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契約金の後払いは損!?大谷翔平選手が損する金額は驚愕の●●円以上!?

経済とお金のはなし 竹中 英生

契約金の後払いは損!?大谷翔平選手が損する金額は驚愕の●●円以上!?

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MLBのエンゼルスからFAとなっていた大谷翔平選手が、ドジャースと10年総額7億ドル(1ドル145円として約1015億円)で契約に合意したことが発表されました。7億ドルという金額の大きさにも驚きましたが、それ以上に驚いたのがその支払方法です。この契約金の大半が後払いで、かつ無利子だというのです。

一見良い方法にも見えますが、実はファイナンス理論的に見ると、契約金の無利子後払いは(金額だけに限って言うと)かなり損をしてしまう方法なのです。そこで本日は、大谷翔平選手が契約金を無利子後払いにした結果、いったいどれくらい損をしたのかを、ファイナンス理論に基づいて計算してみようと思います。

大谷翔平選手の契約金と年俸が後払いになるMLB事情

白線上の野球ボール
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NPB(日本野球機構)に加盟している各球団が所属選手に支払う年俸の総額には、上限が設けられていません。そのため、各球団の年俸の総額は、それぞれの経営方針や経済状況などに応じて任意で決められています。

これに対しMLBでは、各球団が支払う年俸の総額に上限が設けられており、それを超える場合は課徴金(贅沢税)を支払うように定められています。もちろん上限を超えた分に対して20~50%の税金を支払えば問題ありませんが、どの球団も税金はできるだけ抑えたいと考えるため、おおむねどの球団も年俸の総額は上限の枠内に留められています。

そのため、大谷翔平選手のように大型契約をする選手がチーム内に増えてしまうと、年俸の上限を突破しかねません。そこで、こうした大型契約をする場合には年俸の一部を後払いにして、年俸の総額が上限を超えないようにする契約がMLBでは行われているのです。

ですから、今回のように部分的に後払いにする契約自体はMLBでも珍しいことではありません。しかし、それが無利子で支払われる点が極めて異例なのです。

なお、後払いされた報酬に対する税金は、後払いを受ける際に住んでいる州に納めることになります。米国では州によって税制度や税率が違うため、将来の納税を巡りこうした支払方法を問題視する声も一部ではあがっています。

年俸が無利子後払いになると何が生じるのか

コインと時計
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では、年俸の大部分が無利子で後払いになると、いったい何が生じるのかを考えてみましょう。

無利子によって目減りする年収

年俸の大部分を無利子で後払いにすると、間違いなく金利分だけ損をすることになります。たとえば、大谷翔平選手が年俸の後払い契約をせずにその分を定期預金に預けておけば、それに応じた預金利息を貰えます。しかしながら、今回の契約では後払い分に対する金利が貰えないように設定してあるため、それに対応する金利分は損をすることになります。

また、米国では2024年1月時点でも比較的高いインフレ率を維持していますが、インフレ率が高くなればなる程物価が上がり続けるため、その分だけ大谷翔平選手が将来受け取るお金の価値は目減りしてしまいます。

ですから、大谷翔平選手が年俸を無利子後払いにしてしまうと、結果として契約時に一括で支払ってもらった場合と比較すると、実質的な年収が減ることになってしまうわけです。

お金と時間の関係

お金の価値は、時間の経過によって変化します。大谷翔平選手の年俸が良い例で、今すぐ貰う7億ドルと、10年後に貰う7億ドルとでは、金利やインフレなどの影響により、基本的に同じ価値になることはありません。

市場経済が正常に機能している限り、同じ金額であれば、必ず「現在の価値>将来の価値」となります。たとえば、今から120年前に行われた日露戦争の戦費は総額で約20億円でしたが、120年後の現在では20億円の価値が当時よりもかなり低くなっているため、今では戦車が2両買える程度の価値でしかありません。

ちなみに、将来のある時点のお金の価値を現在の価値に換算することを「現在価値に割り引く」と言い、その結果算出された現在価値のことを「割引現在価値」と言います。たとえば、100万円の価値が金利などによって1年後に105万円になるのであれば、1年後の105万円の割引現在価値は100万円となります。

この割引現在価値は投資などで頻繁に用いられる考え方ですから、大谷翔平選手の契約をきっかけに覚えておくと良いでしょう。

大谷翔平選手の年俸を現在価値に割り引いて実際の年俸を計算してみる

計算する
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では、大谷翔平選手の年俸を現在価値で割り引いた場合、実際の年俸がどれくらいになるのかを計算してみましょう。

大谷翔平選手の年俸は、上述のように10年総額で7億ドルです。1年につき7000万ドルとなりますが、実際に貰えるのは毎年各シーズンともに200万ドルです。
ただし、1年目に貰わなかった6800万ドルはその10年後に、そして2年目に貰わなかった6800万ドルもその10年後に、を10回繰り返し、合計20年間で総額7億ドルの支払いが完了します。

割引率を設定する

大谷翔平選手の年棒を現在価値に割り引くためには、割引率をどれくらいにするのかを決めなければなりません。

一般的に金融商品の現在価値を算定する際に用いられる割引率は、「無リスク金利(リスクを取らない場合の利回り)」と「リスクプレミアム(リスクに応じて期待される収益の上乗せ分)」で構成されています。たとえば、大谷翔平選手が「出来るだけリスクを取って将来価値を大きくしたい」と考えているのであれば、このリスクプレミアムは大きくなります。ですが、大谷翔平選手の言動からはそのような要素は見られないため、ここでは無リスク金利だけで割引率を設定する事とします。

無リスク金利は実務上10年ものの国債の利回りが用いられることが多いため、ここではそれを援用し、10年ものの米国債の利回りである4%を割引率に設定します。

契約年俸の割引現在価値を算出してみる

では、実際に1年目の年俸の割引現在価値を算出してみます。上述のように、1年目の年俸のうち6800万ドルに関しては10年後に支払われるように定められています。したがって、10年後の6800万ドルを割引率4%で現在価値に割り引いてみます。

なお、割引現在価値の算出に関しては、以下の算式を用います。

では、実際に計算してみましょう。10年後の価値が6800万ドル、割引率が4%、期間は10年ですから、1年目の年俸の割引現在価値は以下のようになります。

ここで算出した4595万ドルと、実際に1年目に貰う200万ドルの合計金額が、大谷翔平選手の1年目に貰う年俸の割引現在価値となります。

これを、10回繰り返すわけですから、総額7億ドルの年俸の割引現在価値は以下のようになります。

したがって、年俸を無利子後払いにした結果大谷翔平選手が損をする金額は、7億ドル-4億7950万ドル=2億2050ドル(1ドル145円として約320億円)となります。

ただし、こうした契約方式にしたことによるイメージアップや後払いによる効果(後払いの報酬は税率の安い州で受け取り税額を減らすことが可能になる等)を考えると、必ずしもこの金額通り損をするわけではありません。ひょっとしたら、損して得をとる結果になりそうな気さえします。

彼ほど誰しもが認める偉大な選手なら、そうなっても不思議ではないでしょう。