お金

あなたの「通勤手当」は非課税?扶養の範囲内で働きたい人は要注意!

ためる 内山 貴博

あなたの「通勤手当」は非課税?扶養の範囲内で働きたい人は要注意!

【画像出典元】「stock.adobe.com/78art」

企業が従業員に対して支給する福利厚生の一つに「通勤手当」があります。自宅と勤務先の間の交通費を一定額支給してもらえるものですが、この通勤手当は年収に含まれるのか、また税金がかかるのかどうかを考えたことはありますか?一般には「給与とは別で年収には含まない」と、非課税として認識している人が多いようです。

実際のところ、通勤手当に非課税枠はありますが、課税される場合もありますし、給与と同じく年収とみなして考える場合もあります。意外と誤解していることの多い通勤手当について、注意すべき点など一つひとつ解説していきます。

通勤手当=基本は「非課税扱い、年収には含まない」

会社紹介などで「入社3年目社員の平均年収は約400万円です」と公開されている場合、一般に通勤手当は年収に含めていないことが多いです。一方で、役職手当や家族手当などは年収に含みます。これは「自分が使い道を自由に決められるかどうか」の違いです。通勤手当は受け取った金額がそのまま定期代やガソリン代に充てられる実費のため、年収とみなさないケースが多いのです。確かに、遠方から高額な交通費で出勤する人の方が、会社の近くに住んでいる人よりも年収が高いというのは不合理ですよね。

また、住宅ローンの申し込み審査の際、年収を申告しなければなりませんが、この場合も基本的に通勤手当は年収に含みません。ふるさと納税も同様です。ふるさと納税は年収によって控除の上限額が変わるため、専用サイトなどで納税額の上限を把握する際は、通勤手当を含めない年収を入力しなければなりません。特に通勤手当が高額な人が通勤手当込みの年収で試算すると、「本来の控除上限を上回る金額で、ふるさと納税をし過ぎてしまった」という事態も想定されますので、注意してください。

電車・バスの通勤手当の非課税上限は15万円

自動改札を通過するビジネスマン
【画像出典元】「stock.adobe.com/chachamal」

非課税扱いとなる通勤手当ですが、上限がないわけではありません。税制によりいくつかルールが定められています。

まず、電車やバスなど公共交通機関で通勤する場合は「1カ月当たりの合理的な運賃等の額」となっています。つまり、その運賃や定期代などの実費が非課税扱いです。また月額上限は15万円と定めてあります。

マイカーや自転車で通勤する場合は、距離に応じて以下のように非課税上限額が決まっています。

出典:国税庁「通勤手当の非課税限度額の引上げについて

通勤手当が課税扱いになるケースは

新幹線通勤などで月額が上限の15万円を超える場合は、超えた部分が課税対象となります。
月額15万円超の交通費を支給するというケースは多くありませんが、マイカーや自転車通勤の場合、非課税上限を超えて課税扱いとなるケースが散見されます。

例えば、自宅から5キロ程度でも就業規則や他の従業員とのバランスなどを考慮して月5000円の通勤手当を支給するというケースがあります。上の表の通り、非課税扱いとなるのは4200円までですから、残りの800円は課税扱いとなります。給与明細では「課税通勤手当800円」、「非課税通勤手当4200円」と分けて表示されるのが一般的です。

「課税通勤手当」がある場合、所得税だけでなく住民税でも課税対象に

上の例のように「課税通勤手当」を受け取っている場合、所得税だけでなく住民税でも課税対象となるため、結果、住民税が多くなることも考えられます。注意していただきたいケースは税金のかからない範囲で働いている人です。

パートやアルバイトの場合、所得税が課税されない年収103万円を意識しながら働いている人が多いですが、もし通勤手当のうち一部が課税扱いとなれば103万円を超えてしまうことがあります。また、103万円を超えなくても、課税交通費が加わって100万円を超えると住民税が課税されます。

所得税が課税されない水準である103万円は意識しているものの、住民税について把握しておらず、わずかに収入がオーバーして課税されたというケースはよくあることです。近隣からの通勤でも課税通勤手当となる場合もありますので、給与明細等で確認するようにしてください。

社会保険上では、通勤手当は年収に含まれる

配偶者、配偶者の扶養義務の有
【画像出典元】「stock.adobe.com/umaruchan4678」

ここまで税制上の話が中心となりました。基本的に通勤手当は非課税扱いで年収に含まないケースがほとんどです。ただし、年収に含むケースもあります。それが社会保険の場合です。

「扶養の範囲で働きたい」と考えるパート社員の人も多くいます。扶養から外れる年収130万円の壁、または106万円の壁を意識しながら働くことになりますが、この場合の年収は通勤手当も含みます。

「年収130万円ギリギリがベスト」と考えて働く人の中には通勤手当を考慮していない人も多いようです。税制では年収に含まれないため、社会保険でも同じだろうと考えてしまうのです。

社会保険は、税金とは違う考え方や計算方法なので注意してください。また、健康保険料や厚生年金保険料を算出する際の「標準報酬月額」も通勤手当を含んだ上で等級が決まり保険料が計算されます。雇用保険の保険料も同様です。

少し脱線しますが、「遺族年金」や「障害年金」も非課税で受け取るため「年収には含まれない」と考える人が多いのですが、社会保険では年収に含まれます。通勤手当同様、税金と社会保険で取り扱いが大きく異なる例の1つです。

通勤手当の今後の動向

通勤手当は平成28年の税制改正で非課税限度額が10万円から15万円へと引き上げられました。当時、東京一極集中が加速する中で、地方から新幹線などを使って遠距離通勤をする人への配慮や、地方への人口分散を促すといった意味合いもありました。

通勤手当は会社員の働き方を踏まえて変わっていく制度です。現在はリモートワークが定着した会社も多く、そもそも通勤せず在宅で仕事をする人も増えています。この現状で、通勤手当はどのような扱いになっていくのでしょうか。

1つは固定の通勤手当を見直す会社が増えています。1カ月固定で定期代を支払うのではなく、出勤した日のみ実費で交通費を支払うというスタイルです。会社にとってはとても合理的といえますね。

ただし、在宅ワークがメインになると、従業員として気になるのが光熱費や備品などの出費です。本来、オフィスで仕事をしていれば負担しない費用を各従業員が負担していることになります。これらの費用を通勤手当の代わりに、非課税で支給してもらうことはできないのでしょうか?

国税庁はこの点に関して、実費精算を行い会社から支給されたものは非課税扱いとするという見解を示しています。つまり一律「在宅勤務手当」というような支給ではなく、実際にかかった費用を、領収書をもとに精算することを前提としています。

そうすると仕事用に購入したプリンターやインクなどは精算しやすいですが、光熱費など家事消費分と仕事分と分けることができない費用についてはどうなるのでしょう。仕事の都度、メーターを切り替えるわけにはいきませんので、その場合は合理的な計算で算出することが求められています。例えば勤務時間などを考慮し、生活:仕事=6:4といった比率で光熱費の4割を仕事に伴う支出と考える方法です。自身の働き方や生活スタイルをベースに会社と相談しながら、一定割合を会社に負担してもらえるといいですね。

会社側にとっては、こうした手当の制度化が、優秀な社員を雇用できるかどうかにもつながりそうです。非課税扱いになるかどうかは別にしても、多様な働き方に対応した通勤手当や各種手当が充実しているかどうかが、会社が業績を伸ばす1つの要因になるかもしれません。

まとめ

今回は通勤手当が年収に含まれるかどうか、主に税制上と社会保険上の扱いについて紹介しました。以下にまとめます。

多くの人が「税制上では非課税だから収入に含まない」と考えている傾向にあります。必ずしもそうではありませんので、その点ご注意ください。

会社に勤務する人にとって通勤手当はもらって当然という位置づけかもしれませんが、法律上、会社に支払いの義務はありません。よって通勤手当のない会社もあります。

会社にとって通勤手当は生産性との連動制が低い費用負担といえます。例えば電車代を実費で支払う場合、1時間働いた場合でも8時間働いた場合でも同額の支払いとなります。つい、基本給や時給、役職手当などに興味関心がいきがちですが、支払う会社側にとって通勤手当も大きな人件費の一部となっているのです。次回の給与明細をもらう際に通勤手当にも目を向けてみてはいかがでしょうか。

通勤手当に関するQ&A

Q:電車で通勤する前提で定期代相当を通勤費としてもらっていますが、出勤時も帰宅時も電車が混雑します。自分で会社近くに月極駐車場を借りて車で通勤をしたいと思っています。何か問題はありますか?

A:あらかじめ会社に申告しておく方が良いでしょう。基本的に、通勤中のトラブルも労災保険の対象になる場合があります。しかし、会社が把握しているものとは異なる通勤経路、手段でのトラブルは、会社側の労務管理や労災保険上、問題となる可能性があるからです。通勤手段のみならず、通勤経路などの詳細を入社時に申告するのはそのためです。

Q:今まで遠方から通勤をしていましたが、会社の徒歩圏内に引っ越しました。今後通勤手当が不要となるため、その通勤手当分を住宅手当として上乗せしてもらうことは可能でしょうか。

A:通勤手当や住宅手当は就業規則をもとに支給されているため、1人だけ特別扱いをするのは難しいと思います。ただし、中小企業など従業員がそれほど多くない会社は、各従業員の状況を踏まえ、個別事情を手当に反映するという場合も見受けられます。一度上司や経営者に相談してみてはいかがでしょうか。