「企業物価指数」が7.2%上昇、今後の私達の生活への影響は?
監修・ライター
日本銀行が4月12日に、2022年度の国内企業物価指数を発表しました。それによると、2022年度の国内企業物価指数は117.0で、2021年度に比べて9.3%上昇しました。上昇率は比較可能な1981年以降で最大ですが、そもそも国内企業物価指数とは何なのでしょう?また国内企業物価指数が上がると何が起こるのでしょうか?
企業物価指数は25カ月連続で上昇
国内企業物価指数が上昇した大きな理由はエネルギー価格の高騰にあります。昨年初めころから、新型コロナウイルス感染拡大からの世界経済の回復によるエネルギー需要の増加、さらにロシアのウクライナ侵攻などの影響で、エネルギーや資源の価格が高騰しました。
これを受けて、「電力・都市ガス・水道」が前年度比37.6%、「鉱産物」が同30.7%、「鉄鋼」が同23.8%の上昇と、エネルギーや資源価格の影響を受けやすい分野の企業物価が特に上がっています。また、同時に発表された2023年3月の国内企業物価指数も、前年同月比7.2%上昇の119.4でした。伸び率こそ前月(2023年2月=8.3%上昇)と比べると緩やかになったものの、25カ月連続で前年同月比での上昇となりました。
そもそも企業物価指数とはなに?
「企業物価指数という言葉はよく聞くけれど、どういったものなのかはよく分からない」という方も多いのではないでしょうか。
企業物価指数とは、企業間で売買されるモノの価格を指数化したものです。簡単に言えば、企業間でやり取りされる商品価格の平均です。これを見ることで、商品の需要や供給の動きを判断できます。企業物価指数は、あくまで企業間の売買価格の平均であって、商品の最終価格の平均ではありません。そのため、投資家など、景気や金融政策の動向に敏感な一部の人以外にとっては、身近なものではないかもしれません。
企業物価指数のほかに景気の動向を判断するための指標として、消費者物価指数があります。消費者物価指数は消費者が購入するモノやサービスなどの価格を表す指標です。自分たちが直接購入する商品価格の平均ということで、毎月、総務省から発表される消費者物価指数を気にしているという方もいるのではないでしょうか。
「企業物価指数の上昇=消費者物価指数の上昇」ではなかったが…
企業物価指数と消費者物価指数は、ともに日本の経済状況を図る重要な指標ですが、両者は必ずしも一致するものではありません。企業間での取引価格が上がれば、消費者が購入する商品の最終的な価格も上がると思いませんか?しかし、日本では長らくそうなっていませんでした。
少し古いデータになりますが、たとえば、2008年。原油への投機資金の流入や中国の経済成長による石油需要の急増、さらにイラク戦争の勃発などの情勢不安を受けて、この時も世界経済は現在と同じような原油価格の高騰に見舞われました。原油価格の高騰を受けて、2008年4~6月の企業物価指数は108.8(前年同月比4.9%上昇)、2008年7~9月は112.0(同7.1%上昇)を記録しました。
ところが、同じ時期の消費者物価指数は、2008年4~6月が101.6(前年同月比1.4%上昇)、2008年7~9月も102.6(同2.2%上昇)にとどまっています。2008年7~9月の企業物価指数の112.0と消費者物価指数の102.6の間にある、約10ポイント分を埋めているもの、それは企業努力です。企業が、原材料などの値上がり分をコスト削減などで懸命に吸収した結果、企業物価が上昇した割に商品の価格は抑えられていたのです。
物価高はしばらく変わらない
そうした企業が相次いだことから、最近までデフレが続いていたのですが、そのことの是非はともかくとして、私たち消費者の生活が企業努力によって守られていたのは事実でしょう。ひるがえって、現在の消費者物価指数はどうなっているでしょうか。総務省が1月23日に発表した2022年12月の消費者物価指数は104.1、前年同月比で4.0%上昇しました。前年同月比で4.0%もの上昇幅はオイルショックの影響で物価が大きく上がった1981年以来、実に41年ぶりのことです。
2023年1月は104.7(前年同月比4.3%上昇)、2月は104.0(同3.3%)と、その後も消費者物価指数は高いレベルで推移しています。この傾向から、長らく原材料コストを価格に転嫁せずに、商品価格を抑えてきた日本企業の企業努力も、そろそろ限界になってきたと見るべきでしょう。昨年から続く、食料品や日用品を中心とした相次ぐ値上げがいつまで続くのか多くの方が不安に思っていると思います。政府の物価高対策を受けて、この先、消費者物価は一旦少し収まることが予想されます。しかし、根本的な原因である企業物価が落ち着かない限り、現在の物価高はしばらく続いていくと考えざるをえないでしょう。