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世界的インフレの今、節約と貯金だけではムリだと思い始めたワケ

雨宮 紫苑

世界的インフレの今、節約と貯金だけではムリだと思い始めたワケ

【画像出典元】「Ink Drop/Shutterstock.com」

私は小さい頃から、「管理」がとにかく苦手だった。

整理整頓が苦手でよくモノを失くすし、スケジュール管理も苦手で何度かダブルブッキングをやらかした。

そんななかでも特に苦手なのが、お金の管理。

デザインに惹かれて何冊かお小遣い帳を買ったが、すべてまっさらなまま。親から「バイト代が支払われているか確認しなさい」と言われても「まぁ支払われているだろう」と確認せず、通帳記帳なんてのもしたことがない。

それは30歳になった今も変わらず、家計簿はつけないし、預金残高もざっくりとしか把握していない。

でも今までは、それでも困らなかったのだ。
そう、「今まで」は。

100万円=9,000ユーロが、100万円=7,000ユーロに!?

あらかじめお伝えすると、私は金遣いが荒いわけでも、お金の管理をしなくても問題ないお金持ち、というわけでもない。単純に、面倒くさがりなだけ。

でも今までは、それでも困らなかった。

毎月振り込まれる給料よりも支出が少なければ、しぜんとお金は貯まっていく。
それなら苦手な管理なんてしなくても、別に問題ないはず。そう思っていた。

そんな私だが、ここ最近の経済状況を鑑みて、「さすがにちゃんとしないとまずいかも」という危機感を持つようになった。

なぜなら、お金を遣っていないのに、生活が苦しくなっているから。

私が大学を卒業してドイツに移住したとき、ユーロ危機直後で、たしか1ユーロ103円くらいだった。1ユーロ110円だとしても、100万円=9,091ユーロ。

日本円をユーロでドイツの口座に送金しても、「まぁちょっと減っちゃったけどしょうがないかな」くらいだった。

でもみなさん、現在1ユーロがいくらか知ってます?
143円ですよ、143円!!(2023年2月16日現在)

ニュースでは「ドル高」なんて言われているが、円の価値が低くなっているのだから、ばっちり「ユーロ高」でもある。

つまり、100万円稼いでも、今は6,975ユーロにしかならない。
10年前は100万円=9,000ユーロだったのが、今や7,000ユーロ! びっくりするくらい減っている!

しかも、ロシアのウクライナ侵攻によりヨーロッパ全土で物価が急上昇。

週末の買い物が今まで60ユーロくらいだったのに、気付いたら70ユーロもするではないか。なにを買っても、今までよりちょっと高い。電気代なんて2倍になるという噂だ。

ユーロで表現するとピンとこないかもしれないが、日本でも物価上昇は話題になっていると思う。
みなさんも、「スーパーの買い物でちょっと出費が増えている」「いつも行っているレストランが値上げしていた」なんて経験があるんじゃないだろうか。

普段通りの生活をしているだけなのに、なんだかお金が減っていくぞ…。

遣わなきゃお金は貯まるだろう、という認識はまちがい

【画像出典元】「vectorfusionart/Shutterstock.com」

物価上昇とはつまり、「お金の価値が下がっている」ということだ。

私が小さい頃愛読していた月間少女漫画雑誌『りぼん』は、当時500円以下だった。
500円玉を握りしめて、キックボードで坂の下の本屋に買いに行っていたから、よく覚えている。

そういえば今いくらなんだろう?と調べてみたらびっくり!
税込み630円になっていた(2023年3月特大号)*1。

つまり、『りぼん』を買うために500円貯金していたとしても、値段が上がった今、その500円で『りぼん』は買えない。

極論ではあるが、手元に100万円あっても、モノの値段が倍になれば、50万円ぶんしか買い物ができないのだ。

今までの人生で大きな「価格変動」を経験したことがなかったから意識しなかったが、お金の価値は、常に一定なわけではない。

今までのように暮らしていても、お金は増えないどころか、価値が下がって相対的に目減りしていくこともありうる。

…なんてこった!
ちゃんと私は働いてるのに! 無駄遣いせずつつましく暮らしてるのに!

「遣わなきゃお金は貯まるだろう」という私の認識はまちがっていたんだね…。

若者の8割が「お金のこと」で悩んでいる

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物価は上がるのに給料は増えず、若者はお金がないから結婚ができないというニュースがさかんに報じられるようになった。
平均寿命が伸び、老後2000万円問題なんてのも浮上。

13歳から29歳の「悩みごと」に関する意識調査では、「仕事のこと」の70.8%、「自分の将来のこと」の78.1%を差し置いて、一番の悩みは「お金のこと」の79.3%。*2

とにもかくにも、経済状況が不安なこのご時世。

だからこそ、私のように「無駄遣いしなければお金は増えていく。貯蓄が一番安心」と考えている人って、結構多いんじゃないかと思う。

収入を貯めこめば、貯金「額」は増えていく。将来に備えて心配が和らぐ。とまぁ、こんな感じで。

でも悲しいことに、貯金額が増えたからって、必ずしもそのお金で買えるものが増えているわけではない。

貯金額の増加よりも大幅にお金の価値が下がっていたら、相対的に買えるものは減るのだから。

…なんてことを考えると、「お金の管理が苦手だから寝かしておく」だなんて言ってられない。
お金についてもっと興味を持たなければ!という気になってくる。

お金を貯蓄するのではなく、運用するという考え方

【画像出典元】「Vector Stock Pro/Shutterstock.com」

実は私の夫は資産運用に積極的で、常々「投資したい」と言っていた。

「車を買うんだから投資はあとにして!」とお願いしていたのだが、友人から中古の車を格安で譲ってもらえることになり、浮いたお金で投資を始めたそうだ。

とりあえず、20万ユーロ。日本円に換算すると、約30万円。

投資用のアプリを使い、そのときかなり値が下がっていた、誰もが知る有名企業4社の株を買ったらしい。大きな企業であれば、少し待てばある程度上がるだろう、という目論見だ。

現在どんな状況か聞いてみたところ、半年で200ユーロ増えたとのこと。

「半年でたった200ユーロ?」と思ったが、物価が上昇してお金の価値が下がっているなか、労働以外の方法で200ユーロ(約3万円)増やしているって、かなりすごいことだ。しかも、投資初心者で。

ただタンスに寝かせているだけでは、200ユーロも増えることはなかったわけだしね。

ちなみに投資をしている20代は26.2%で、ひと月あたり投資に回している金額の平均は39,604円。*3

最初から30万円も突っ込む必要はなく、例えば毎月の飲み会を1回減らして5000円浮いたらそれをちょっと投資にまわしてみるなど、少額からでも問題ない。

お金の勉強のために、ためしに投資に挑戦するというのは、とても良い経験になると思う。

…なんて書きつつ、正直私には投資はハードルが高い。
なんだか怖いし、なにを買えばいいかわからないし、うっかり大損したらどうしよう、という不安が勝ってしまう。

でも、私もなにかしたい。
なにかしなきゃダメな気がする。

というわけで、日本円を毎月ユーロに替えるサービスの利用を開始。
「毎月5万円をユーロにしておく」と設定しておくもので、いわゆる外貨預金だ。

円とユーロ、それぞれの価値が大きく動いたときの備えになる。

よく考えれば、ドイツに住んでもうすぐ10年にもなるのに、そういうことを一切やってなかったって逆にすごいかもしれない。もう少し早く始めれば良かった…。

お金の価値は一定ではない、という意識が必要

お金を遣わなければ、気持ち的には安心する。貯蓄しておけば大丈夫だと思える。
その考えはわかる。とってもわかる。

でも貯蓄の額が増えても、買えるものが増えている、裕福になっているとはかぎらない。

お金の価値がどんどん下がり、物価上昇しているこのご時世、ただお金を寝かせておくだけでは十分じゃないのだ。きっと。

もちろん、だからといってなにもわからないまま、安易に貯蓄を資産運用にまわすのが得策なわけではない。最終的に貯蓄が大事になるのは事実だしね。

ただ、たとえ今すぐに資産運用するわけではなくとも、「お金の価値は一定ではない」という意識は必要だと思う。

そうしないと、「100万円あるから安心」と思っていても、実際50万円の価値しかない…なんてことになってしまう可能性があるから。

*1 集英社「りぼん 公式サイト」
http://ribon.shueisha.co.jp/new/index.html

*2 内閣府「特集1 日本の若者意識の現状~国際比較からみえてくるもの~」
https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/r01honpen/s0_1.html

*3 SMBCグループ「20 代の金銭感覚についての意識調査 2022」p.17
https://www.smbc-cf.com/news/datas/chousa_220113.pdf