お金

変動金利ローン「5年・125%ルール」の盲点、結局返済額が増加?

かりる 権藤 知弘

【画像出典元】「Roman Samborskyi/Shutterstock.com」

2016年にマイナス金利政策が導入され、日本の住宅ローン金利は大きく下落しました。特に変動金利型住宅ローンの金利は、ネット銀行などで0.2%~0.3%台という超低金利を記録したこともあります。その後、日本銀行の金融政策が転換され、今後の金利動向に注目が集まる中、特に関心を集めているのが変動金利型住宅ローンの行方です。

変動金利型には「5年ルール」と「125%ルール」という仕組みがあります。これは、返済額の増加を一定期間抑えてくれるので一見すると安心材料のようにも思えますが、実は返済負担の先送りという盲点も潜んでいます。これらの制度の仕組みや注意点について解説していきます。

変動金利の「5年ルール」とは?金利上昇でも返済額はすぐには増えない

変動金利型住宅ローンには、「5年ルール」と呼ばれる仕組みがあります。これは返済開始後に金利が上昇しても、返済開始から「5年間は毎月の返済額が据え置かれる」という制度です。5年ごとに、その時点の金利に応じた返済額に再計算されます。

変動金利は通常、半年ごとに適用金利が見直されますが、返済額は5年(60回)経過ごとにしか変更されません。例えば35年ローン・420回返済の場合、返済額の変更は6年目(61回目)、11年目(121回目)、16年目(181回目)といったタイミングで行われます。

仮に当初金利0.5%、返済期間35年で4000万円を借りた場合、毎月の返済額は約10万3834円となります。このケースでは、仮に返済開始から5年以内に金利が2.5%へ上昇しても、その間は返済額が変わらず据え置かれます。

この制度のメリットは、金利が急騰してもすぐに毎月の返済額が増えるわけではないため、家計への急激な負担を緩和できる点です。返済額が変わるまでの間に、家計を見直したり、繰り上げ返済を検討したりといった対策を立てる時間的な猶予が生まれます。

「125%ルール」とは?返済額の急増を最大25%に抑制 

【画像出典元】「jd8/Shutterstock.com」

「125%ルール」は、前述の「5年ルール」とセットで適用されることが多く、変動金利型住宅ローンの返済額の急激な上昇を制限する仕組みです。具体的には「前回の返済額の1.25倍までしか次回の返済額を増やせない」という上限が設けられています。

例えば、毎月の返済額が10万円だった場合、どんなに金利が上昇していても次回の見直し後の返済額は最大でも12万5000円までに制限されます。このルールもまた、急激な返済増による家計の破綻を防ぐために設定されたものです。

「5年ルール」「125%ルール」の“盲点”

「5年ルール」と「125%ルール」はいずれも、返済額の急激な上昇を防ぐためのセーフティネットですが、その反面、「金利上昇時の負担が将来に先送りされる」というリスクがあります。

例えば、「5年ルール」の適用期間中に金利が上昇した場合、返済額は据え置かれますが、利息の支払いが増えるため、元金の減りが鈍くなります。利息が返済額を上回る場合、差額は「未払い利息」(本来支払うべき利息のうち、返済額に収まりきらなかった分)として繰り越され、将来の返済に上乗せされることになります。

また「125%ルール」も同様に、返済額の上昇を抑えることで一時的に家計を守ることができますが、金利上昇時には元本の返済が遅れるため、返済期間中に支払う利息が増え、結果的に総返済額が増えるリスクがあります。さらに、未払い利息が重なれば、返済期間後半で返済額が急増し、家計に大きな負担となる可能性もあります。

【未払い利息はいつ発生する?】金利上昇時のシミュレーション

ここでは返済期間35年の住宅ローンで、返済開始から5年経過後に適用金利が変更された場合に、未払い利息が発生する金利水準を概算で試算してみます。

筆者作成

当初の返済金額は10万3834円でしたので、125%ルールが適用された場合の返済金額の上限は毎月12万9792円です。この上限金額を考慮すると、見直し後の金利が2.0~2.1%に達すると、未払い利息が発生する可能性があります。

筆者作成

当初の返済金額は11万2914円でしたので、125%ルールが適用された場合の返済金額の上限は毎月14万1142円です。この上限金額を考慮すると、5年経過後の見直し金利が2.6~2.7%に達すると、未払い利息のリスクが高まります。

なお実際に未払い利息が発生するかどうかは、金利上昇のタイミングやローンの残高などで異なります。

5年・125%ルールが「ない」銀行も

多くの金融機関では、「5年ルール」や「125%ルール」といった返済額の急激な増加を抑える仕組みが導入されていますが、これらのルールを採用していない銀行も存在します。

例えば、ソニー銀行、SBI新生銀行、PayPay銀行などでは、こうしたルールが適用されず、金利が上昇すると即座に毎月の返済額が変動します。このため、未払い利息は発生しにくいものの、返済額の変動幅が大きくなる可能性があり、家計の支出管理に影響を及ぼすことがあります。

住宅ローンを利用する際は、契約先の金融機関がどのようなルールを採用しているかを事前に確認し、自分の家計やライフスタイルに合った選択をすることが大切です。

【FP推奨】金利上昇に備える4つの対策 

【画像出典元】「stock.adobe.com/svetazi」

今後は、金利が上昇する可能性を見越して、以下のような備えを考えてみるのはいかがでしょうか?

現在、変動金利は0.6~1.0%、固定金利は1.8~2.0%程度が主流です。固定金利型は返済額が増えますが、今後の金利上昇に対する保険という考え方もできます。「金利が上がってから固定金利に借り換えれば良い」と考える方もいますが、実際には固定金利の方が先に上昇する傾向があるため、タイミングの見極めが重要です。

また、繰上げ返済も将来の金利上昇リスクに備える有効な手段です。金融機関によっては、1円単位での繰上げが可能です。家計を見直して余剰資金を積み立てておくことで、必要なタイミングでの繰上げ返済が可能となり、金利上昇による負担を軽減できます。

※金利は金融情勢により変動するため、最新の情報は金融機関の公式サイト等でご確認ください

まとめ

現在、住宅ローン利用者の約8割が変動金利を選んでいると言われています(住宅金融支援機構「住宅ローン利用者調査」2024年調査より)。変動金利型は、返済開始時の金利が固定型に比べて低いため、同じ返済額でも元金に充てられる金額が多く、結果として元金の減りが早くなるというメリットがあります。ただし、金利が変動する以上、将来の返済額が読めないというリスクも伴います。そのため「5年ルール」や「125%ルール」は、一見すると返済額の急激な増加を抑える“安心材料”のように感じられます。

しかし実際には、返済負担を先送りする仕組みであり、将来的に利息が増加したり、返済期間が延びたりするリスクを伴います。また、こうしたルールが適用されない金融機関を利用している場合は、金利の上昇が即座に毎月の返済額に反映されるため、家計への影響がより直接的になります。

そのため、まずは自身が契約している住宅ローンの仕組みやルールを正確に理解しておくことが重要です。

なお、金利上昇局面では繰上げ返済が有効な対策となります。資産運用と異なり、繰上げ返済の効果は事前にシミュレーションできるため、関心がある方は一度試算してみることをおすすめします。