GDP世界5位が定位置に?ドイツに抜かれた日本の課題は
監修・ライター
2023年10月24日の日本経済新聞をはじめ各社の報道によると、国際通貨基金(IMF)は世界経済見通しの改訂版を発表し、2023年中に日本の国内総生産(GDP)は55年ぶりにドイツに抜かれ世界第4位に転落するとの見通しを示しました。
この結果、勢いが年々増しているインドには近年中に日本のGDPが抜かれることが確定的なだけに、どうやら当面の間はGDP世界5位が日本の定位置となりそうです。また、国民一人あたりのGDPも、1989年の日本は世界第2位でしたが、2022年には世界31位(アジア4位)にまで落ちており、今後はさらに低下しそうな勢いです。
他の先進国も大なり小なり少子高齢化問題を抱えているため、それだけが日本凋落の原因とは思えません。また、新型コロナウイルスやロシアによるウクライナ侵攻の影響は、日本だけでなく世界各国がそれなりに受けています。ですが、日本だけが一人負けし続けているように思えるのはなぜでしょうか?
そこで今回は、ドイツとの違いから、日本が抱えている問題を考えてみます。
55年ぶりにドイツと日本が逆転
日本がドイツ(当時は西ドイツ)を抜き、アメリカに次いでGDP世界第2位に躍り出たのは、今から55年前の1968年でした。
しかし、2010年には長らく定位置であった世界2位の座を中国に明け渡すことになります。中国と日本では人口が10倍近く違いますから、これはある意味仕方のないことでした。
ですが、今回は違います。日本と比べ人口が2/3程度しかないドイツに抜かれ第4位に転落するわけですから、中国に抜かれた時よりも問題ははるかに深刻です。
ドイツの現状
ドイツが日本のGDPを抜いたおもな原因は、ドイツの高インフレと日本の円安だと言われています。ではドイツのインフレはアメリカ並みの好景気によって起きたものなのでしょうか?答えは違います。
実は、ドイツの景気は決して良くありません。むしろ悪いくらいです。ロシアによるウクライナ侵攻により、エネルギー資源をロシアに依存していたドイツは高インフレに突入しました。
相次ぐストライキや最低賃金の引上げなどによって名目賃金は増加しましたが、高止まりしているインフレをカバーできるほどでなく、実質賃金の伸びは鈍化しています。
また、IMFが10月に発表した2023年の経済見通しによると、欧州ではドイツだけが▲0.5%のマイナス成長であると予測しています。
つまり、ドイツはインフレによる物価上昇により実質賃金が伸び悩み、その結果国内消費が冷え込んでいるため、経済成長率が欧州で唯一マイナスとなりつつある状況なわけです。
では、どうして日本を抜いてドイツがGDP世界第3位になったのかと言うと、ドイツが上がったのではなく、ドイツ以上に日本が下がったからです。特に円安が加速したのが大きく、ドルベースで算出されるGDPが大幅に目減りした結果、ドイツに抜かれることになったのです。
ちなみに先程紹介したIMFの2023年の経済見通しによると、欧州は軒並み低成長もしくはマイナスであるのに対し、日本は米国と肩を並べる程の成長率です。米国は2.1%、日本は2.0%とかなり順調に経済成長を続けていることが示されています。
ですが、多くの方は、この日本経済の成長率を聞いても何の実感もわかないのではないでしょうか?
日本経済は本当に成長しているのか?
先程のIMFによる経済成長率予測を見ると、日本経済は順調に成長を続けているようですが、筆者としてはとても実感がわきません。そこで、まず賃金の伸び率を調べてみました。下図をご覧ください。
厚生労働省の調査によると、民間企業の賃金(名目賃金)はこの10年で順調に少しずつ伸びています。では、名目賃金から物価変動の影響を差し引いた実質賃金はどのように推移しているのでしょうか?
ご覧のように、実質賃金は1992年と比べると9割程度に下がっています。これは、消費税の導入による物価の上昇などがおもな原因です。
また、実質賃金の算出には影響していない所得税や社会保険料の金額は年々増え続けているため、手取り額はここからさらに減り続けています。
これが、多くの人が経済成長を実感できない大きな理由のひとつです。手取りが増えていないわけですから、当然です。
賃金の平均値と中央値
次は、賃金格差がどのように広がっているのかを、賃金の平均値と中央値を用いて確認してみます。
賃金には、平均値と中央値の2種類があります。平均値とは、ご存じのようにすべてを合計してその数で割った数字です。一方中央値とは、データを大きさの順に並べた時にちょうど中央になる値のことです。
たとえば、10,11,12,13,14の5つの数字を並べてみます。この場合、中央値は真ん中の12です。一方平均値は(10+11+12+13+14)÷5=12となります。
では、10,11,12,13,100の場合はどうなるでしょうか?中央値は同様に12ですが、平均値は(10+11+12+13+100)÷5≒29となります。
このことから、中央値と平均値が近ければ近いほど数字同士の格差は少なく、中央値と平均値の差が広がれば広がるほど格差が大きくなることが分かります。
これを踏まえたうえで、実際に賃金格差の推移を調べてみましょう。
賃金構造基本統計調査から平均値と中央値の差を調べてみる
厚生労働省が毎年発表している「賃金構造基本統計調査」の一般労働者賃金の平均値と中央値をグラフにしたのが下図です。これは、2004年(平成16年)の平均値と中央値の差を100とした場合、その後両者の差がどのように推移しているのかを表したものです。
ご覧のように、少しずつ平均値と中央値の差は広がっています。このことから、以下のことが分かります。
- 日本経済は徐々に回復しつつある
- その結果、私たちの給料(名目賃金)は徐々に上がっている
- しかし、私たちの可処分所得は徐々に下がっている(実質賃金の低下及び国民負担率の上昇)
- それに加え、私たちの賃金格差は徐々に広がっている(平均値と中央値の乖離が広がりつつある)
まとめ
実は、100万ドル以上の金融資産を保有している人数は日本がアメリカに次いで世界第2位の365万人で、日本の人口の約3%は世界的に見ても富裕層と言われる人々が占めています。20億円以上するタワーマンションの購入者も、大半は日本在住の日本人です。
本来は格差社会を是正するための税金や社会保険料が、所得の再分配機能を十分に果たしきれていないため、本格的な経済格差による分断が日本でも起き始めています。
こうした経済格差が深刻な問題を引き起こす前に、政府には一刻も早い対応を望みます。