新たな「物価高対策」発表もSNSは反対の声多数、なぜ評判が悪い?
監修・ライター
3月28日、政府は新たな物価高対策を閣議決定しました。今回の物価高対策は約2兆2000億円の予算が投入される予定で、主に低所得者を対象にしたものです。住民税非課税世帯に3万円、低所得の子育て世代に5万円の給付金が支給されます。しかしこの政策、評判が良いとは言えません。なぜ評判が悪いのでしょうか。
年度が替わっても続く食料品の値上げ
原材料価格や輸送コストの高騰、ロシアのウクライナ侵攻の影響、円安などにより昨年から一向に収まるところを見せない物価高。そんな中、年度替わりの月とあって、この4月から商品の値上げを発表している企業が相次いでいます。
4月からの値上げで顕著なのは、食料品をはじめとした生活必需品の値上げです。生活に身近な食品の中でも、例えば、伊藤ハムがハム・ソーセージや調理加工食品の価格を4月1日出荷分から5~20%値上げします。そのほか、キッコーマンは醤油やポン酢、キユーピーはマヨネーズ類、明治はヨーグルトやバター・チーズの4月1日出荷分からの値上げをそれぞれ発表しました。帝国データバンクの調査によると、4月に値上げをする食品は、4892品目に上ります。
食料品などの生活必需品が値上がりすることは、収入が少ない人ほど受けるダメージが大きくなるのが特徴です。もちろん、政府もそのことは織り込み済みで、3月28日に計2兆2226億円に上る物価高対策を閣議決定しました。
住民税非課税世帯に3万円、低所得の子育て世代に5万円
今回の物価高対策は主に低所得者を対象にしたもので、約2兆2000億円の予算のうち、5000億円を住民税非課税世帯への3万円程度の給付金にあてます。また、それとは別に1551億円を支出して低所得の子育て世帯に子供1人あたり5万円を目安に給付します。なお、3月末時点では年収がいくら以下の子育て世帯が対象なのかは明らかになっていません。
そして、今回の物価高対策で最も多い政府の支出が、新設される「地方創生臨時交付金」です。約2兆2000億円のうち、7000億円を占めています。地方創生臨時交付金は、地方自治体で使い道を自由に決められるのが特徴です。政府は、地方で利用者の多いLPガスの負担軽減、地域で利用可能なプレミアム商品券の発行、学校給食費の補助などを想定しています。とはいえ、地方創生臨時交付金は使い道を地方自治体が自由に決められます。誰を対象にどのような使い方がされるのかは、各地方自治体の発表を待つ必要があるでしょう。
国民が不公平感を覚える理由
今回の物価高対策、最大の目玉である地方創生臨時交付金の使い道が明らかになっていない状況ですが、実はあまり評判が良いとは言えません。SNSで多いのが、「なぜ全国民に公平なものではないのか」という意見です。なぜなら3万円ほどの給付金が支給されるのは住民税非課税世帯だけだからです。
厚生労働省の「2021(令和3)年 国民生活基礎調査」によると、生活が苦しいと回答しているのは国民の53.1%に上ります。半数を超える国民の生活が苦しい中、住民税非課税世帯だけに給付金を支給するのは不公平だ、という声があがっているわけです。
SNSではほかに、「取ったものをわざわざ配るなら最初から取るな」という意見も見受けられました。「取ったもの」とは税金のことです。特に多くの人が求めているのが消費税の減税です。確かに消費税減税であれば、国民の間に不公平感が生まれないと同時に、生活必需品の価格高騰でダメージを受けやすい低所得層も救うことができるでしょう。
また、消費税は現在10%(飲食物は8%)ですが、税率は商品だけにかかるものではありません。商品を作るための原材料の購入費にも輸送のためのガソリン代にも、商品を作るための電気代にも消費税は等しくかかります。その分は、商品の最終的な価格に上乗せされるのです。そのため、消費税を減税すれば商品そのものの価格も下がることが予想されます。
さらに、給付金を支給すると言っても、タダでできるものではありません。給付金の支給にかかわる業務を民間企業に委託することになるわけですが、その際に事務費がかかります。当然、事務費は税金です。今回の物価高対策について、厚生労働省の資料にも「実施に係る事務費についても全額国庫負担」と明記されています。実際に2021年に支給された「低所得の子育て世帯に対する子育て世帯生活支援特別給付金」では、事業費(給付金額)が1889億円なのに対して、154億円の事務費が計上されました。消費税の減税であれば、事務費はかかりません。
もちろん、消費税減税には税収が減るというデメリットもあります。1%の消費税の税収は約2兆円です。仮に、消費税を3%減税した場合、約6兆円の税収が減るわけです。ただ、「消費税減税は物価高が収まる傾向が見られるまで」など、一定期間に区切れば税収減というデメリットは最小限に抑えられるでしょう。
それに、ここ数年はコロナ禍にもかかわらず国の税収は増え続けています。2020年度の税収は60兆8216億円、2021年度は67兆379億円といずれもその時の過去最高を更新しています。消費税減税の絶好のタイミングに見えるのですが、果たして検討されることはあるのでしょうか。