社会保険料見直しで「手取り」が増える、はどこまで現実となるのか
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監修・ライター
2025年7月の参議院選挙では、「社会保険料を見直して『手取り』を増やす」というマニフェスト(政権公約)が展開されました。物価上昇(インフレ)の対策としていくら賃上げが実現しようとも、社会保険料によって手取りが削られ、我々の生活水準が変わらないのは大きな問題です。一方、街角で演説を聞いていて強く感じたのは、これほど社会に定着した社会保険料の仕組みを変えることができるのかという点です。いまさら「社会保険料を見直す」ことは可能なのでしょうか。
医療費総額の年間4兆円削減は可能?
社会保険料の改革は、今回特定の政党が強く主張しました。参議院選挙で主に主張を進めた日本維新の会は、社会保険料削減のために「医療費総額の年間4兆円削減」を主張しています。目下選挙は、医療費削減のためのこの取り組みが具体的に可能なのかが論点となりました。
余剰病床の削減
日本維新の会がまず取り組むとされるのが「余剰病床の削減」です。人口減少によって不要となる病床を約11万床削減します。病床の削減は医療機関による取り組みが主体になりますが、国は削減できた医療機関に補助金を増額することなどにより、病床削減の促進を進めるとしています。
高齢者の医療費窓口負担を現役と同じ3割負担に
合わせて高齢者の医療費窓口負担を「7割引」つまり現役世代と同じ3割負担とします。2025年現在は後期高齢者医療制度によって1割から3割の自己負担率が適用されていますが、これを収入問わず3割を一括適用とするものです。なお、低所得の高齢者については、経済的な負担が過度にならないよう、特別な支援策(セーフティネット)もあわせて整備される予定です。
本記事の施策は、今回の参院選において社会保険料の改革を訴える日本維新の会のマニフェストを参考にしています。加えて参院選においては国民民主党も「負担能力に応じて後期高齢者医療制度の自己負担率を原則2割から3割に引き上げる」と主張しています。またひと月内の医療費の自己負担に上限額を設ける高額療養費において、「外来特例の見直し」が提案されています。
外来特例
70歳以上の方の外来療養にかかる年間の高額療養費(外来年間合算) 70歳以上の被保険者・被扶養者の1年間(前年8月1日~7月31日)の外来療養にかかる自己負担額合計が144,000円を超えた場合、その超えた額が申請により高額療養費として支給されます。
引用:経済団体健康保険組合
OTC類似薬の保険適用除外
2025年5月に政府は経済財政運営の「骨太の方針」にて、処方箋発行によって購入できる「OTC類似薬」を保険外適用とする方針を固めました。
OTC類似薬は医師が処方する、市販薬と同じような成分や効能のある薬のことで、風邪薬や胃腸薬、湿布などが該当します。同方針ではOTC類似薬を保険適用外にすることで、年間で3200億円の社会保険料が削減できると見込まれています。
上記の施策を通して「現在の社会保険料の必要額」を削減したうえで、標準報酬月額に基づく社会保険料率を見直し、現役世代への「天引き額」を抑制する。それが今回の参院選で主張されていた公約といえます。OTC類似薬への保険適用については、早ければ2026年度から公的医療の保険適用を見直す方針です。
参院選においてはこの主張に対し、政権与党である自民党から「厚生年金の適用拡大」が訴えられました。また、れいわ新選組からは「後期高齢者医療制度を廃止し、全額国費負担とする」という主張のほか、参政党からは「健康で医療費削減に協力した高齢者には国内旅行券を配布」という公約が出されました。
印象としてはこれまで「年金や健康保険など社会保険制度における世代間相互補助は当然」だったものの、現役世代の不満の高さに各党から「現役世代寄り」の施策が出されていると感じます。その具体的方法において、各党に差があるという状況であることが1つです。
更に後期高齢者制度単体の改革とするのか、年金制度を含めた社会保険全体の改革とするのかの違いも注目されています。いずれにしても参院選によって国民に評価された政党によって、社会保険制度の「必要額」が再度精査され、現役世代の手取り増額に繋がっていくはずです。
自公維によって幹事長合意がされている
もうひとつの注目点は、現在野党である日本維新の会による公約であるのに関わらず、「国は(政府は)」という主語があることです。日本維新の会は国政においては政権与党ではありません。
その答えは、2025年6月に自民党・公明党・日本維新の会の幹事長が署名した「3党合意」があります。背景として日本維新の会は野党であるものの、前年度の国家予算審議において、最終的に与党側にまわり、自民党と公明党に「恩を売った」形になりました。この見返りとして、日本維新の会の現役世代重視政策がある程度、政府によるコンセンサスを得ているといえます。
このあたりのパワーバランスは選挙の結果によっても変わってくるため、参院選後の「政治」に現役世代の我々は一層注目したいところです。