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中小企業の値上げラッシュ、価格転嫁した企業ほど賃上げ率高い⁉

経済とお金のはなし 箕輪 健伸

中小企業の値上げラッシュ、価格転嫁した企業ほど賃上げ率高い⁉

【画像出典元】「Jirsak/Shutterstock.com」

とどまるところを知らない値上げラッシュに、「今後どうやり繰りしていけばいいか分からない」と頭を抱える方も多いのではないでしょうか。昨年から始まった食料品などの生活必需品を中心とする相次ぐ値上げは2023年になっても止まらず、2023年3月には3000品目以上、さらに4月には5000品目以上の食品が値上げしています。

そうした中、値上げとは長らく無縁だったといっても過言ではない企業間取引でも値上げの傾向が顕著になってきました。原材料価格やエネルギー価格などが上昇する中、取引先企業との交渉で取引価格の値上げが実現できた中小企業が増えているという調査結果が経済産業省から出されたのです。この調査結果をもとに、どのような業界で取引価格の値上げが実現できて、どのような業界でできていないのかを見ていきましょう。

価格転嫁できた企業は63.4%に上る

打ち合わせ
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6月20日、経済産業省は「価格交渉促進月間(2023年3月)フォローアップ調査の結果について」を発表しました。「価格交渉促進月間」とは、エネルギー価格や原材料費、労務費などが上昇する中、中小企業が適切に価格転嫁しやすい環境を作るために政府が設けたものです。毎年9月と3月が「価格交渉促進月間」に設定されています。

今回経済産業省が公表した資料は、2023年の3月に中小企業がエネルギー価格や原材料費の高騰などをどれくらい価格転嫁できたかを調査し、まとめたものです。それによると、「価格交渉を申し入れて応じてもらえた/発注側からの声かけで交渉できた」中小企業の割合は、63.4%に上りました。2022年9月の前回調査では58.4%だったため、前回調査時より5ポイント上昇したことになります。

コストの上昇分のうち、何割を価格転嫁できたかを問う質問では、20.6%の企業が「コスト上昇分の10割」、18.7%が「コスト上昇分の7~9割」と回答。39.3%の企業が高い割合で価格転嫁できていることが分かりました。

進む二極化、価格転嫁できていない業界とは

その一方で、価格転嫁できている企業と価格転嫁できない企業の二極化が進んでいるという事実もこの調査から明らかになっています。「全く価格転嫁できない/減額」と回答した企業は前回調査では20.2%だったのが、今回の調査では23.5%に増えています。

価格交渉に応じたかの回答を点数評価し、発注側企業の業種別に集計した「価格交渉状況の業種別ランキング」によると、価格交渉に応じている業種の1位は造船。以下、繊維、食品製造、飲食サービス、建材・住宅設備の順でした。一方、ランキングの下位は不動産・物品賃貸、金融・保険、広告、放送コンテンツ、トラック運送などの業界が並び、最下位は通信でした。 

価格転嫁できている企業ほど賃上げ率も高い

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さらに、日本経済の先行きを考える上でとても興味深いこともこの調査から明らかになっています。それは、価格転嫁率が賃上げ率と相関関係にあるということです。価格転嫁できている割合が高くなるほど、賃上げ率も高くなる傾向にあるということがこの調査から分かりました。

それもそのはずで、もともと中小企業には大企業のような体力はなく、ただでさえコストが上昇する中、従業員の賃金を上げたくても上げられない中小企業が多数です。そうした中、コスト上昇分を価格転嫁できないのであれば、従業員の賃金アップはより難しくなるでしょう。

日本のいわゆる「失われた30年」と呼ばれる経済低迷、その大きな原因の一つは、賃上げ率の低さにあると言われています。従業員の賃金が上がらないことは、消費の低迷を招き、企業収益の悪化に直結します。そして、収益が悪化した企業が生き残るためにリストラを含めたさらなるコストカットを断行。だんだんと経済規模が縮小していく「負のスパイラル」の始点が賃上げ率の低さなのです。

今回の調査の中で、高いレベルで価格転嫁できている企業の多くは従業員の給料を上げているようです。しかし、中には9~10割の価格転嫁ができていても、全く賃上げしていない企業もあります。また、トラック運送や通信など、相対的に業界全体で価格転嫁できていない業界も少なくありません。

適切な価格転嫁は、従業員の賃金アップにつながり、賃金アップは消費の拡大につながります。値上げの波が企業間取引にも及びつつある今、こうした正しい循環が起こるよう、立場の弱い中小企業がより価格転嫁しやすい制度作りが求められます。