子育て世帯の「生命保険料控除拡大」って?本当に有効なの?
こんにちは、フリーランスのコピーライター、中新大地です。
岸田文雄政権が掲げる異次元の少子化対策。目下の課題は子育て世代支援の拡充にあります。
そのなかの1つとして生命保険料控除の利用限度額の引き上げが検討されています。
今回は現行の生命保険料控除制度の概要と新提案の内容、期待される効果についてご紹介します。
不十分かつ不公平と言われてきた現行制度
現在の生命保険料控除制度では、個人が支払った生命保険料に基づいて所得税から最大12万円まで控除することが可能です。しかし、この制度にはいくつかの課題があります。一つの大きな問題点は、高額な保険料を支払う世帯とそうでない世帯との間で公平性に欠けることです。
また、特に子育て世帯は教育費や生活費が増加する傾向にあり、この控除額では十分なサポートを受けられない可能性があるという指摘があります。子育て世帯は年齢が上がるにつれて教育費などの費用が増えるため、より大きな控除額が求められる状況にあります。政府の提案する控除額の引き上げは、このような家庭に対してより大きな経済的なサポートを提供することを目指しています。
しかし、その実態は大した効果がなく、子育て世代の負担軽減にはつながらないとの見方もあります。後述するモデルケースを例に考えてみましょう。
たったこれだけ?生命保険料控除上限引き上げの影響とは
現行制度では、生命保険料に基づき最大12万円の所得控除が可能ですが、提案された改正では「一般生命保険料控除」の限度額について、23歳未満の扶養親族がいる場合4万円から6万円に引き上げられる予定です。これによりほんのわずかではありますが、家計の負担が減少することになります。
ここで、夫(年収500万円会社員)、妻(専業主婦)、子(5歳)という家族構成を例に考えてみましょう。
公益財団法人生命保険文化センターによる「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」によると、世帯年収に占める保険料の割合は平均6.7%、世帯年収500万円の家庭なら33万5000円が保険料にかかっているとされます。仮に、下記の保険料を毎月払っているとすると、
・医療保険:夫/月額1万5000円
・終身型生命保険:夫/月額8000円、妻/月額5000円
※2012年1月1日以降に締結した保険契約とする
年間払込金額は33万6000円で、上述の平均保険料率にかなり近くなります。この場合、生命保険料控除の拡充前後で以下のような影響があります。
<拡充前>
所得税控除 = 8万円(生命保険料4万円 + 医療保険料4万円)
住民税控除 = 5万6000円(生命保険料2万8000円 + 医療保険料2万8000円)
<拡充後>
所得税控除 = 10万円(生命保険料6万円 + 医療保険料4万円)
住民税控除 = 5万6000円(生命保険料2万8000円 + 医療保険料2万8000円)
※拡充後の住民税の控除額は未確定のため、現行の数値を使用
所得税の控除額が2万円増加するため、所得税率が10%の場合、所得税の負担軽減額は2万円 ×10%= 2000円となります。住民税の具体的な節約額は、住民税の改正詳細により異なるため、現時点では計算できませんが、現行の控除額を基にした場合の負担軽減額は2万円 × 10% = 2000円となります。つまり現時点での概算ではありますが、年間約4000円の負担が軽減されることになります。
当初、改正案の発表は子育て世代にとって良いニュースと受け取られましたが、実際に試算してみると、4000円程度の負担軽減です。これでは子育て世代のサポートにはつながらず、大目標である少子化対策になるとは到底思えません。
税制改正による生命保険料控除の拡充は、子育て世帯全体のニーズに応えるための一歩であると同時に、さらなる支援策の必要性も浮き彫りにしているのではないでしょうか。
求められるそのほかの子育て支援策と社会的意義
生命保険料控除の引き上げ以外にも、岸田政権はさらなる改革を進めていく予定です。
住宅ローン減税では、省エネ性能に優れた新築住宅購入者に対する所得税や住民税の減税措置が継続されます。昨今の住宅価格の高騰を踏まえた重要な措置であり、子育て世帯が安心して住宅を購入できる環境を支援することが目的です。
また、児童手当の支給対象が高校生に広がることで、高校生の子供がいる世帯への経済的サポートが強化されます。これにより、高校生の子供を持つ世帯の教育費負担を軽減し、子供たちの教育の質を向上させることが期待されるでしょう。
これらの施策により、子育て世代の経済的な安定と子供たちの将来への投資に寄与することで、少子化対策にも貢献すると期待されています。
まとめ
今回提案された生命保険料控除の拡大は、子育て世代に対する経済的なサポートを担うべく計画されています。
しかし「年間で4000円程度の負担軽減では、何も変わらない」というのが正直なところでしょう。将来的な少子化対策はおろか、現在の私たちの生活へのインパクトも薄いようです。
今後は生命保険料控除の拡大のみならず、教育、保育、医療、住宅政策など、包括的なサポートを充実させるのはもちろんのこと、金額的にもさらに踏み込んだ施策の実施が求められます。