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日米の物価上昇率が逆転!インフレ時代の資産運用で大切なことは?

経済とお金のはなし 山下 耕太郎

日米の物価上昇率が逆転!インフレ時代の資産運用で大切なことは?

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2023年6月、日本の消費者物価指数が前年同月比3.3%で上昇し、米国を上回りました。この記事では、日本の物価上昇率が米国を抜いた背景や、インフレ時代の資産運用におけるポイントと注意点について解説します。

日本の6月の物価上昇率が米国を抜く

日本の消費者物価指数(CPI:生鮮食品を除く総合指数)は、2023年6月に前年同月比3.3%上昇しました。これは、2014年10月以来、8年ぶりの高水準で、同3.0%の米国を抜きました。CPI上昇の主な要因は、電気価格や食料品価格の上昇です。電気価格については電力大手7社が6月1日から家庭向けの電気料金を値上げしたことが影響しています。食料品価格の高騰は、天候不順や輸入コストの上昇の影響です。

ただ、賃金上昇率はCPIの上昇に追いついていません。2023年5月の平均賃金は、前年比2.9%の上昇にとどまりました。岸田文雄政権は、「物価と賃金の好循環」を実現することを目指しています。しかし、賃金上昇率がCPIの上昇に追いつかない限り、この目標は達成できません。

賃金が上がらないと、消費が冷え込み、経済成長に影響を与える可能性があります。政府は、賃金を引き上げるための経済政策を打ち出す必要があります。

今後は賃上げが物価を左右する?

物価上昇
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日本の物価と賃金は転換期を迎えています。昨年来のエネルギーや食料品の値上げが賃金に波及し、春闘の賃上げ率は過去30年で最高水準に達しました。これは、長年の「デフレ」構造が変化し、物価と賃金が連動して上昇する好循環が生まれる可能性を示しています。

ただし、好循環を実現するためには、いくつかの条件があります。一つは、原油価格や食料品価格などのインフレ率が、賃上げ率を上回らないことです。もう一つは、賃上げが消費につながり、経済成長につながることです。

2023年は、エネルギー価格の上昇が一服したものの、春闘では過去30年で最高の賃上げを実現しました。これは、経営側の生活苦への配慮に加え、少子化による人手不足も一因です。従来、労働力の穴を埋めてきた女性や高齢者の労働参加が頭打ちとなり、賃上げなしに労働力を確保することが難しくなったのです。

物価上昇は、労働市場の変化にも引っ張られるようになりました。今後の物価を左右する最大の要因は賃金です。中小企業も含めた高い賃上げ率が2024年以降も続くかどうかが焦点です。

経営者の成長期待が強まれば賃上げが進むかもしれませんが、環境が悪化すればその勢いは弱まるでしょう。

インフレ時代の資産運用形成で意識したいこと

資産運用
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物価は、日々の生活に大きな影響を及ぼします。物価が大きく上昇すると、お金の価値が下がり、買い物をする際により多くのお金が必要になります。これを「インフレ」といいます。

インフレ下では、物価が持続的に上昇します。インフレになると、特に預貯金や年金に頼っている高齢者が影響を受けます。なぜなら、低金利の今、預貯金にはほとんど利息が付かず、インフレによって物価が上昇すると、預貯金の価値が下がり、実質的な価値は減少するからです。

日本は長年デフレ(物価下落)に苦しんでいましたが、ウクライナ危機に伴うエネルギー価格の上昇や、急激な円安が引き金となり、インフレが進行しています。
そしてこのインフレが、家計に大きな影響を与えているのが現状です。物価が上昇しても、給料が上がらないと、実質的な所得は減少します。また、インフレは企業のコストも上昇させるため、商品やサービスの値上げにつながります。これにより、家計はさらに苦しくなる可能性があります。

賃金の上昇は確かにあるものの、物価の上昇率に追いついていないため、家計の購買力は低下しています。そのため、経済的負担が増す可能性があります。また、低い購買力が続くと、消費が低迷し、経済成長にも悪影響を与えることが懸念されます。

この問題を解決するためには、政府や企業が積極的な対策を講じ、経済全体のバランスを取る必要があります。たとえば、賃金の引き上げだけでなく、物価の安定化や、低所得者の支援策の充実などが考えられます。さらに、消費者自身も、適切な節約や投資などを行い、自身の経済的な安定を図ることが大切です。

このような状況の中で、家計は資産形成に対する考え方を変える必要があるのです。デフレ時代は、株式などのリスク資産の期待リターンは低迷していましたが、インフレ時代には、リスク資産の期待リターンが上昇しています。そのため、株式や投資信託などのリスク資産に投資することで、インフレに備えることができるのです。

また、NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)などの投資優遇制度を活用することで、税負担を軽減できます。これらの制度を活用することで、個人は、より効率的に資産形成できます。

インフレは、家計に大きな影響を与えますが、インフレ下に強い資産を保有することでインフレに備えることができるのです。

国際分散投資で中長期的なインフレリスクに備える

リスクに備える
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物価が下がり続けるデフレの時代には、預金の価値は下がりませんが、物価が上昇するインフレ時には、物価上昇分を低金利の預金利息だけで補うことは難しいでしょう。

一方、金融資産の中でも株式は、短期的な価格変動リスクは大きいものの、中長期的にインフレによる資産の目減りを防ぐ「インフレヘッジ」の効果があるとされています。株価は中長期的な企業の業績を反映すると言われ、インフレは売上や利益を増やす要因、つまり株価を上げる要因と考えられています。もちろん、短期的には「インフレ=株価上昇」になるとは限りませんが、中長期的には物価上昇率を上回るスピードで株価が上昇する傾向にあるのです。

また、日本では長い間、製造業などの輸出企業にマイナスの影響を与える「円高」は悪いことで、逆の「円安」は良いことだというのが常識でした。しかし、輸出企業が生産拠点を海外に移すことで「円高デメリット」が減少したのに対し、最近では円安による輸入品の割高感から「円安デメリット」が注目されています。日本はエネルギーや食料品などの多くを輸入に頼っているため、円安は輸入物価の上昇を通じたインフレ要因となります。

このような円安によるインフレ下で効果的なのが海外資産です。中長期的なインフレリスクに備えるために、インフレに強いとされる株式などの資産の保有に加え海外資産も保有することでインフレ対策になります。

こういった投資戦略を「国際分散投資」と呼びます。しかし、どの企業の株を買えばいいのか、また海外資産についてはどの国が適しているのか、投資初心者には分かりづらいかもしれません。ですから、投資に関する正しい知識を身につけることが重要です。

まずは現在の自分のライフスタイル、リスク許容度、収益の目標などを考慮して、投資戦略を選択する必要があります。これらのポイントを押さえた上で、国際分散投資を取り入れることが、十分なリターンを狙いながらリスクを最小限に抑えるための有効な方法となります。

ただし、何に投資すればいいのか判断するのが難しいという人もいるでしょう。そんな人には、投資信託が役立ちます。投資信託の特徴は、100円といった少額から投資を始められることと、運用をプロに任せられることです。

2024年から新しいNISAが始まり、年間で最大360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)、全体で最大1,800万円まで非課税で運用できます。新しいNISAを利用し、投資信託で積立投資を始めることもおすすめです。

出典:金融庁「新しいNISA」

※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。