
日本におけるインフレ率の実態
上記の表から読み取れるのは、2022年以降のインフレ率は2~3%を推移しているという点です。それ以前の10年を見ると、報道などでデフレ(デフレーション)の継続と定義してきたように、物価上昇率が0%に達しない、もしくは下落する年が続いていました。
確かにファストフードなどで、驚くような値下げが実施されていました。この状況こそが、デフレの代表的な状況のひとつです。
2014年と2019年にインフレ率が高くなっているのはなぜでしょうか。答えは消費税です。2014年にそれまでの5%から8%へ、2019年には現行の10%へ増税されているためです。
消費者物価指数とインフレ
日本において物価を計測するのは消費者物価指数です。消費者が購入するときの物価に着目した「消費者物価指数」と、企業間取引の価格を示す「企業物価指数」が計測されていますが、一般的に物価の根拠として報じられるのは前者の消費者物価指数です。
この指数には消費税が含まれるため、2014年と2019年に一次的にインフレになっているといえます。ただ消費税分が物価指数に含まれるならば、2014年以降継続的にインフレになるはずです。同指数を測定している総務省でも、なぜ消費税が物価指数に対し単年度(一時的)の影響しか及ばさないのかは解析できていません。
2022年からのインフレは事実
先のIMFの統計に戻ると、2022年からのインフレは統計的にも証明されていることがわかります。1日の食費が2000円ならば2%の40円前後が上昇している計算です。実生活からすると、「それぐらいしか上がっていないのか」という感想でしょうか。
消費税と同じく正確には解明できていませんが、たとえば牛肉の生産コスト、加工、流通、小売がそれぞれ2%ずつ上昇すると、最終的に牛肉を購入する消費者は上昇物価分をすべて反映した小売価格を受け入れるという仮説が成り立ちます。一方でそれぞれの過程には「競合との争い」があり、単純に物価上昇分を反映していると勝てないのではという指摘ももっともです。
細かい点を踏まえても、2024年現在インフレが進行しているのは間違いありません。「物価高=毎月の生活費」はほぼ正しい仮説ですが、そこに関わる企業の利益推移やコストの動きなどをも踏まえて、統計的に考えていくものでもあります。
賃金に繋がる物価上昇を期待したい
このような継続的な物価上昇は中央銀行である日銀(日本銀行)も目指しているもので、取り組みの成果が出ているといえるでしょう。2024年5月27日、日銀の内田副総裁はデフレとゼロ金利制約との戦いについて、「終焉は視野に入った」と言及しました。
本記事の冒頭でお伝えしたように、日銀は物価高を目標としているのです。米ドルの為替にさえ介入することがある日銀が物価高に向かっているのであれば、それはもう今後生活費はより上昇するよね、という話につながります。
物価高によって賃金が上昇する社会であることも正しいため、あとはひとりでも多くの生活者が物価上昇に耐えられるような賃金上昇の恩恵を受けることが期待されるところです。ところが労働者が実際に受け取った賃金から物価変動額を控除する実質賃金において、2024年3月において24カ月連続のマイナス推移となる前年同月比2.5%減と報じられています。
スタグフレーションとは
物価が上昇する中で、これからの日本が懸念したいのが「スタグフレーション」です。スタグフレーションとは、景気が後退していくなかでインフレが同時進行する状況を指します。実際に日本では2021年の秋からスタグフレーションに入ったと報じられました。物価上昇が2024年以降も続くとみられる中、賃金の上昇と国民の資産形成がスタグフレーションの解決に繋がるといわれており、早急な対策が求められています。
また世帯所得により、物価高騰給付金が支給されています。インフレの世の中に生活悪化を感じる方は、このような施策の情報をしっかりとキャッチアップし、生活改善を目指していくようにしましょう。
2024年は大企業を中心とした賃上げへの取組みもあり、賃金上昇は物価上昇に追いついていると見ることができます。一方で日本における中小企業の割合は全会社数のうち99.7%に及び、これらの従業員にも賃上げ効果が及ぶことが求められます。
長く続いた日本のデフレもまもなく過去のものとなり、歴史の教科書にて学習する話に変わっていくのでしょうか。対してリアルタイムで生活する人々の暮らしが、今後より豊かさを持ったものであって欲しいと思います。