高市新総裁の主張する「責任ある積極財政」を具体的に予測してみると
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監修・ライター
2025年10月4日に高市早苗氏が自民党総裁に就任しました。本来はすぐに臨時国会が開催された上で首相指名となりますが、就任時点では、自民党・公明党は少数与党でした。その後高市氏の方針などから公明党が連立を離脱し、日本維新の会や国民民主党に政策協議が進んでいます。 とはいえ相場はすでに反応し、同氏の掲げる「責任ある積極財政」が注目されています。
責任ある積極財政とは
「責任ある積極財政」でインターネットを検索すると、自民党の議員連盟が最上位に表示されます。ここに高市氏自身は掲載されていませんが、先の総裁選で同氏の支持基盤となった国会議員も多いことから、立ち位置が読み取れます。まずは議員連盟の主張を通して、方向性を分析していきましょう。
参照:責任ある積極財政を推進する議員連盟
「責任ある積極財政」とは、いわゆるばらまきのような財政出動は否定しつつも、基本的には積極的な財政運営を唱えています。いま日本は財政の再建期にあり、1年間に発生する国の政策に必要な経費を税収などでどれだけ賄えているかを示す「プライマリーバランス(基礎的財政収支)」が赤字です(2025年度は当初0.8兆円の黒字が見込まれていたものの、4.5兆円の赤字)。
議員連盟では国内経済を活性化させるため、この目標を一旦撤廃し、総供給を上回る国内需要を創出することを目指しています。家計で例えるなら、家庭の節約目標を一旦撤廃し、資産運用をどんどん進めて、最終的に利益を得ましょう!という考え方と言えるでしょうか。
恩恵を受ける産業分野を見定める
「高市トレード」と言いつつもまだ総理大臣に任命されていない段階のため(執筆時は10月15日) 、自民党総裁就任を受けての株高は積極的な支出をする政治家としての基本的なポジションによるものが大きいと考えられます。組閣や連立政権の形にもよりますが、基本的には2025年6月に制定された「第一次国土強靭化中期計画」を発展させていくものと予測されます。具体的には以下の5分野です。
(第一次 国土強靭化実施中期計画の対象)
(1)防災インフラの整備・管理
(2)ライフラインの強靭化
(3)デジタル等新技術の活用
(4)官民連携強化
(5)地域防災力の強化
当然ながら総裁および政調会長などの政策策定組織の中枢が変わっています。この第一次中期計画をそのまま推進するとは考えにくいですが、策定が2025年6月です。仮に第二次を策定するとすれば、ここにプラスアルファを組み込む流れになるでしょう。
その前提のもと、活性化すると予測される事業分野は以下の3つです。
地震対策
上記計画の(1)の部分です。南海トラフ地震がいつ起きても不思議では無い局面です。地震の予知から発生した場合の避難、復旧対応に向けた分野に期待が集まります。国際的にも地震多発国である日本は、対策のリーダーを担うべき存在です。自動車が通行できなくなった場合の代替手段や、研究の進む耐震性の高い建築物、地盤強化などが課題となるでしょう。
医療機関のDX
上記計画の(4)の部分です。中期計画を読み込むと、「医療機関におけるBCP(事業継続計画)の策定」が記載されています。最近ニュースになっているように、物価高騰などで公立病院の9割が赤字に悩む昨今、政府主導で地域医療の再構築・デジタル化に臨む必要性はとても高くなっています。連立の行く末にもよりますが、社会保険料の改革において「病床の削減」が叫ばれており、ともに緊急性の高い課題として更に優先度が高まる可能性もあります。
具体的にはオンライン診療やジェネリック医薬品など、医療機関の経常支出を下げる産業が歓迎されます。また「医師や看護師のマッチング」など人材供給分野も追い風となるでしょう。病気を治療する医療機関だけではなく、放課後ケアや学童、産業医など広い領域で医師や看護師を活用できる産業も期待されます。
ライフラインの強靭化
中期計画の(2)にあたる部分です。地震など災害時の対応インフラと重複する部分も目立ちますが、上下水道システムや送電網の整備です。2025年に埼玉県の八潮市で発生した下水道の事故は記憶に新しく、同時に今後日本の各地で発生するリスクもあります。自治体単独の対応では予算面で限界があるため、国の後押しに期待する声が高まっています。
防衛費関連予算の上昇
ここに高市政権になって、新規に加えられる重点領域の予想です。所信表明演説も行われていない段階で予想するのはとても勇み足ですが、防衛領域の可能性が高いと考えられています。
日本は長くGDP比において、防衛費を1%に抑えてきました。昨今の近隣諸国に対してのスタンスが支持者に評価され、また同時に懸念事項とされています。首相就任後の動きによっては、防衛費拡大の方向性に舵が触れるという可能性も十分に考えられるでしょう。
首相就任後、トランプ大統領の来日やASEANへの参加など重要な外交が続く新内閣。果たしてどのようなスタートを切るでしょうか。有権者と同様に、投資家もまたそのスタートを見守っています。