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「減税」と「現金給付」、家計が本当に助かるのはどっち?

経済とお金のはなし 織瀬 ゆり

「減税」と「現金給付」、家計が本当に助かるのはどっち?

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2025年春、政府・与党内で「減税」と「現金給付」のどちらを家計支援策として実施するか、活発な議論が交わされています。物価高への対策として、どちらがより実効性のある支援になるのか。私たち一般家庭にとっても、他人ごとではないテーマです。

「もしも支援策があるとしたら、現金給付と減税、どっちがうれしい?」

夕食後、夫とそんな話題になりました。物価の上昇が続く中、食費も光熱費もじわじわ増えています。子育て世帯のわが家にとっても、ちょっとした出費が積み重なり、家計のやりくりに工夫が必要な日々です。

夫は「やっぱり現金給付かな。すぐに使えるし」と即答。一方で、私は「減税のほうが、長い目で見ると家計の支えになりそう」と感じています。今回は、家計にとってどちらがうれしい選択肢なのか、それぞれの特徴とあわせて考えてみたいと思います。

すぐに使える「現金給付」、家計にどう効く?

現金給付の特徴は、なんといっても「すぐに使える」という即効性です。

例えば2020年の特別定額給付金では、国民一人あたり10万円が支給されました。あの時は新型コロナウイルスの影響で、仕事や収入に不安を抱える人が多く、実際に給付金で助かったという声も数多く聞かれました。

わが家でも、子どもの学用品をそろえたり、普段は控えていたテイクアウトを楽しんだりと、生活に少しだけ余裕が生まれたのを覚えています。

2020年の特別定額給付金について内閣府や経済産業研究所が行った分析では、給付金の約10~22%が消費されたと推計されており、多くの世帯が貯蓄やローン返済に回したという結果となったようです。ただし、現金給付は「一度きり」で終わってしまうケースが大半です。給付されたお金が無くなれば、また元の節約モードに戻らざるを得ません。

このように、現金給付には即効性がある一方で、生活の底上げや安定的な支出支援という観点では限界があるという側面があります。給付金の対象者選定や事務処理に時間がかかることもあり、迅速に届けるには制度の運用面でも工夫が求められます。 

参照:
独立行政法人経済産業研究所「コロナ禍における現金給付の家計消費への影響」
内閣府政策統括官「特別定額給付金が家計消費に与えた影響 

減税のメリットは「じんわり」と効いてくる支援 

コスト
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一方、減税は即効性こそありませんが、毎月の支出や税負担を軽くすることで、家計を継続的に支えてくれる仕組みです。

例えば、所得税や住民税の一部が軽減されれば、手取りが増えます。さらに消費税の減税が実施されれば、日々の買い物にかかる費用が減り、生活全体の負担が和らぐでしょう。

わかりやすい例でいうと、仮に消費税が8%から5%に引き下げられた場合、1カ月の食費が5万円の家庭では約1500円の節約に。その効果が何カ月、何年と続けば、現金給付以上の金額になることもあります。

ただし、減税の効果に対する実感は現金給付ほど強くはありません。「知らないうちに手取りが少し増えていた」という形になることもあり、心理的な満足感はやや薄いかもしれません。

相互関税は家計にどう影響する?

物価上昇の背景には、国内の要因だけでなく、国際的な影響もあります。例えば、最近注目されている「相互関税」もその一つ。

相互関税とは、ある国が輸入品にかける関税に対し、相手国も同じように関税を課すというものです。報道によると、アメリカが日本に対して示した相互関税は24%です。この関税の引き上げや引き下げが、輸入品の価格に影響し、最終的に私たちの生活にも跳ね返ってきます。

具体的には、アメリカからの輸入品に対する関税が引き上げられることで、これらの商品の価格が上昇し、消費者の負担が増す可能性があります。例えば、アメリカから輸入される食品や日用品などの価格が上昇すれば、家計に直接的な影響を及ぼすことになるでしょう。

また、関税の引き上げは企業のコスト増加にもつながり、結果として商品への価格転嫁や雇用への影響が懸念されます。これにより、消費者の購買力が低下し、経済全体の成長にも影響を及ぼす恐れがあります。

このように、相互関税の導入は、私たちの生活にさまざまな形で影響を及ぼす可能性があるため、国が行う支援策は、一時的な効果だけでなく、中長期的な安定も視野に入れる必要があるでしょう。

わが家が求めるのは「安心感のある支援」 

資金支援
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結局のところ、どちらが正解というわけではなく、家計の状況やライフスタイルによってうれしいと感じる支援策は異なるのではないかというのが私の考えです。

ただ、わが家のような子育て世帯にとっては、突然の支出にも対応しやすい「現金給付」と、日常の暮らしにじんわり効いてくる「減税」、どちらも必要だと感じています。

たとえば、子どもが小学校へ入学するタイミング。ランドセル、学用品、制服(地域によっては私服)、上履き、通学グッズなどをそろえるだけでも、まとまった費用が必要です。実際、文部科学省の「令和5年度子供の学習費調査」によれば、公立小学校1年生の年間学習費総額は約40万円とされています。

こうした出費が重なる時期には、現金給付のように「まとまった支援」があると、家計にも気持ちにも余裕が生まれます。一方で、普段の買い物や光熱費など、毎月の固定的な出費には、減税のような「じわじわ効く仕組み」の方が心強い存在になります。

子育て世帯として、「場面に応じて支援のかたちを選べるような、柔軟性のある制度」、そんな安心感のある支援を望む気持ちが強くなります。

即効性と持続性、暮らしを支える「支援の二刀流」を

現金給付は「すぐ助かる」、減税は「じわじわ効く」。それぞれに違った良さがあります。

目の前の出費を乗り切るための即効性も、毎月のやりくりを少しでも軽くするための持続性も、どちらも家計にとって大切な視点です。制度設計の際には、暮らしの目線に寄り添った支援策が選ばれていくことを願っています。