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「遺族年金廃止」は正確じゃない!2025年の見直しポイントを解説

経済とお金のはなし 箕輪 健伸

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このところ、「国の年金制度の一部が廃止されるのでは」といった言説がインターネット上で流れていることはご存じでしょうか。廃止されるのではと心配されているのが遺族年金です。遺族年金とは、「国民年金または厚生年金保険の被保険者または被保険者であった方が、亡くなったときに、その方によって生計を維持されていた遺族が受けることができる年金です」(日本年金機構ホームページより引用)。要は一家の大黒柱である人が亡くなった場合でも残された家族が路頭に迷わないために支給される年金です。

遺族年金廃止は本当?

その遺族年金が将来廃止されるのではという話が、ネット上で頻繁に流れているのです。皆さんもX(旧Twitter)などのSNSで「遺族年金 廃止」などのキーワードで検索してみてください。相当数の投稿が確認できるはずです。

それではこの言説、正しいのでしょうか。結論から言えば、「遺族年金が廃止される」というのは正確ではありません。「遺族年金の制度が2025年に改正される」が正解です。遺族年金は無くなりませんので、安心してください。むしろ、将来的にも制度を持続可能にするため、今回の改正が必要とされています。

それではどのようなポイントが改正されるのでしょうか。2025年の遺族厚生年金の主な改正内容は以下の通りです。

改正のポイントは?

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改正のポイントについて、一つずつ見ていきましょう。

まずは、遺族厚生年金の男女差の解消です。実はこれまで遺族年金の支給ルールは男女間で差がありました。たとえば、「30歳未満で妻が夫を亡くした場合は5年間限定の給付」「30歳以上で妻が夫を亡くした場合は無期給付(生涯にわたる給付)」でした。

一方、「55歳未満で夫が妻を亡くした場合は給付なし」「55歳以上で夫が妻を亡くした場合は60歳から無期給付」。これが改正後は男女ともに「60歳未満で配偶者を亡くした場合は原則5年間の給付」「60歳以上で配偶者を亡くした場合は無期給付」へと変更されます。遺族年金はこれまで、男性の方が年金支給のハードルが高い、男女不平等なルールだったのです。

これは遺族年金の制度が創設された当時の世相を見てみると仕方のないことなのかもしれません。現在の遺族年金制度の骨格が整ったのは、昭和60(1985)年の改正時です。当時は「夫が外で働いて、妻は家を守る」といういわゆる「片働き」が今よりはるかに多い時代でした。その時代において、夫が亡くなってしまったら、妻の生活は途端に立ちいかなくなってしまいます。その点を考慮に入れて、女性の方が支給しやすいルールとなっているのです。ところが現在は共働きが主流で、妻の方が高収入という夫婦も珍しくはありません。こうした社会情勢を受けて、男女平等のルールに変更されます。

改正によって年金支給額が増えるケースも

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次に、年金額の増額です。新しい制度では、60歳未満で配偶者を亡くした場合は給付期間が原則5年間となり、その分給付額が増額されます。5年間の給付額は現在の1.3倍になる予定です。この変更で、より早く生活再建ができると期待されています。

今年のルール改正では、新たな制度も創設されます。それは、死亡分割制度。亡くなった配偶者が受けるはずだった厚生年金の一部を残された遺族の年金に上乗せするという制度です。結果的に65歳以降に受け取れる年金額が増加します。

中高齢寡婦加算の見直しも行われる予定です。40歳以上65歳未満で、子がいない妻に支給されていた「中高齢寡婦加算」が段階的に廃止されます。2025年時点での加算額は年間約62万円でしたが、2028年から2053年までの25年間で段階的に廃止されます。これも、遺族年金の男女差の解消が目的です。

さらに、今回の改正では、有期給付の収入要件(850万円)も廃止されます。亡くなった人の収入が850万円以上ある場合、子どもは遺族基礎年金を受け取ることができませんでした。今回、その収入要件が廃止。収入が850万円以上であっても、一定の条件を満たせば子どもが遺族基礎年金を受給できるようになります。

さて、今回の遺族年金の改正ポイントを簡単に説明しましたが、読者の皆さんの目にはどのように映りましたか?筆者は「なかなか良いんじゃないか」という印象を持ちました。いずれにしても、私たち国民が望むのは年金制度が公平かつ持続可能な制度になることではないでしょうか。今回の制度改正がその一助になることを強く望みます。