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攻めの資産運用をする前に、保険をかけて守りを盤石にすべし

雨宮 紫苑

攻めの資産運用をする前に、保険をかけて守りを盤石にすべし

【画像出典元】「Gearstd/Shutterstock.com」

資産運用に興味津々の夫が、アプリを使って投資を始めた。
少しずつではあるが、利益が出ているらしい。

物価上昇や増税など、お金に関する悪いニュースが飛び込んでくる毎日。働いて貯蓄するだけでは、ちょっと心もとない。

ソファの隣に座る夫が着実にお金を増やしているのを見ると、私も何かしたいなぁ、という気持ちになってくる。

というわけで最近、お金に関する本を読み、資産運用について勉強していた。
のだが。

1枚の書類を手に、「投資よりも先にやることがあったわ…」と溜息をつくことになる。

奥歯が割れた!?見積書には「17万円」の文字が…

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私の手元には、1枚の書類。
差出人は保険会社で、内容は歯の治療だ。

5年ほど前、虫歯が悪化し、左上の奥歯と右下の奥歯の2本の神経を抜いた。

そして去年の10月、いつもと変わらず夜ご飯を食べているときに、パキッと嫌な音が…。左上の歯を舌で触ってみると、奥歯の端っこがなんだかグラグラしている。

急いで歯医者に行ったら、「歯が割れているから破片を取り除かなくてはいけない」とのこと。

神経を抜いた歯はもろくなるとは聞いていたが、ただの食事で割れてしまうとは…。

とはいえ割れてしまったものは仕方がない。半分になった奥歯に、セラミックの被せ物をすることになった。

みなさんご存じかもしれないが、セラミックは高い。とても高い。

というわけで私が手にしていたのは、セラミックの被せ物の見積書。
1本につき600ユーロで、まだ割れていないが弱っている右下の奥歯も処置するとなると、600ユーロ×2本で1,200ユーロ。

1ユーロ144円で計算すると、17万円以上だ(2023年3月10日のレートを参照)。

信じられますか?
ただ美味しく夜ご飯を食べていただけなのに、歯が割れて17万円ですよ?

そりゃもう溜息も出ますよ、はい。

「後でやればいいか」と後回しにして保険に入らなかった

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私はもともと虫歯が多く、小さい頃から歯医者にはよくお世話になっていた。
それもあって、実は5年前に神経を抜いたとき、歯科保険を勧められたのだ。

月々数ユーロ(数百円)程度のものでも、入っておけばある程度カバーしてくれるからお勧めですよ、と。

たしかに歯は放置していても治らないから、今後のことを考えたら入ってもいいかもしれない。

そうは思ったものの、すでに治療開始したものには適用されないから、「必要になれば入ればいいか」と後回しにしていた。

保険って、いろんなプラン・グレードがあるし、よくわからない単語が頻出してややこしいんだよね…。

なんてことがあったのをすっかり忘れており、5年後の現在、17万円の見積もりが届いたわけだ。

あーあ、やっちまった。あのときすぐに保険に入っておけばよかったなぁ…。

後悔しても後の祭り。
いざというときに備えていなかった私が悪い。17万円を払うしかない。

そうやって後悔するくせに、「まぁ見積もりが出たものはもう金額が変わらないから、後からちゃんと調べて保険に入ろう」とこれまた後回し。現在歯が割れてから半年経過しているのに、まだ保険に加入せず…という状況である。

保険って…メンドウクサイヨネ。

攻めの資産運用より先にやるべき「守りの資産運用」

資産運用は、リスクとリターンのせめぎあいだ。

許容できるリスク内でやりくりするのが鉄則で、「見込める利益のためにどれだけの損を許容できるか」をつねに考えなくてはいけない。

でもそうやって「リスクがどれくらいか」を考えるのは基本的に、自分からお金を動かすときのみ。

仮想通貨、不動産、FXなど、利益を得るためにお金を遣う「攻め」の運用をするときに、「どれくらいのリスクがあるか」を慎重に考えるものだ。

でも本当に怖いのは、利益を得ないことよりも、大きな損をすることじゃないだろうか。

自分で好きにお金を動かす資産運用であれば、リスクを考慮して自分でさじ加減ができる。でも突発的なトラブルに対する出費(損失)は、自分でコントロールできない。

いつ、どんな病気になるかなんて誰もわからないし、交通事故に遭ったり、逆に事故を起こしてしまうこともある。

そういったトラブルが発生したときに被る損害は予想できないから、リスクを考慮して管理できる投資信託や不動産投資よりも、「質が悪い」可能性が高い。

そう考えると、資産運用をするのであれば、利益を得るための「攻め」の運用ではなく、まずは損をカバーする「守り」の運用が必要じゃないかと思うわけだ。

そして、それが保険である。

グレードの高い海外旅行保険で助かった留学時代

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私が大学3年生のとき1年間ドイツに留学したのだが、そのときは相場もよくわからなかったので、40万円もする大手保険会社のグレードの高い海外旅行保険に加入した。

病気で緊急帰国したときの移動費や、飛行機遅延により無事たどり着けなかった場合の宿泊費など、ありとあらゆるリスクに対する備えが含まれていたと思う。

さてこのお高い保険、結果はどうだったか?

見事、役に立ってくれました。はい。

お世話になったのは主に2つのケアで、ひとつは「盗難の補填」、もうひとつは「日本語を話せる医者の手配」。

留学中の年末、混雑しているバーで友人と話していたとき、足元に置いていた鞄が盗まれたことがあった。そこにはビザやパスポート、鍵などはもちろん、iPhoneやiPodといった高い物も含まれている。

途方に暮れた私だが、「そういえば結構いい保険入っていたな…」と思い出して申請したところ、たしか被害額の8割?ほどを補填してくれた。

また、割れたコップの破片で手の甲をざっくり切ってしまったときも、保険会社に連絡して日本語を話せる医者を手配してもらった。

ドイツ在住歴がそろそろ10年になる今では不要なケアだが、当時の私は海外サバイバルスキルが皆無だったので、本当に助かった。

いざというときのリスクヘッジとして、グレードが高い保険を選んでくれた親に感謝である。

利益を出す手段はたくさんあるが、損を減らす手段は少ない

保険は明日必要になるかもしれないけど、一生使わないかもしれない。損も利益も一切読めず、駆け引きもなく、最悪掛け捨てになる。

そのうえ、加入したらお金が増えるわけでもないし、手続きはややこしくて面倒くさい。
だから、後回しにしがちだ。

でもお金を増やす際に大事なのは、「損失を減らすこと」。
そう考えれば、資産運用の第一歩は保険であるべきじゃないか、と思うのだ。

たしかに保険は利益を出すためのものではないから、「資産運用」とすぐには結びつかないかもしれない。

しかしいくら利益を得たところで、突然トラブルが起きたらもうどうしようもない。お金を払うしかない。

保険は、そういう非常事態への備えだ。

利益を増やす手段は世の中にたくさんある一方で、損を減らす手段は、かなり限られている。だからこそ、リスクヘッジとして、資産を守るために保険をかけておくことが必要なのだ。

資産運用するならまず保険で守りを固めるべし

保険はあくまで、損をカバーするもの。

とはいえ、突発的なトラブルなんてそうそう起こるものじゃないし、「必要最低限でも困らない」と思っている人はたくさんいるだろう。

でもね、思うんですよ。
5年前に歯科保険を勧められたときに加入していれば、目の前の17万円の出費は回避できたなぁ、と。

もちろん、歯が割れずに保険料が無駄になる可能性だってある。
でも月々数百円を保険に払うのと、ある日突然数十万飛んでいくのであれば、前者のほうが明らかに懐のダメージが少ない。

もし私が夫の影響で投資を始めていたとしても、直後に17万円もの医療費の請求がきたら、きっとそれどころじゃなくなっていたからね。

攻めるなら、守りを固めてから。
守りを盤石にしてこそ強気に攻められるというのは、スポーツでもボードゲームでも資産運用でも同じだ。

というわけで、私は今、請求書を片手に「やる順番を間違っていたなぁ」と苦笑いしている。

さすがに17万円の突然の出費は痛いので、治療済みの割れた歯の治療費を払い、もう1本の治療のタイミングは様子見だ。

最後にみなさんに、改めて伝えておこう。
事故・病気の突発的な出費は怖いぞ…と。