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大手企業が続々賃上げ発表、どれくらい上がる?中小企業は?

経済とお金のはなし 箕輪 健伸

大手企業が続々賃上げ発表、どれくらい上がる?中小企業は?

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欧米を中心とした世界的な需要増加や、ロシアによるウクライナ侵攻の影響による原材料価格の上昇、それに加えて円安による輸入コストの増加もあり、食料品を中心とする生活必需品の値上げラッシュが止まりません。そんな中、従業員の暮らしを守るために賃上げを発表する企業が相次いでいます。

記録的な物価高に賃上げする大企業

帝国データバンクの調査によると、1月31日までに2023年中の値上げを発表した品目数は1万2054品目。このうち、4月1日までに値上げする品目は1万品目を超えます。家庭で消費するモノやサービスの値動きを示す、1月の消費者物価指数は前年同月比で4.2%もの上昇。この上昇幅は、1981年9月以来、41年ぶりの記録的な水準です。

この記録的な物価高に、賃上げに後ろ向きだった日本企業も、労働組合などが一斉に企業に賃上げを要求する「春闘」を前に、重い腰を動かし始めました。日本の基幹産業である自動車業界では、ホンダが5%の賃上げと初任給の1割引き上げを発表しました。トヨタも労働組合が求めた賃上げ要求に満額回答の方針を示しています。

製造業以外にも賃上げを発表する企業が相次いでいます。ゲーム大手のセガは年収を平均で15%、初任給は35%引き上げる方針を発表しました。同じくゲーム大手の任天堂は、全社員の基本給と初任給を10%引き上げる方針を示しています。またユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、正社員の給料を6%、アルバイトの給料を7%引き上げることを発表。流通大手・イオンは、3月以降、約40万人のパート社員の時給を平均7%引き上げることを決めました。

物流コストや仕入れコストの上昇に悩む外食産業でも賃上げする企業があります。ファミレスチェーン・ロイヤルホストを運営するロイヤルホールディングスは約1830人の社員の賃金を平均6.5%引き上げると発表しました。

東京商工リサーチによると、2023年度の春闘で、賃上げを実施予定の企業は全体の80.6%に上ることが分かりました。今年の春闘で各業界の労働組合は、過去に例のないような高いレベルでの賃上げを要求しています。3月15日に予定されている春闘の集中回答日には、より多くの企業が賃上げを発表するでしょう。

賃上げしたくてもできない中小企業

悩む男性
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日本が経済成長していくために最も重要なのは、個人消費の拡大。日本の国内総生産(GDP)で最も占める割合が大きいのは個人消費で、GDPの約54%を占めています。その個人消費を拡大するには、可処分所得を増やす必要があります。可処分所得を増やすという意味で、賃上げの果たす役割は非常に大きいものです。企業の賃上げが消費や投資の増加に結び付く、いわゆる「経済の好循環」を上手く作り出せれば、長い間低迷していた日本の経済成長も期待できるでしょう。

一方で、日本経済全体を見ると気になるデータもあります。それは、賃上げをしたくてもできない企業が少なくないことを示すデータです。大手生命保険会社・大同生命が行った全国の中小企業を対象とするアンケート調査によると、今後「賃上げする」と回答した企業は全体の34%にとどまりました。「賃上げ意向はあるが、できない」と回答した企業が14%、「賃上げしない」と回答した企業が18%でした。つまり、日本の中小企業の約3分の1が「賃上げしない(できない)」と回答しているのです。

2023年は日本経済の分岐点に

分岐点
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総務省統計局の「平成26年経済センサス」によると、日本の大企業の数は約1万1000社。一方、中小企業の数は380万9000社に上ります。数で言えば日本の企業の99.7%が中小企業です。さらに、大企業の従業員数は約1433万人なのに対して、中小企業の従業員数は約3360万人です。つまり日本では、企業数の99%以上、雇用の70%を中小企業が担っています。

大企業が相次いで賃上げを発表していること自体はとても良いことなのですが、賃上げの波が雇用の70%を担う中小企業にまで及ばなければ、経済効果は限定的なものとなってしまうでしょう。

また、そもそも賃上げが物価高に追いついていないという実態もあります。厚生労働省が2月7日に発表した2022年分の毎月勤労統計調査によると、1人あたりの現金給与総額は平均で32万6157円と前年比2.1%増でしたが、物価高の影響を加味した実質賃金は前年比0.9%減。賃上げが物価高に追いついていない状況が示されています。

大企業だけではなく、中小企業にまで賃上げが波及していくか、賃上げが物価高を吸収できるほどになるか――。これは言い換えれば、日本が再び経済成長していける国になれるかどうか、ということでもあります。日本の今後の経済成長を考えるうえで、2023年は分岐点となる年かもしれません。